STAGE Ⅰ―8
注意
未成年が飲酒するシーンがあります。
筆者に犯罪を助長する意図はありません。苦手な方は閲覧しない事をお勧めします。
定期試験前日の夜。
時計の両の針が天辺を指して少し経った頃。僕はリビングのソファーで思考に耽っていた。
一応僕らの班も、4人目のメンバーが決まった。
殆ど面識が無いので心配ではあるが……
一昨日、学校から試練の内容を聞かされた。
「無人島で3日間生き残れ……って、学生に課すものじゃないだろ……」
ボソリと、思考が外に漏れてしまった。他の奴らは既に寝室で寝ているので、聞かれては居ないだろう。
学校から聞かされた試験の内容は、至って単純だった。無人島で3日間生き延びよと。
幸いな事に、マンガや小説と違ってバトロワ形式じゃ無いので、他の班と協力する事も出来る。
ただ、うちの学校が、主にうちの学園長がそんな、ただ生き残るだけの試験を出すとは到底思えなかった。
普通の学生からすればこの内容は大変だと思うのだが、残念ながらここは魔法学校。在籍する生徒は当然のように魔法を使う。
僕の魔力探知だって一応魔法の類ではあるからな!! 一応最近になってようやく、他にも2つの魔法を覚えたのだが。
要するに、魔法学校なんだから魔法学校っぽい試験のはずだ。このままじゃ何処ぞの武闘派学校である。
無人島で魔法といえば、魔獣とかだろうか。なんて頭を悩ませていると廊下に繋がる扉が開いた。
扉の奥にいるのは、寝巻姿のパルウァ……ではなくルティであった。
パルウァも、最近は魔法の練習を頑張っていて、ぶっ倒れるまでやるのでよくルティと変わる。
「ルティか。どうした?」
「いえ、ただ喉が渇いただけなので。」
「ああ。」
コポコポと、コップに水が注がれる小気味良い音が響く。
天井を見上げて、再び思考の海に飛び込もうとしたが、真横に気配を感じ中断する。
いつの間にかルティがすぐ側にいた。
「……なんだ?」
「あ、いえ、何かあるわけじゃなくて……」
そこまで言って、言葉に詰まるルティ。
言いたいことを察して、再び天井を見上げた。
思えば、ルティとは他の奴らと違って、余り関わることがなかった。普段出てこないので当然と言えば当然なのだが。
左腕に、柔らかくて暖かい感触が伝わる。
だと言うのに、ルティとの好感度が妙に高い。ルティから僕へのも、僕からルティへのも。まるでずっと前から知っていたような。
見上げた天井の、シーリングライトが眩しくて、目がチカチカする。
そっと、目を閉じた。
「ルティ。一つ聞いていいか?」
「……なんですか?」
ほんの少し逡巡して、一泊をおいて、告げた。
「お前、僕の事を知っていたか?」
今知っているのかではなく、高校に入る前から。意図を理解してくれたかは分からないが、返答は無い。
横目で確認すると、スヤスヤと寝てしまっていた。
このタイミングで寝るかよ普通。殴りてえ……
鼻を摘んで見ても起きる気配はなく、苦しそうに顔を動かすだけなので本当に寝ているのだろう。
深い溜め息をついて、僕も目を閉じたのだった。
翌日からの3日間の筆記試験を難なく終えた僕は、打ち上げとか言われて、あの街のあの酒場に再び足を踏み入れていた。
いや、踏み入れていたというのは語弊があるな。
正確には踏み入れたのではなく投げ込まれたのだから。
元来僕はこういう打ち上げ等には参加しないタチだ。
ただ、その事をパルウァが知ると……
『アンタ頭湧いてんの? こういうのって全員こなきゃ意味ないのよ。』
とか言ってきた。全く酷い話である。
それでも僕が渋ると、ついにキレたパルウァが僕を魔法で拘束し店の前まで引き摺ってきたあと、ジャイアントスイングの要領で店内に投げ飛ばしたのだ。
拘束されていたとは言え僕を無理矢理動かすなんて至難の技なので、十中八九魔法で身体能力を強化したのだろう。
げに恐るるべきはやはり魔法なのだろう。
僕もはやく使えるようになりたい。
そんなこんなで連れてこられた酒場には、うちの学園の同学年が全員集合していた。恐らく……
少なくともFクラスの奴は全員来ている。
「暇なの、お前ら?」
開口一番にそんな水を指すような事を言う僕。思わず言ってしまった。
しかしそんな僕を見てニマニマと笑うクラスメイト。
聞けば、僕も口角が上がっていたらしい。ツンデレなんて茶化してきた奴は……きっと、お空の上から僕らを見守ってくれているだろう。
僕が酒場に到着して約10分後。
学園長が皆の前にたった。誰だ打ち上げに教師呼んだやつ。
「それでは諸君、今宵は無礼講で結構。カンパ〜イ!」
なんて柄にもないことをする学園長。声に覇気がなかったのは、きっと気のせいだろう。
気にする方が野暮というやつである。
「「カンパ〜イ!!」」
学園長の音頭に合わせて、皆が声を上げた。僕も合わせてオレンジジュースの入ったグラスを掲げる。
喧騒が今日の夜を支配する。
そんななか僕は、ツマミで寂しくなった口を紛らわせて、乾いてもない喉をオレンジジュースで満たしていた。
傍らでは、アムニスとケヴァが横になってスヤスヤ寝ている。曰く、場に酔って酒を飲みやがったらしい。
独り寂しくチビチビ飲んでいると、隣に学園長が座ってくる。
マジで誰だコイツ呼んだの。
「隣、いいかな?」
「駄目だ。あとそういうのは座る前に聞くもんだ。」
「君に拒否権は無いからね。事後承諾を求めただけで十分過ぎる程だろう?」
などとふざけた事をぬかす学園長。
思わず一発殴りそうになってしまったじゃないか。
「全く。この打ち上げについて事前に説明せず連れてきただけで、ピーチクパーチク騒いで、私の時間を奪った教師達にはガッカリだ。」
ヤレヤレといった様子で肩を竦めた学園長。
「で、何のようだ?」
「……何故君はオレンジジュースばかり飲むんだ? コーラやメロンソーダの方が美味しいと思うのだが。」
学園長の言葉に、目を細めて反論する。
「いやいや、オレンジジュースこそ至高だろ。」
産まれてこの方、こっちは水と麦茶と牛乳とオレンジジュースで育ってきてるのだ。そんな僕に向かって他を勧めるだと?
いい度胸だ、宣戦布告と受け取っておこう。
「おや、母親の母乳は飲んでないのかい?」
「しれっと思考を読むな。」
僕のプライバシーとかどうなっているのだろうか。
「そんなもの、あるわけ無いだろう? 随分冗談が上手くなったな。」
「……で、結局何しに来たんだ?」
ケラケラと笑う学園長を無視して、質問を繰り出す。僕はもう、ツッコまない。
「なに、飲み比べでもしようと思ってな。」
「……スマン。もう一回いいか?」
「今時、難聴系ヒロインは流行らんぞ。飲み比べしようと言ったんだ。」
「頭湧いてんのかお前。」
何を言ってるんだコイツは。
未成年に酒を飲ませる気か? 少なくとも教師が、よりによって自分の生徒にすることじゃ無いだろう。
「失礼だな、純愛だよ。」
なんてことをカッコつけて言う学園長。
ホントに何を言ってるんだコイツは。
つか、それについてはもう言いたいだけだろ。
「僕、未成年だからな?」
「まあまあ細かいことはいいじゃないか。」
普段あんた結構細かいこと気にするだろ。
もう酔ってしまっているのだろう。
「ほらほら。私が注いでやるんだから飲め。」
そう言って僕のグラスに自分のグラスに入ったエールビールを注ぐ学園長。
元々入っていたオレンジジュースと混ざってしまっている。まずおいしくは無いだろう。
「おいふざけんな馬鹿野郎。」
「なんだと、私の注いだ酒が飲めないか?」
完全にアルハラである。
厄介な。等と思っていると、怒った学園長が自分のグラスを押し付けて、中身を流し込んでくる。
抵抗しても魔法でどうにかされてしまうだろうし、その場合グラスの中身が床にぶち撒けられる可能性もあるので下手に動くのすら憚られる。
僕は学園長と違って食べ物を大事にするのだ。
されるがままに酒を飲んでいると、満足したのか学園長はようやくグラスを引っ込める。
「うんうんいい飲みっぷりだ。」
笑顔で頷きながら、自らも酒を仰ぐ学園長。
暫く付き合ってやると、学園長もまた、側にいる馬鹿共と同じ様に横になって寝てしまった。
酔っぱらいに付き合わされた挙句ソイツも介抱しなくちゃいけないのか僕は。
天を仰ぎ、理不尽な世界を恨む僕であった。
3人の側で再びチビチビと飲み始めた僕に、またしても刺客が訪れた。
「何のようだ、エフティシア。」
僕の目の前に、金髪の美少女。うちのクラスの級長、エフティシア・C・リバーである。
しかも、顔を真っ赤にしてベロンベロンに酔った状態の。凄く酒臭い。
「なんでお前まで酒飲んでいるんだ。」
「うへぇ、ヒック。……そんら邪険に扱わらいでくらはいよぉ……ヒック。」
呂律も回らなくなったのか。
きっと、コイツも僕が介抱することになるんだろうなぁ。なんて、少し憂鬱になるのだった。
更新が遅くなってすいませんドゲザー
私生活の諸々で時間がなかったんです。はい、理由になって無いですね。
読んで頂ける人が居なくても完結はさせるつもりなので、読んで頂けるという神は気長に待って頂けると幸いです。
学園長「失礼だな、純愛だよ。」:某呪う漫画第零巻より。
追加
めちゃくちゃタイトル間違えてました。お許し下さい