STAGE Ⅰ―14
外の喧騒で、目を覚ました。
どうやら眠ってしまっていたらしい。パルウァと探索をして、食料を見つけて……そうだ、パルウァが水浴びしてくるだのなんだのって言ってたっけ。
それで一人になって、睡魔に負けて。
……幸い、外の連中には気付かれてないらしい。気配はざっと数十はある。
随分消耗してるせいでまともに戦うことは出来ない。それに多分、外にいるのは先程の襲撃者達だろう。この試験で、こんな数の生徒が集団で行動してる訳がない。
他の3人は大丈夫だろうか。魔力も心許ないし、確認できない。
正直言って、厳しい。今更になって、学園側の生命の保証は無いと言う言葉に、怖くなってくる。
我ながらなんとも浅ましいとは思うが、なんにせよ今はここで隠れているしか無いだろう。
……誰かが助けに来ることを願って…………
あ、ありのまま今起こった事を話すぜ。僕はついさっきまでアムニス達と行動していた筈なのに、いつの間にかはぐれていた!
何を言っているのかわからねー……そんな事ないか? なにはともあれ頭がどうにかなりそうだった。
催眠術だとか超スピードだとか、そんなチャチなもんじゃあねェ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ。
何が言いたいかと言うと……
「とどのつまり、迷子になった訳だ。」
少し目を離した隙にあいつらどっか行きやがって。
そうだ僕が迷子なんじゃない。あいつらが迷子なんだ。
……つらつらと、僕は誰に話しかけているんだ?
一応、例の集落に行くつもりだったのだがあの男子生徒しか場所を知らないので、僕一人じゃたどり着けない。
どうしたもんか。
なんて悩んでいると、前方から戦闘音がするのに気づいた。
こっそり近づいてみることにする。
すると、見知った姿を見つけた。
「「あ」」
同時に彼女、パルウァも気づいたらしい。
沈黙が続く。
……気まずい……
そりゃあそうだ。昨日あんな別れ方したからなあ。
そんな事を考えていると、突如後頭部に衝撃が走った。
「あだっ!」
「う、嘘……」
パルウァが顔を真っ青にして、慌てた様な……いや違うなこれ、なんか怖がってる顔だ。
振り返って、さっき後頭部にぶつかった物を確認してみる。
槍だった。そりゃあもう、コッテコテな、槍としか表現しようのない、槍だった。
「あんた、遂に人間卒業したの?」
「……魔法だ。」
「じゃなきゃおかしいでしょ。」
じゃあなんでそんな事言ったんだよ。
今度は蔑むような目で見てくる彼女を、ジト目で睨んでみる。パルウァには効果が無いようだ!!
「というか、敵襲でしょ?」
「……あ。」
次の瞬間、僕とパルウァの左右から計4人、例の襲撃者が訪れる。
そうして、なんとも覇気のない感じで戦いは始まったのだった。
「あいつ何処行ったんだよ!!」
襲われていた男子生徒を先頭に、襲撃者達の集落を目指して約30分。あの馬鹿が迷子になってしまった。
集落の場所はこの男子生徒しか知らない為、現地での合流は出来ない。
「ケヴァ、煩い。」
思考の邪魔なので、温水に目配せして取り敢えず拘束してもらう。
男子生徒の方も、オロオロしている。
あの変態が学園側の仕掛けだとすれば、次の仕掛けもすぐに発動する筈だ。各個対応だなんて温いこと、生徒の生命を保証しない様な学校は仕掛け無いだろう。
なら、このままあいつには別行動してて貰うか。
特に心配はない。元より二手に分かれるつもりではあったし、このメンバーなら実績を鑑みて実力はアイツがずば抜けてる。
「……そうだな。このまま俺達だけで集落を目指す。」
俺達は俺達で、目の前の問題から解決しないとな……
「鬱陶しい!!」
パルウァの怒号とともに、放射状に地割れが起きる。次の瞬間には、空から剣だの槍だのが降ってきて、襲撃者の身体を狙う。
それを眺めていて思う。かっけえなぁ、と。
空から武器が降ってくるとか浪漫しかないじゃないか!!
残念なのは一切当たってないことだが……
対して僕は、襲撃者達相手に無双していた。
既に30は伸したと思うのだが、何処からともなく湧いて出る増援のせいで、流石に疲れてきていた。
「つか、エフティシア達はどうしたんだよ。」
背後で拳を振り上げる大男に、裏拳で対応しそいつで別の攻撃を防ぐ。
同時にさっきから遠距離でチクチク狙ってる奴に石をぶん投げてやる。当たらなかった……
「別行動中! 特にエフティーが1人だし、かなり消耗してる。」
めちゃくちゃヤバい状況だった。
「マジか……エフティシア何処にいる?」
「近くの廃村で休んでる筈……」
聞けば聞くほど拙い状況だな。
どうしようか……なんて考えている間にも戦闘は続く。
戦闘中に考え事が出来る程、器用でも喧嘩慣れしてるわけでもないので、当然の如く思考が上手くまとまらない。
そうして、集中力も切れてきた頃。
「…………ちょっと癪だけど……ちょっと! こっち向きなさい!!」
何か策を考えついたのか、パルウァに指示を受ける。
振り向いて、パルウァと目が合った。
初めて会った時のように。
突如、僕の脳内に溢れ出した、存在しない記憶。
「うおっ……なんだ、これ……」
「ここ数時間の、私の記憶。これで、エフティーの場所分かったでしょ。あんたが助けに行ってきなさい。」
……うん。色々言いたいことはあるけど、まあ一言言うとすれば一つだけだろう。
「魔法って、すげえ……」
「早く行きなさいって!!」
パルウァの声が木々の葉を揺らすのだった。
暫く休んだ事で、体力と魔力はある程度回復できた。
ここで助けを持っていてもしょうがない。
4人でもいっぱいいっぱいなのだ。3人でなんてとてもじゃないが助けにこれないはずだ。
今は一刻も早く合流するべきだ。
そう判断した私は、この廃村からの脱出を企む。
隠れていた天幕から少しだけ顔をだし、辺りを見渡す。
今なら行けそうだ。足元にのみ消音空間を展開し、そっと近くの藪を目指す。
見つかれば、今度こそ殺される。
慎重に、確実に。
バレそうで、怖くて、駆け出しそうになるのを堪えて、息を殺す。
一歩一歩一歩と、少しずつしか進めないのがもどかしい。
それでも、後5メートル。
背後が騒がしくなる。
どうやら仲間内で喧嘩が起きているらしい。
後4メートル。
ゴギャッ、と。骨の折れる鈍い音が響く。
身震いがした。
後3メートル。
一瞬、周囲が静かになった。
バレたかと思ったが、次の瞬間には笑い声が響いたので安心した。
残り2メートル。
目指していた藪がゴソゴソと鳴る。
中からウサギが出てきた。
後少し。
足元だけにしか作って居なかった消音空間を、全身と藪にまで拡張する。
そのままスライディングの要領で滑り込むように、藪に隠れた。
取り敢えず、一安心だった。
安堵の息を吐く。
次の瞬間。背後に気配を感じるのだった。
魔力感知、という魔法を覚えているだろうか。
僕が唯一使えていた魔法。ただ体内の魔力を感じるだけの魔法。
図書室で調べていると、それと類似する魔法を知った。
高速魔力循環。というらしい。
体内の魔力というのは、魔力路という血管のような器官を循環しているらしいのだが、それを高速で行うことで魔力の回復をほんの少し早くする事ができるらしい。
そして、その更に派生形をアルゲオ達から教えて貰った。
引誘循環、高速魔力循環を極める事で使える、要は使えない系魔法の最上位魔法である。
効果は、周囲の魔力及び魔力体を引き寄せる事。例えば、敵が変な方向に撃ってしまった攻撃魔法が軌道を捻じ曲げて、自分に向かってくるらしい。
こんな魔法使い所無いと思うだろ? 僕もついさっきまで思ってたよ。
いやまあこの魔法で試験乗り切ったわけだけど。
パルウァに記憶を受け取って、気づいたことがある。
エフティシア、パルウァたちの前だとなんかキャラ違うな。女の子同士の友情と言うやつだろうか。
僕の前では未だにお嬢様口調なのに。
いやそうじゃない。いやまあ仲いいと思ってたのは僕だけだったのかと思ってちょっと悲しくなったのは事実だが。
そうではなくて。エフティシア、葉◯ぱ隊との交戦中に周囲を監視できる的な魔法を使っていた。
もし今彼女がその魔法を使っているのなら、強制的に視線を僕の方に向けられる筈だ。
僕に気づいて貰えれば、合流が早くなるかもしれない。
いやはや、こんなゴミみたいな魔法も、役に立つもんだな。
なんて考えていると、真後ろから火球が飛んできて……
「アッツ!?」
こうして、前途多難なエフティシア救出作戦が始まったのだった。
主人公がはぐれた際の:某奇妙な冒険3章より
溢れ出した存在しない記憶:呪術な廻戦のアニメ、主人公のブラザーズより