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灰燼に帰す  作者: nukko67
13/17

STAGE Ⅰ―10

 温水に呼び出されて、僕はフェリーの甲板迄来ていた。


 見上げれば、青空が広がっていた。


「……で、何のようだ?」


 早速本番に入らせてもらうとしよう。このままだと真っ黒なヤバいヤツが出てきそうな気がする。


「あのさ……」


 少し言いづらそうにしている温水。

 黙って聞いているが、視線が合わず、口籠っている。


 ……はっ!!

 甲板には今誰も居ない、僕と温水の2人きり。温水の態度。そしてなによりこの雰囲気。

 これはまさか、告白されるのでは!?


 そうだきっとそうに違いない!! そう考えるとなんだか温水が可愛いく見えてきたぞ。これが音に聞くギャップ萌えってやつか!!


 温水がゆっくりと口を開く。

 心臓の音が煩い。そんなだと温水の言葉が聞こえないかもしれないだろ!

 止まれ。心臓の音!!


「……あのさ、今から一緒にサバイバルする相手に言うことじゃないけど――」


 ほら見ろ絶対そうだ!

 よ、よし。こういう時こそ男を見せてドモらずにいくんだ。


「――高校に入ってもずっと同じチョーカーつけてんのは、どうかと思うよ。」


 世界から、音が消えた。目がチカチカする。


 告白じゃ、ない?

 いや、まぁ? 知ってたけど? 知ってたから別にショックじゃないし?


「……ちょっと、どしたの?」


 温水の言葉で、意識が現実に引き戻される。


「お、おう。チョーカーな。……って言われてもな。」


 自分の首筋に触れる。

 人差し指と中指に、硬い感触が伝わった。


 黒を基調としていて、なんか変な形の飾りが一つついている。


 このチョーカー。物心ついた頃から既につけていた物で、今更外すとなるとかなり抵抗があったりする。


「まあいいけど……そろそろ本題に入ろう。」


 なんとか外すのは免れたようだ。

 つか本題じゃ無かったのかよ。さっきまで僕の緊張を返せ。男心を弄びやがって。


「……何その顔。」


 おっといけない、僕としたことが顔に出ていたらしい。もっとボーカーフェイスを心がけねば。


「いや、なんでもない。それより早く本題に入ってくれ。島に着くまでどのくらい時間が掛かるかわからんし、今の内にやれることはやっておきたいからな。」


「うん、そうだね。」


 その瞬間、一気に温水の顔が険しくなる。

 それを見た僕も何かあると感じ、必然的に周囲への警戒を強くする。


「実は――」




「青い海!!」


 右隣から声が聞こえた。

 眼前に広がる透き通った青色の海を見つめた。


「白いビーチ!!」


 今度は左からだ。

 踏みしめた、綺麗な砂浜に目を向けた。


「やってきました、無人島!!」


 今度は何処からか分からない。

 いつの間にか、両腕を目一杯に広げていた。

 あぁ、そうか。最後の声は――


 次の瞬間。後ろから強い衝撃を受けて、僕は大いなる海に抱かれた。


「何やってんの、あんた達……」


 微かに、温水の呆れたような声と、アムニスとケヴァ2人の笑い声が聞こえた。


 因みにだが、温水は今兜を被っていて表情が見えなかったりする。だから顔は見えないが、それでも今どんな顔してるか想像できるのは、長い付き合いだからだろう。


 最初はどうなることかと思ったが、アムニスもケヴァも、意外にも温水と馬が合うようでここに着く頃には随分仲良くなっていた。

 おかしいな、僕は温水と仲良くなるのに3ヶ月ぐらい掛かったんだけど……


 水面にプカプカ浮いていると、急に身体が宙に持ち上げられた。

 誰かの腕に掴まれている感覚はない。


「相変わらず君は、何やってるんだ。」


 吐いた言葉とは裏腹に、その声には喜色が混じっている。

 その声には聞き馴染みがあった。


「後ろから押されたんだ。俺は悪くない。」


 空中でクルリと反転して、声のした方向に身体を向ける。そこには、いつも通りの学園長が居た。


「押したんじゃない。ドロップキックだ。」


「ねぇ待ってそこ訂正する必要あった?」


 そこ訂正したって、余計僕が傷つくだけじゃない?


「そんな調子で、3日間生き残れるのかい? まだ始まったばかりだろう?」


 学園長の言う通り、既に試練は始まっていた。


 ほんの数分前迄は同じ学年の奴らも居たのだが、皆もう奥に入ってしまった。

 完全に出遅れている。


「食料より先に、島の全体像をある程度把握しておきたい。ってのがうちの班の結論なんでな。」


 僕らが出遅れている理由はこれだ。


 試練開始前に、一応生徒達には、島には森、海岸、山、それから川がいくつかある事が伝えられている。


 しかし、その程度の情報では足りない事を僕達は知っていた。

 いつソレが起こるか分からないので、出来るだけ早く、出来るだけ詳しくこの島についての情報を得たかったのだ。


「……まあいいけど。それじゃ頑張んなよ。」


 それだけ言って学園長は背中を向けた……なんてことはなかった。


 僕達がこれで終わりだと思い、背を向けて去ろうと……去ろうと、去ろ…………出来ない!!


 僕は学園長によって空中に固定されているので、クルクル回ることはできても、移動は出来なかった。


「なにこれで終わりだと思ってるんだい?」


 学園長の声が響く。

 後ろを向いているので、見えていない筈なのに、学園長のニマニマした笑みを見てしまう。


「これでも私は教師だからね、このままだと風邪を引きそうな生徒を放っておく訳にはいかないんだ。」


 こ、こいつまさかッ!!


「あ~れ~!」


 虚しく、僕の声が響く。


 帯回しが如く、魔法でなす術なく僕は脱がされてしまった。一応パンツとチョーカーは無事なのでギリギリセーフではあったが……


「随分いい身体してるじゃないか。常時それでいいんじゃないかい?」


「「……」」


 もはや、誰も何も言えなかった。


 僕達には、そそくさと退散するしか道は残されて居なかったのだ。


 後ろから、学園長の声援が届く。

 僕は静かに、学園長への復讐を決意するのであった。




 試練が始まって数時間が経過した。既に太陽は沈みかけている。


 ようやく島の全体像を把握した僕らは、食料と寝床の確保を急いでいた。


 食料確保組と寝床確保組に半分ずつ分かれている。


「いや、あのさ。一つ言っていいか?」


 僕は食料確保組だった。


「……」


 相方は温水である。


「流石に絵面ヤバくないか?」


「……」


 傍から見ればパンイチの男1人と性別不詳の白騎士。

 明らかにヤバい奴らである。


 黙っているのをみるに、温水も同じ意見なのだろう。


 僕が食べられそうな植物を見つけて、温水が魔法で収納する。念の為食べられるかどうか、魔法で探知してもらってもいる。

 時々猪っぽいやつや鹿っぽいやつが突進してくるので、そのまま頭を握り潰して血と内臓も抜いて、という作業も行う。

 頭を握り潰した際に、温水がドン引きしたような顔をしていたのは気のせいだろう。


 そんな事を繰り返して夜を迎えた頃、寝床確保組とも合流した。

 2人はどうやら、樹上に良さげな場所を見つけたらしい。


「……でさ。」


 一段落ついて落ち着いた頃、ケヴァが話しかけてくる。


「どした?」


「……」


 返事がない。

 疑問に思っていると、森に大声が響いた。


「どうしたもこうしたもあるかよ!! 何、お前らずっとその格好で狩りしてたの!?」


「そうだけど……なんだよ。」


「はぁ、お前! だから全然肉取れてねえんだよ、動物だってお前等みてぇなのには寄ってこねえんだよ!!」


「んだとお前!! 言ったなおい! 同じ格好にして蓑虫みたく吊り下げてやるよ!!」


 ちょっと気にしてることいいやがって。


 なんてやり取りを僕とケヴァがしているそのすぐ横でアムニスと温水が生暖かい目で見てくる。


 僕とケヴァがこんな感じでじゃれ合うのも初めてじゃ無いのでアムニスは止めないし、温水も何となく察しているのだろう。


 温水と再開した時、こいつ変わったなとか思っていたが、そんな事は無かったらしい。

 確かに服装は大分変わったし、口数も減ったが、本質は変わって無かったようだ。そう感じて、ちょっと安心したのは、気の所為では無いはずだ。




 夜中。

 僕は、飯を焦がした罰として見張りをしていた。ヤバそうな動物が来れば、明日の朝ご飯になってもらう予定だ。


 因みに焦げた料理は僕の胃袋に収まった。お陰様で口の中が気持ち悪い。


 ぼんやりと、焚き火を見つめる。

 樹上で焚き火とか大丈夫かとも思ったが、アムニスが出汁を取った骨で簡易焚き火台を作ってくれた。

 マジかっけぇ。


 そんな事を考えていると、茂みから拳大の石が飛んできた。

 回避し、傍にあった薪を蹴り飛ばして応戦する。

 我ながら完璧な動きだ、惚れ惚れしちゃうね。随分と前から近付いてくる気配は感知していたので対応は容易だった。


 薪は狙い通りの場所で飛んだ。結果、甲高い悲鳴が2つ聞こえる。

 1つは茂みから。もう一つは肉を干していた場所から。恐らく陽動だったのだろう。最近の獣は賢いな。


 うん? 悲鳴?

 獣は死んだってこんな悲鳴はあげない。何よりあの速度で、狙い通り飛んでった攻撃を受けて生きている筈がない。

 それこそ、事前に防御魔法でも展開してなければ。


 ゆっくりと、茂みの奥からソイツらが正体を現した。


「はぁ。アンタ規格外過ぎ……」


 パルウァだった。オマケにもう一つの方はセティだ。


 2人が目を見開いた。

 どうしたというのだろう。


 次の瞬間、再び悲鳴が聞こえた。

 例えるならそう、露出狂に遭遇したような。


 ああ、そっか。

 僕今、パンイチだった。

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