STAGE Ⅰ―9
実技試験当日。
初日は魔法の練度を確認する。このテストにおいて、僕にとって最難関のテストだ。
だが、僕も今日この日の為に魔法をしっかり使えるようにしてきたのだ!
まだ練度は低いが、零点よりかはマシな筈である。筆記試験の方は自信があるので取り敢えず零点でなければいいのだ。
ホームルーム前、自席でそんな事を考えていると、見知った顔が視界に入る。
「お前、大丈夫かよ……」
今にも死にそうな顔をして登校してきたケヴァだった。
「……大丈夫に見えるか…………う゛ッ」
「……どうしたんだよ。」
「……二日酔い。」
馬鹿じゃねえの?
危ない危ない。危うく声に出しそうだった。
「未成年が酒なんて飲むからだ。」
「……学園長に一服盛られた。」
「あぁ……」
学園長に一服盛られた。それに僕が強くツッコま無かったのは前例があるからだ。
エフティシアという……
後から皆に聞くと酒飲んだやつは全員、学園長に盛られただの、いつの間にか口に酒瓶咥えさせられていただの、挙句の果てには学園長に酒瓶押し付けられて、イッキコールされたらしい。
「そもそも、まだ試験終わってないのに打ち上げってなんだよ。」
「そりゃあだってお前、生き残れるか分からないからな。先輩たちもやってる恒例行事だ。」
いつの間にか登校してきたアムニスが答える。どうやらアムニスの方は問題ないらしい。
……アムニスの方がケヴァより酒飲んで無かったか?
「……試験って、命の保障、無いの?」
まさかと思い、恐る恐る聞いてみる。
「無い。」
即否定されてしまった。
おいちょっと待て。色々問題だろコレふざけんな。
「聞いてないんだけど。」
「言っても言わなくても変わらんだろ。」
「えぇ……」
明日以降は無人島生活だ。
恐らく今回の定期試験で最も危険な試験だ。当然、死傷率も高いだろう。
深い溜め息をついて、憂鬱になる今日この頃であった。
「それじゃ、全員生きて帰って来ること!」
朝。パルウァの声が響く。
ここは港、ここから学校が管理する無人島へいくらしい。そこで、僕の寮部屋のメンバーが集まっていた。
すぐ真横に、豪華客船顔負けのフェリー。いつもなら驚いていたんだろうがもう流石に今更驚けない。
「ちょっと聞いてんの、ハゲ!」
「ハゲてねえよ!」
フッサフサだろうが。しかし、聞き流していたのも事実なので強く言えない。
「……誰に言ってるんだ? この僕だぞ。」
少しばかりイタい発言かもしれないが、コイツらを安心させてやるために人肌脱いでやろうと思ったのだ。
僕やっさしー!
「でもアンタ決勝戦で負けてるじゃない。」
「グハッ!」
僕今多分良いこと言ったよな?
解せぬ。
しかも、痛いところついてきやがって。
決勝戦。リンチ。何の決勝戦かは言うまい。
「う、うぅ……」
呻く僕を尻目に、3人は話を続ける。
「素直じゃないですね~。」
こんな時も変わらず、ニコニコしているセティ。
「私、知ってますよ! ツンデレって奴ですね。」
「違うわ!」
こっちもいつも通りなクルムに、パルウァが反論する。
……僕も多分違うと思うなぁ……
しかし、パルウァも僕に対する当たり方がいつの間にか変わってきた。
最初はおもっきしヤンキーだったのに、今じゃコレである。いつからそんなになってしまったのやら。……例の決勝戦から?
やがて、教師陣がフェリーに乗り込むよう促してくる。
フェリーに乗ってすぐ、部屋に案内された。
その部屋で自分の班員と合流するらしい。
僕の班員はまだ来ていない。
まあ、気長に待つこととしよう。
待つこと数分。
部屋には全員が揃っていた。
僕に、アムニス、ケヴァそして、紅一点の少女。
ありがちな炎よりも、花弁と称す方が正しい鮮やかな赤色をした短髪。顔立ちは幼く、俗に言う可愛い系というやつだ。
何より、特徴的なその格好である。
――純白の鎧。例えるならそう、御伽噺の聖騎士の様な、そんな格好。
「「……」」
4人も集まった部屋で無言が続く。
流石にこの学校でも、鎧は許容範囲外らしい。比較的コミュ力の高いケヴァでさえ黙りこくっている。黒のローブとかドレスもそんな変わらない気がするが……
そんな中ついに沈黙は破られた。
「ああ、えっと……まず、自己紹介から入ろうぜ。4人で生き残るなら役割分担は必須だ。その時、互いの得意不得意が分かってないのは拙いだろ。」
アムニスである。
苦笑混じりの言葉にケヴァが頷く。
さすがアムニス! ぼくたちにできないことを平然とやってのけるッ! そこにシビれる! あこがれるゥ!
「取り敢えず、俺からだ。」
なんと、アムニスは先陣も切ってくれるらしい。一瞬だけ僕に鋭い視線を向けた気がするが気のせいだろう。
「名前は皆知ってるからいいとして、得意なのは精神作用の魔法だ。運動は苦手だから力仕事は勘弁してほしいな。」
言い終わって、その視線が僕のほうを向く。
え、僕?
「まあちょっと待てよ。自慢じゃ無いが、僕って結構有名人だと思うんだ。だから自己紹介とか僕は要らないんじゃないかなって。」
端から見れば、完全にチキン野郎だった。
ハイそうです。僕は3人、うち2人が知り合いだったとしても他人の前で自己紹介とか日和るチキン野郎です。
だってなんだか自分の事語るって、恥ずかしいじゃ無いか。
「煩い、さっさとやれ。」
「ハイ。」
そこで、例の聖騎士少女が口を開いた。一応僕だけはコイツと接点があると言えばあるので、その分コイツは僕に対して当たりが強い。
そして僕も、コイツに逆らえない事を重々承知しているので渋々言うことを聞くしかないのだ。
「得意なのは、というか魔法以外は基本出来る。」
「お前、そんな有能か?」
ケヴァが僕に対して訝しげな視線を向ける。
「失礼だな。これでもサバイバル経験だってあるんだぞ。」
嘘ではないし、別にゲームでのサバイバルとか下らないオチでもない。僕には本当にサバイバルの経験があった。
懐かしいな……家族で山に行った時迷子になって、結局1週間ぐらいサバイバルしていたなぁ。
僕が遠い目をしているのに気づいて、ケヴァも口を噤んだ。
「さて、次はお前の番だぞ。」
「あ、ああ。」
何時までも停滞したままじゃ駄目なので、僕からケヴァに自己紹介を促す。
「得意なのは火炎系の魔法だが、四元素の魔法ならある程度使える。他はまるっきり駄目だけどな!」
ケラケラ笑うケヴァだが、彼以外気まずい雰囲気を感じ取っている。
良いこと教えてやるよケヴァ。自虐ネタは初対面の相手に対しては逆効果なんだぜ。
アムニスが咳払いして、自己紹介は仕切り直される。
「お前の番だぞ。」
言って、聖騎士モドキに視線を向ける。
彼女の方は僕経由でアムニスとケヴァの名前を知っていたが、アムニスとケヴァ達の方は彼女の名前を知らない。
「……温水、綾香。幻影系の魔法は得意。他はそこそこ。」
温水綾香。僕の、中学の時の同級生だ。
この学園に来ていたのをつい先日知ったのだ。
中学の時色々あったのもあって、男3女1人だが意外とすんなり参加してくれた。
ただし、彼女自身には余り協調性はない。
どうしたものかと悩んでいると、温水が僕についてきてとだけ言って部屋をでていってしまう。
3人で首を傾げながら、僕も部屋を出るのだった。