STAGE Ⅰ―13
「こいつら、結局何だったんだ?」
葉◯ぱ隊との戦いにきっちり勝利を収めた僕は、気絶したそいつを取り敢えず縄で縛った。
ダメージは無い。俗に言う、戦いではなく一方的な蹂躙だを地で行ったためである。
「ただの変態じゃないの?」
「恐ろしいこと言うな。そんな発想、出るのもヤバいぞ。」
悍ましい事を言った温水に、ケヴァが僕の気持ちを代弁してくれた。代償としてケヴァは犬◯家よろしく地面にぶっ刺さったわけだが。
言わなくてよかった!
「まぁ、聞けば判るだろ。」
そう言うアムニスの視線は、先程葉◯ぱ隊にボコられた男子生徒を指している。
いつの間にか気絶していたが、息はしているようなので、取り敢えず一安心だ。
「……もう一つ。気になる事があるんだが……」
「なんだよ。」
恐る恐るといったかんじで声を上げるケヴァ。
「奴がお前戦ってる最中、なんか、躊躇されて無かったか?」
その発言で、一気に場の空気が凍りだす。
それは、僕も分かっていることで、でも怖くて言い出せなかった事だ。
「お前、まさか…………」
ゴクリと、生唾を呑む音が聞こえた。誰のものなのか、はたまた自分のものなのか。それすら分からない。
「……まさか、お前あいつらに同類だと思われてんじゃねえの? パンイチだから!」
それを言われて、僕は膝から崩れ落ちてしまった。
ケヴァとアムニスはゲラゲラ笑っている。ツボに入ったようで、まともに呼吸できず辛そうだ。
「お前ら、鬼か。」
温水もそんな事を言っているが、声が上擦っている。兜で見えないが、どうせ笑ってるんだろ!
そんなやりとりをしていると、件の男子生徒が目を覚ました。
「……知らない天井だ。」
時が止まった様な感覚がした。
数秒、数十秒と時間が経過していく。きっと、僕たちは今同じ事を考えているだろう。
コイツ、出来るッ!!
「君達が、俺を助けてくれたのか。」
「……そうだ。」
男子生徒の問いに答えたのはアムニスだった。続いてケヴァも口を開く。
「俺達からも質問がしたい。あれは何なんだ?」
その質問に、男子生徒は俯いて首を振った。
どうやら彼にも、あいつが何なのか分からないらしい。
「まぁ、考えられる可能性としては、学園側の仕掛けぐらいか。」
「魔法陣以外にも仕掛けが……」
「学園長の事だし、魔法陣に関してわざと生徒にバラした可能性もあるな。」
僕の考えに、皆『ああ~』という顔になる。きっと皆初日の事件を思い出しているのだろう。
「つか、なんでお前は襲われてたんだ? 他の班員は?」
全員の顔が、男子生徒に向く。
そういえば、コイツ1人だな。
嫌な考えが、脳裏をよぎった。
「……順番に話すよ。」
「ゆっくりでいいからな?」
慰めにもならない。
多分、今僕たちは、彼に酷い事をしている。
「……俺達、他の班から、食料盗もうと思って。それで散策してたんだ。……島の丁度真ん中辺りの、河辺に、そいつらの集落があって……」
集落か。そうすると、アイツは他に仲間がいることになる。
他に犠牲者が出る前に、どうにかするべきだろうか。
「それで俺達、襲おうとして……」
「分かった。もういい、ありがとう。」
俺達。複数人で襲って、返り討ちにあった訳だ。とどのつまり、他の班員は生死不明。
同学年が被害に遭っている事に、皆顔を顰めている。
「……まだだ。まだ話すことがある! あいつら――」
その鬼気迫る表情に、全員が顔を向けた。
そして、知らされたその事実に、戦慄することになる。
「あいつら、他の生徒達も襲いだしたんだ! このままじゃ全員狩られる!!」
森に、深い霧がかかっていた。
「どうなってるの?」
ついさっきまで晴れ渡っていたのが、いつの間にか霧に覆われていたのだ。
不幸中の幸いか、私達は班員が揃っている。この班ならどうとでもなるだろう。
そんな事を考えていると、広範囲に展開する事で索敵していた観測魔法で、霧の中で蠢く人影を見つけた。
「パルウァ、右に20m後に4m。」
友人のパルウァが、斜め後ろに向かって拳大の火球を放った。
「エフティー、ありがと!!」
私ことエフティシアの班は、この霧に包まれた直後から、襲撃を受けている。
それも、かなり腕の立つ者たちから。
そのおかげで、さっきからずっとこの調子だ。
因みに、エフティーは私の愛称だ。
「ダァッ、もう! ぜんっぜん当たらない!」
まただ。
贔屓目を抜いても、この優秀なメンバーが集まって出来た班が、襲撃者達を殲滅出来ない理由。
それは偏に、敵の身体能力が原因だった。
魔法の練度がパルウァレ程だと、ただの火球でも途轍もない威力と速度を持つ。
それでも、襲撃者には通用しなかった。
まるで、彼をみているようだ。
「クルム、右300mから狙撃!!」
本来索敵魔法とは特定の位置に展開する事で、そこから視覚情報を得る空間系統の魔法なのだが、今それを広範囲に展開している。
おかげで範囲外からの攻撃でも察知できるが、脳のキャパシティが追いつかない。
だからだろうか。
身体がうまく動かなくて、それで。分かっていた背後からの奇襲を避けきれなかった。
「イ゛ッ゛ッ゛……!!」
背後から、右肩から肺辺りまでグッサリいかれた。
思わず苦悶の声が漏れてしまう。
「エフティー!!」
「大丈夫!?」
痛い、熱い、怖い。
大丈夫なわけない。でも、私はそんな事言ってられない。
「ゲホッ……ゴホッ! だい、大丈夫。でも、流石に撤退する。10秒耐えて!」
皆に指示を出す。
息が上手く出来ない。肺に血が入ってゴロゴロ言ってる。凄い痛い。
それでも、空間系統の中でも中級程度の難易度である空間転移の発動には、10秒は十分だった。
きっかり10秒後、取り敢えず人気のない場所に転移した。
「ここ……何処?」
見渡すとそこは、廃村のようだった。
こんなところがあったなんて。事前に知らされて無い事を考えると、学校側も把握していないんじゃないだろうか。
「取り敢えず、休憩出来る場所ではありそうね。」
皆ボロボロだ。私が崩れてからそれなりに消耗している。少しでも早く休みたい筈だ。
その点、ここはよかった。まだ寝床が残ってるし、柵などある程度安全はある。
出血で頭は上手く回らないが、ここが安全なのはわかる。
満場一致でここを新拠点とすることが決まった。
怪我の応急処置もして、それから私達は二組に分かれた。
廃村内部を探索する2人と、周辺を探索する2人だ。
前者が私とパルウァで、後者がクルムとセティとなった。
これで一段落着いただろう。
安堵の息が漏れる。
それにしても、さっきのは何だったのだろう。すくなくとも、もう一度会いたいとは思えなかった。
「いやー悪いな。先に上がらせてもらうわ。」
ケラケラ笑いながら手札からカードを切る。それによって、手札が残り1枚になった。
「はいUNOって言ってなーい!! バ〜〜カ!!!!」
「……キレそう。」
現在僕達は、拾った男子生徒も一緒にカードゲームで遊んでいた。
こんな時に何故こんな事をしているか。
少し前に遡る。
『ぜんっぜん見つからないんだが?』
『なぁ、ほんとにさっきのが皆を襲ってんのかよ。』
2時間程歩き続けて、僕達は奴らの痕跡すら見つけられていなかった。
森の中は湿度も高く、ただでさえ暑いのにジメジメしてるとなると、皆不快感を感じるものだろう。
特に、僕が酷かった。
『あ〜ッちい〜〜。』
他よりも鋭敏な身体を持つため不快感なども感じ取りやすい。
更に、僕が気配を探知していたので、体力の消耗が半端ない。
見兼ねたアムニスが、探すのではなく誘き出す方向に切り替えたのだ。
そう。今こうしてカードゲームで騒いでいるのは、敵を誘き出す為なのだ。当然、索敵は継続している。
別に、遊んでいる訳では無い。
「さて、これでも来ないか。」
ズズズッと、アムニスが湯呑みっぽい何かで水を飲む。別に年寄り臭いなんて思っていない。
火球が飛んできた。思ってないって!
「いっそ例の集落にでも行ってみるか? 日が落ちれば奴らも寝床に戻ってくるだろ。」
静寂が、その場を支配した。
…………待ち伏せ、か。何故こんな単純な事を考えつかなかったのだろう。
なんだか負けた気がして、僕は明後日の方向に顔を向けるのだった。
おかしいですね、最初はもっと投稿頻度高かったのに。
継続力の無いnukkoをお恨み下さいへへへのへ。