STAGE Ⅰ―1
注意
この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
まだ3月だってのに妙に蒸し暑い。本当に春なのかと疑うくらいには。
転寝をしていた男は、寝苦しさを感じて目を覚ます。
僕はどんな夢を見ていただろうか。
ふと見上げると、頭上の窓から暖かい陽光が差し込んでいる。
春の暖かい気を感じたせいか、先程迄蒸し暑さにうんざりしていたのも忘れて、男は再び淡い夢を見ることにした。
「だからよ、そういう大切な事はもっと早く言えよ!」
3月下旬、春の長期休暇も後半に差し掛かったこの時期に、嘆きと少しの苛立ちを込めて声を荒げて居るのは僕だった。
おかしいと思ったんだ、うちの両親がこの時期にキャンピングカーまで用意して、わざわざ遠出するなんて。
白いテーブルを挟んで対面に座る両親はニコニコと表情を変えない。
「お前なら大丈夫だ。多分!」
ケラケラと笑いながら、サムズアップしてくる父。
確かに、きっと今回も大丈夫だろうとは思う。慢心ではなく経験による自信だ。
こんな両親に振り回されて今日まで生きてきたし、僕には奥の手もある。
ある程度の無茶振りには応えられる。
だからといって許すかどうかは別だが。
……そして、それをなあなあにして許してしまう僕も同罪である。
「はぁ……それで、いつ始まるんだ? 新学期は。」
「ほらねパパ。私達の息子なんだから大丈夫って言ったでしょ?」
大丈夫じゃないがな? という言葉は、心の内に留めておく。
どの家庭でも怒らせると面倒なのは母である。
母は強いのだ。
そもそもなんでこんな事になっているのか。それはさっき、父が話があると僕を呼び出したところ迄遡る。
『話って?』
『ああ。お前4月から1人暮らしな。』
『…は?』
いきなり放られた言葉に対して、なんとか絞り出せたのは、そんな素っ頓狂な声だけだった。
思い出したら余計にイライラしてきたんだが。
それに、僕をここまでさせたのは次の1言にある。
父曰く、僕が入学する高校が変更になったとのこと。
そもそも、その高校が遠いので引っ越すことになったらしいのだが。
両親はどうやらその地域では不満らしく僕だけ送って自分達は今の家にいるらしい。
「それで、結局いつなんだ。新学期は。」
「1週間後だ。」
「必要なものは?」
「私達で既に用意している。」
珍しい。僕の両親がそこまでやってくれるなんて。
結構いい学校に行けたのを、自分達の事情で勝手に変えたのは流石に罪悪感があるのか。
それともまた別の理由があるのか。
明日引っ越し先の物件を見に行くということで話が纏まったところで、話し合いは終わった。
そして、ついに来てしまった入学式の日。
朝起きて、朝食を口に運び、新品の制服に身を包み、母に伝えられた様に道を歩く。
というか、田舎すぎやしないか?
僕を取り囲むのは草木や畑ばかりで、人の姿どころか家などのまともな建造物も見えない。
新居がある場所はそこそこ発展しているというのに、少し歩くだけでこの有様だ。
本当にこんなとこに高校なんてあるのだろうか。
なんて考えていると、突然浮遊感を感じる。
「おわっ!」
突然のことで驚いてしまったが、気づいたときには周囲の様子が一変していた。
まず目に入ってきたのは大勢の人、人、人。
ほんの数秒前は人っ子一人見れなかったというのに。
特筆すべきは人々の服装だ。
ローブやドレス、ワンピースなど多種多様で、少ないが王冠を被ったり制服や軍服を着てる人もいる。
先程とは似ても似つかない程の人の量。
しかし、道が広いため人口密度はそこまで高くない。
ピカピカの白いタイルで造られた道や柱、屋根はステンドグラスになっていた。遠くには噴水も見える。
気になるのはここが何処なのかということ。入学当日から遅刻なんて溜まったもんじゃない。
が、僕にはどうすることも出来ないのも事実。
周りの人に話しかけられればいいのだが、あいにく僕には平日堂々と仮装している奴らに話し掛ける勇気はない。
暫く立ち止まっているとある事に気づいた。
視界に入っているほぼ全員が、同年代なのだ。それも僕と同じ。
嫌な予感がした。
その予感を信じて人の流れに沿って暫く進むと、やがて大きな門が見える。
「……マジ?」
思わず声が漏れた。
掲げてある校名はヴィレ・セカンド学園。
僕が今日から通う学校である。
信じたくない現実であったが、残念な事に確かな事実であるため、ここで足踏みしているわけには行かない。
進む事を拒む足を無理矢理動かし、一部の人が集まる中庭へ向かう。
母曰く、どうやらクラス発表は9時から中庭で行われるらしい。
現在時刻は8時50分。もう少しで始まる予定だ。
周りを見渡してみれば、友人と一緒に進学してきた人も多いらしくそこらから駄弁り声が聞こえる。
だが生憎僕には話し掛ける友人なんていやしないので、ボッチを極めるしかない。
仲間内で話してるとこに混ざりに行くなんて、そんな事出来るやつは僕は1人しか知らない。あ、いやもう1人居たな。
ともかく、そんなコミュ強共のような事は僕には出来ない。
せめてクラスで友人を作れればいいのだが。
なんてしょぼくれていると、何処かから鐘がなる。典型的な、『ウェストミンスター』だ。
鐘が鳴り終わると同時に、中庭の中心空中5メートル程の所に人が現れる。
落ち着いた雰囲気の若い女であった。
ザワザワと、周囲が一層騒がしくなる。中には歓声を上げるものもいた。
……ん?
「浮いてる!!?」
思わず目を見開く。
まさしく目が点になるというやつである。ホログラムであろうか?
騒がしい新入生達を見下ろし、現れた女が話し始める。
「あ〜コホン。まずは、あいさつだな。おはよう諸君、私は学園長のアモル。アモル・T・トードだ。是非アモル先生と呼んでくれ。」
ふざけてるのか?
アモル・T・トード。この世界の西洋の御伽話に出てくる存在だ。
約200年前の戦争で世界は1つの国家に纏められた。
当然、西洋地方の文化も入って来やすくなる。
お陰で日本地方で産まれた僕でも知っているような有名な名前だ。
明らかな偽名。
ただその一方、疑えない僕もいた。
これがカリスマと言うやつだろうか。
その後も学園長による長ったらしい話は進み、ようやくクラス発表が始まる。
今年の新入生のクラスは、AからFの6クラス。
5人の教師が現れ、一人一人生徒を呼び出しその場で伝えている。アナログとかそれどころの話じゃない。
なんだこれ。ここにいる全員分それやるのか?
周りの人間を見てみても、平然としている。
なんだ? 僕がおかしいのか? これ。
僕が混乱している間にも、周囲の人間は減っていき、遂には僕だけになってしまった。
え、僕聞き逃した?
いやそんな筈は……
気付けば、さっきの教師5人も中庭から立ち去っている。
中庭にはもう僕1人だけ。
かと思えば、後ろから肩を叩かれる。
振り向けば学園長が居た。クラス分けしてる間にこっちに移動してきたのだろうか?
まあ好都合だ。早速だがお世話になるとしよう。
「学園長、悪いが僕のクラスを教えてもらってもいいか?」
「……」
僕の質問をスルーして、ジッと見つめてくる学園長。
普通に怖いんだが?
因みに僕が敬語を使わないのには訳がある。
自慢じゃないが過去、僕が敬語を使っているのを見て体調が悪くならなかった事例は、ただの一つもない。
だから別に使えない訳でも下手な訳でもないのだ。決して。
僕が敬語を使わないのは相手を気遣っているだけで、別に見下している訳ではないので、そこはご理解いただきたい。
「跪きたまえ。」
「…は?」
いきなり舐めた事を言ってくれるもんだから、うっかり変な声が出来てしまった。
「……ああ。…済まないね、説明してなかった。人の尊厳を踏みにじるのが癖でね。土下座で許してあげよう。」
ホントなに言ってるんだコイツは。
こんなのが学園長でここ大丈夫なのか?
偽名を使っている時点でだいぶ揺れていた学園長への敬意が、この下らない会話で完全に崩れ去ってしまったようだ。
「あ、君はFクラスね。」
そう言って、背を向けて去って行く学園長。
何のために話しかけてきたんだよ……
僕が教室に入って、席に腰を降ろすと同時、再び鐘がなった。
教壇に立つ教師はFクラスの面々を見渡してから、その口を開いた。
「もう分かっていると思うが、君達は落ちこぼれだ。」
は?
開口一番の言葉は、要約するとこういうことらしい。
この学園では例外を除き、AからFのクラスのうち優秀な奴ほどAもしくはそれに近しいクラスに、不能で拙劣な奴ほどFもしくはそれに近しいクラスに所属させられるらしい。
この学園では定期試験を行う毎にクラス替えが生じるらしく、新入生である僕らは入試の結果を元にクラスを決められたんだと。
もう知ってる前提での話でここまで割り出した僕すげぇ。
「今日はやる事がないので、取り敢えず親交でも深めておきなさい。では。」
そう言って教室から出ていく教師。
教師辞めちまえ。
しかしまあこういう自由な時間程生徒が求めているものはないようで、クラス中から歓声が聞こえる。
さて僕はと言うと、友達も居ない陰キャなので微動だにせず座っていた。
泣きそうだ。
これでもガラスのハートなんだ、優しくしてほしい。
なんて考えていると、隣の席の奴が話しかけてきた。
「なあ、お前もボッチの類か?」
㊗️初投稿!!
初めましてnukko67です!
見切り発車で作ったので駄作になる予定ですが、楽しんで頂けると非常に嬉しいです。
追伸:随分と遅れて挨拶してすみません。