STAGE Ⅰ―11
深夜。
樹上に作った簡易寝具で休んでいた俺達の耳に、悲鳴が届いた。
女性の声が2つ。どちらも聞いた事がある気がするのだが……
ケヴァと温水さんを叩き起こして、急いで外へ出た。
外には思った通り、Aクラスの級長とその友人と、そして変態が居た。
夜中にパンイチなのだ、変態呼ばわりされても仕方ないだろう。
確か2人とも、変態と同じ両部屋のメンバーだった筈だ。
きっと様子を見に来たのだろう。折角来てくれたのに、変態が出迎えてしまって申し訳ない。
他2人も気付いた様で、呆れた顔をしている。
「なあ変態。流石に女子の前でパンイチは……どうかと思うぞ。」
「変態ってまさか、僕の事言ってるんじゃ無いだろうな。……そうだよな? 僕はお前を信じてるぞ、アムニス。」
声をかけてやると、馴れ馴れしく信じているなんて言ってる変態。
僕も同類だと思われるじゃないか。やめて欲しい。
すると、見かねた温水が変態のフォローに入る。
「あんた魔法でどうにか出来ないの?」
「僕に魔法での解決を求めるとは、なんと愚かな。」
「辞めなって! 学園では魔法が使えないのは恥ずかしいことなんだよ!」
2人のやりとりに置いていかれる俺達。
なんというか、やはりこの2人は中学からの仲なのだろうと改めて実感した。
「まあ、何となく事情は分かったわ。分かりたくないけど。」
わかりたくないってなんだこの野郎。
あれから、3人に頼んでパルウァとセティを大人しくさせてもらった。
今は、6人で火を囲って話し合いの場を設けていた。僕の要望である。
3人にも状況は説明したが、2人が僕らの食料を取りに来たことは伏せてている。
きっと、これからその事実は邪魔になるので隠しておきたい。
「それで、なんで私達はこんなにもてなされているの。」
言外に、さっさと本題に入れと言われてしまった。一応敵地なんだけどね?
「そうだな。……それより、セティはどうにかならないのか?」
そう言ってセティの方に視線を向け……られない。
先程からセティが獲物を見る様な目で見てくる。目を合わせれば……やられる!!
なんていう冗談はさておき、恐らく僕もセティの中で揶揄う対象に入ってしまったのだろう。パルウァもセティの方を向こうとしない。
「寮でのカーストトップが決まってしまったわね。」
パルウァも僕も、遠い目をするのだった。
「お前等何ふざけてるんだ。さっさと本題に入れ。」
僕らがふざけていると、ケヴァからお叱りが入ってしまう。
眠いせいか、いつもより声に元気がない。本人もうつらうつらしていた。
「そうだな。パッパと終わらせよう。」
先程とはうってかわり、シリアスな空気になってしまう。
「単刀直入に言う。お前等の班と組みたい。」
僕の話を聞いて、2人は多少驚いた様子を見せた。
フッ、馬鹿共め。皆で協力すればこんな試験簡単に終わるんだよ。
「メリットが分からないわね。」
おいちょっと待て、なんで断る要素がある。さっきの驚きは『そんないい手が!』の驚きじゃ無いのかよ。
「……僕だ。温水もだが、物理に強い僕らなら十二分に食料を調達できる。4人から8人になっても、それは変わらん。」
一応、事実ではある。僕と温水なら、食料の確保が容易だ。それに僕にはサバイバルの経験もある。
結構良い取引だと思うんだが。と、思っていた時期が僕にもありました。
「……分からないのは、そっちのメリットよ。」
パルウァにジト目で睨まれてしまう。
要は、僕達のメリットが分からないから信用出来ない。とのことだろう。
他の班の食料を狙っている辺り、パルウァ達の班はそこそこ厳しいらしい。
パルウァ達だけじゃない。僕は、この島のそこかしこで略奪が起きているのを気配で感知している。
やはり、サバイバルをするには経験も心構えも、何も足りていなかったのだろう。
そりゃあそうだ。いくら有能でも15、6のガキがたった4人で無人島で生き残れなんて厳しい話だ。
命の保障はない。相変わらずフィクションの様な話に、きっと皆調子に乗っていたのだろう。
僕の班だって、僕や温水がいなければかなりピンチだった筈だ。……多分。
「僕らのメリットか。魔法への造詣という面で、お前等は僕の班より優れていると思うが?」
脱線してしまった思考を戻しつつ、パルウァの問いに返答する。
「あんた達はそれが必要なの?」
「……」
必要無い。
試練に於いて、必要なのは魔法の実力であり頭は必要無い。使えるか使えないかが重要なのだから。
綺麗に論破されてしまった。僕らにメリットがなければ、信用はしてくれないだろう。
押し黙っている僕を見て、パルウァは席を立つ。次いで、セティも立ち上がった
「おい、待っ――」
「待たないわよ。敵地でそんな事するわけないでしょ。」
敵地。
結局敵認定されてしまった訳だ。
スタスタと、早足で歩くパルウァにセティがついていく形で去っていってしまった。
僕が動けずにいると、ケヴァが両の拳で僕の頭を挟んでグリグリしてくる。
「おいコラ、俺達は必要無いみたいな言い方じゃないか!!」
「ウグぉぉぉ〜!」
こめかみに痛みが奔った訳じゃない。僕の身体はそんなに軟じゃない。
「ごめん。ごめんって。」
「許さん!」
だが、笑顔のケヴァを見て少し安堵した僕だった。
パルウァ達が去った後も、夜は続く。
僕は、まだ寝ずの番をやっているが、今度はひとりじゃない。
先程の件で目が覚めてしまったのか、温水も道連れになってくれるらしい。
パチパチと、焚き火の心地いい音を聞いて、リラックスする。
気づけば、殆どの気配は移動を辞めたり安定していた。どうやら眠ってくれたらしい。
星を見上げていると、デジャヴを感じてしまった。
「どうしたの?」
上を見上げて考え事に耽る僕を見て、温水が声をかけてくる。
「いや、なんだか既視感を感じてな。……いつこんな景色を見たのか忘れちまった。」
「……ふーん。」
なんだか不満気に声を上げた温水。
横をみると、彼女が呆れた様なジト目で見てくる。いつもと若干違うジト目。この目は怒ってる時の目だ。
「えぇ……なんだよ。なんだその反応。」
本当に意味不明である。
いや、彼女からすれば何かあるのだろうが、僕にはさっぱり分からない。僕はエスパーじゃないんだぞ。
「う〜ん?」
彼女が怒ってるのは星空に何かあると考えた僕は、温水と星空に共通している何かを探し出す。
「あ〜。」
そして、その考えはどうやら当たりだったらしい。
「あれか。お前と初めてあった時の。」
「……厳密には、会ったのは初めてじゃないけどね。」
「それまでまともに話してなかったし、そんな変わんないだろ。」
声のトーンが気持ちだけ上がる。機嫌を直してくれたらしい。それどころか、少しばかりご機嫌だ。
「懐かしいな。もう2年たったのか。」
「それ、オジサン臭いよ。」
「酷ぇなおい。」
そんなやりとりをして、ケラケラと笑う僕。
温水も微笑を浮かべている。兜で顔が見づらいが僕には分かるぞ。
「あの時はビビったな。夜中学校の前通ったら、同級生が落下少女やってんだから。」
そう言って、僕は過去を振り返る。
懐かしいな。もう2年も立つのか。温水が自殺しようとしてから。
短めですいません。キリのいい終わりがここしかなかったものでして。
『頑張れ魔王様!』と言う作品も投稿を始めました。
こっちの物語とは大分作風が違いますが、そちらも是非楽しんで頂けたら幸いです。
どうせnukkoは夏休みで暇してるので、投稿頻度には影響は無いはずです。多分。
温水「辞めなって! 学園では魔法が使えないのは恥ずかしいことなんだよ!」:BlueなArchiveの二次創作より