ゴールドラッシュ
お久しぶりでございます。
短編を書くと言ってはや半年が過ぎ、恥ずかしげもなく戻って参りました。
忙しかったとか具合が悪かったとかでは特にございません。
そして読み切りのはずなのに半分に別けました。ごめんなさい。
最後に多分誤字脱字酷いです。本当にごめんなさい。
魔法や超能力が普及するある世界にこんな競技があった。
仮初の身体を駆使し、互いの資金を賭けて戦うシミュレーションコロシアム。
【ゴールドラッシュ『闘金連鎖』】
そして、強さによるランキング制度に応じて発生するブロンズ、シルバー、ゴールドなどのクラスと、その頂点に立つ第一位の称号────
【ゴールドキング『闘金王』】
あらゆる猛者達が最強の栄光と共に富を求め、今もこうして競い合う。
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コロシアムドーム『コロッセオ』 酒場
ここはゴールドラッシュが開催されている小規模なコロシアムドームのうちの1つ。
ここの形状は異世界のとある国に現存する闘技場を模したものとなっている。
そしてその外壁内部施設にある地上1階の酒場にて、今日も1人のロクでなしがグラスを片手に昼間から呑んだくれていた。
?
「はぁ、」
?
「どうしたレオ?」
金髪の男がため息を吐くと、黒髪のバーテンダーが話し掛けてきた。
レオと呼ばれた男とバーテンダーとは親しい仲でもあり今の溜息の理由が気になったようだ。
レオ
「この前の女、逆ナンと思ってついてったらただのギルドの勧誘だった。しかも貢がせるだけ貢がせといて振りやがった………」
?
「あぁ、ありゃ酷かったもんな。とんだブスだったし」
レオ
「お願いだギン!」
ギン
「金なら貸さねえぞ。あとツケも待たん」
レオ
「あ"ーーーッ!!!」
どうやらレオは悪い女遊びの末に金とも女ともお別れを迎えたらしい。
加えて話を察するに、ギンと呼ばれたバーテンダーの店にツケを溜め込む金遣いの荒さが露呈されているようだ。
ギン
「ってか、手頃な相手探して勝ち取りゃいいだろ?」
レオ
「誰も相手しちゃくんねえよ! 俺の残額と強さ知りゃ!」
ギン
「そりゃそうなるわな」
彼の名はレオ・ブレスフィールド。
この辺りでは名の売れたフリーのゴールドラッシュ選手だ。
その実力ゆえに近所じゃ彼に挑む奴はそうそういない。そして彼自身は金使いが荒い。
故に───
レオ
「あ〜〜〜、」
───日頃からかなりひもじい思いをしてばかりだ。
空腹と金欠に耐えかねてレオの唸り声がカウンターに鳴り響く。
他の客やスタッフもまたか、いつものことか、と一度は目線を向けてもまた呆れた様子で知らん顔をする。
そんな大人の汚い部分が充満する店に、見知らぬ1人の客がレオに声を掛ける。
?
「あの、すみません」
レオ
「あ、んだお前?」
レオの後ろから落ち着いた子供のような声で呼びかけられる。
レオが振り返る先には、ローブをまとって顔を隠した10代前半に見える子供がいた。
?
「フリーで選手登録されてるレオ・ブレスフィールドですね?」
レオ
「なんだお前? もしかして俺のファンか? よし、金くれ」
ギン
「すまん。あとでコイツ殴っとく」
?
「………あなたがこの町で一番強いと聞きました」
レオ
「おッ! 相手してくれんのか!? 行こうぜ行こうぜ!」
ギン
「なぁ坊主。確認の為に言っておくが、そいつに勝負を挑みたいならやめておけ」
?
「? 何故です? あと坊主じゃないです」
ギン
「コイツの実力は本物だ。生半可な実力じゃ瞬殺されちまう。それにもしお前が勝てたとしても獲られる金は釣り合わねえぞ」
?
「お構いなく。私の目的は金銭ではありません。あくまでこの人です」
レオ
「………? ハッ! 待て。俺はそっちの趣味は無い」
?
「? 何を言ってるかわかりませんが、貴方と戦うことが目的です」
ギン
「だとしても他の相手に当たれ。コイツの相手は損するだけだ」
?
「構いません。レオさん、お願いします」
レオ
「と言われてもなぁ。お前、今いくら?」
?
「23,000ラスくらいです」
レオ
「乗った!」
?
「交渉成立ですね」
ギン
「はぁ、後悔するなよ」
レオと子供の話はついて、闘技場への登録に向かった。
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コロッセオ中央試合会場
酒場がある外壁から内壁から更に奥に移ると、そこでは四六時中様々な闘士たちが金銭と名誉を掛けてボコし合う砂まみれで石製のリングがあった、そこがゴールドラッシュの試合会場だ。
しかし戦う場所は正確にはここのリングではない。ここはあくまで彼らが戦うための戦場への出入り口。
観客
「「「わァーーーーーッ!!!」」」
観客の声援が轟き、会場を沸かす。
試合の登録を済ませたレオとローブの子供は互いに向かい合うようにリングの前に立ち、会場の天井からアナウンスが発生する。
プログラム
『フィールドセレクト、レベル1平野。端末を台座に接続して下さい』
アナウンスの音声に従い、2人は自身の情報を登録された電子端末をリングの中央にある台座に接続する。
プログラム
『確認しました。レオ・ブレスフィールド、ゴールドクラス。フィオナ・グレイスホーク、シルバークラス。転送を開始します。リングに上がりお待ち下さい』
フィオナ
「………」
台上に上がり、フィオナと呼ばれたローブの子供改め、赤紫髪の少女は顔を隠してたローブを脱いで素顔を晒した。
レオ
「ハァ!? お前女だったのかよ!?」
フィオナ
「先程坊主じゃないと言った筈ですよ」
プログラム
『両者の搭乗を確認、身体能力、魔力、異能の一致を確認。これよりバトルフィールドへ転送します』
2人は台上から散布される粒子に包まれ、姿を消した。
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設定されたバトルフィールドが観客席のモニターに映り、2人は自分たちを包んだ光の粒子の中から平らな野原に現れた。
プログラム
『転送完了。カウントを開始します。5、4、3、2、1、試合を開始して下さい』
レオ
「さて、武器はこんなもんか」
このバトルのおいて転送されるのはプレイヤーの体だけではない。
手をかざせば眼の前に現れるコンソールを操作することで、予め登録しておいた武器やアイテムも使用可能となる。
そしてレオは今回、戦闘用の手斧を手に取り、毛皮のプロテクターを体の各所に備えた。
準備を整えたレオが原っぱを歩いていると、レオの背後から何かが走り寄る音が近づいてくる。
レオ
「ッ! そこか!」
フィオナ
「………!」
背後を完全に取られる前にレオが反応し、手斧を振るう。
レオ
「チッ、早え!」
しかしレオより小柄で素早いフィオナにその攻撃は安易に避けられた。
フィオナ
「こちらです………ッ!」
避けて距離を取る中、フィオナは黒い缶の頭にあるピンを歯で引き抜き、それを投げる。
レオ
「なっ!」
投げたのは手榴弾だった。
反応が遅れたレオは足下に転がってきた手榴弾の爆発をモロに受けてダメージを負う。
そしてこの世界ならではの特徴がこちら。
レオ
「あの女ーッ!」
プログラム
『残額 1,715ラス』
ダメージを負ったレオの体から硬貨がチャリン、チャリンと音を立ててこぼれ落ち、レオの右上に残りの金額が表記される。
このバトルフィールドではプレイヤーの体は事前に提示した賭け金で構成されている。
よって、ダメージを受ければ体から硬貨が溢れ、溢れた硬貨はバトルフィールドからゲームシステムに回収される。
そして今回のルールでは残額が0になったプレイヤーが敗北になる基本的な勝負となっている。
ちなみに今回、レオが提示した賭け金はフィオナの23,000ラスに対して3,700ラスだけで、本来なら勝負として成立しないため参加すらできないものだった。
しかしフィオナからの強い希望もあり、予めフィオナがレオの掛け金を合わせて、それを半分にした13,350ラスに分割してなんとか勝負を成立させてもらっている。
などという感じのとてつもなく情けない経緯がリングに出る前にあったのだった。
フィオナ
「………」
手榴弾だけでは通じないとわかったフィオナはレオと距離を取るべく走り去る。
レオ
「逃がすかコラ!」
その様子を見たレオは手斧をフィオナ目掛けてぶん投げる。
高速回転して自身に近寄る手斧を確認したフィオナは振り返って魔法を発揮する。
フィオナ
「………スキルセレクト、」
フィオナが詠唱すると赤紫色のオーラが体の表面に湧出し、オーラはくるぶしを中心に集まった。
フィオナ
「『アクセル』」
瞬間、フィオナは音速に届きかねない速度でレオの懐に潜り込んだ。
レオ
「おっと!」
フィオナが短剣で刺突してくる中、レオが先程投げた手斧が手に戻り、フィオナの短剣を握る手を腕のプロテクターで押さえて攻撃を防ぎ切る。
フィオナ
「………」
レオ
「今度はこっちだ!」
フィオナ
「?」
レオ
「スキルセレクト、スーーーッ、」
大きく足を開き、詠唱して勢いよく息を吸う。
そして───
フィオナ
「!」
レオ
「『ハウリングッ!!!』」
───レオの咆哮が衝撃波を起こし、正面にいたフィオナに直撃する。
フィオナ
「ッ!? これは、」
衝撃波の威力は地面にも伝わりフィオナの足場を砕いた。
フィオナ
「ッ!」
足場を崩されてそのままレオの咆哮に吹き飛ばされたフィオナは、後ろの岩に背中を叩きつけられる。
フィオナ
「くっ………!」
叩きつけられた衝撃で大ダメージを受け、大量の硬貨がフィオナの体から放出される。
プログラム
『残額 524ラス』
レオ
「まだまだ行くぞッ!」
フィオナ
「ッ!?」
急接近して斧を振り被るレオに気づき、フィオナは素早くその場から離れる。
フィオナが離れた岩場はレオの斧の一撃で粉々に砕けて破片が飛び舞った。
フィオナ
「くっ!」
プログラム
『残額 523………522………521』
レオ
「ハァッ!」
フィオナ
「!」
飛び散る瓦礫の中から斧を振り上げるレオが飛び込んできた。
レオ
「これで終わりだッ!」
レオの攻撃に反応しきれず、フィオナは胸に斧を叩きつけられた。
プログラム
『残額 0ラス』
フィオナの右上に残り金額が表記され、一気に数字が下がって0になった。
レオ
「俺の勝ちだな」
フィオナ
「………降参です」
プログラム
『フィオナ・グレイスホークの資金損失により、レオ・ブレスフィールドの勝利』
観客
「「「わァーーーーーッ!!!」」」
リング上部のモニターに映る光景を前に観客が歓声を挙げる。
観客
「運が悪かったな! お嬢ちゃん!」
観客
「いい勝負だったぜ!」
観客
「それに引き換えレオ! お前はもう少し手加減ってもんを知らねえのか!」
観客
「守銭奴ー! ロリコン! 酒クズ!」
レオ
「おいさり気なくディスってんの誰だコラァーッ!」
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コロッセオ 酒場
フィオナ
「これで私の全額です」
3人はコロッセオの酒場に戻り、試合を終えて改めてフィオナが賭け金を包んだ袋をレオに渡す。
レオ
「ヤッフーーーーーッ!!!」
ギン
「おう。ありがとな」
レオ
「え」
久々に得た大金を前に歓喜するレオであったが、レオが掲げた金の入った袋はギンがスリ取った。
ギン
「そんじゃ、今までのツケを合わせて。はい」
袋の紐を解き、ギンは中からいくらかの銭を手に取ってそれをレオに渡す。
渡されたのは100ラス硬貨が3枚。つまり。
レオ
「………何コレ?」
ギン
「300ラス」
レオ
「………300?」
ギン
「300」
レオ
「返せ! 返してくれ! 俺の、俺の22,700ラス!」
自分が手に入れるつもりだった金をせがむもギンが取り上げた袋にレオの手は届かない。
ギン
「にしても、本当に良かったのか?」
レオ
「ゴフッ!」
話を切り替えようとフィオナに尋ねながら、ギンは反対の手でレオに拳骨を食らわせて倒した。
フィオナ
「ええ。それにそれは私のではなくウチのなので」
ギン
「? ウチ?」
フィオナ
「改めて自己紹介させてもらいます。私はフィオナ・グレイスホーク。【ライジングゾー(勝ち上がる獣の群れ)】の新しいギルドマスターです」
ギン
「それって、最近衰退し始めたギルドの名前か? それにギルドマスターって」
この世界にはなんでも屋のようなギルドがいくつも存在し、庶民の活動を小さなことから大事なことまで支援している。
尚、ゴールドラッシュは力を示すことが主な目的とされており、本来金銭関係はついでのようなもので、ギルドや軍の人間も実力を試すためや自身の評判を上げる為に参加することもある。
レオ
「………」
ギン
「前のマスターは?」
フィオナ
「新しい別のギルドを創って私達を見捨てました。文無しに用は無いからと。その前のマスターである祖父は急な病で他界して亡くなっています」
ギン
「酷え話だな。それで、金は無くとも力のあるこいつを誘ったと」
フィオナ
「はい。レオさんの実力なら私のギルドの再建に役立ってくれると思って───」
レオ
「断る」
起き上がったレオは冷たい表情になってフィオナたちに背を向ける。
フィオナ
「ど、どうしてですか? その、宜しければ理由を、」
レオ
「俺はギルドの連中とは関わらないって決めてんだよ。だから、今回ばかりはどんなに金をつまれても何もしねぇ」
そう吐き捨てるとそのままレオは立ち去った。
フィオナ
「あぁ、待って下さい!」
ギン
「やめとけ」
フィオナ
「………」
─────────────────────────
カウンター席に移り、フィオナはギンからレオの事情を聞いた。
フィオナ
「何故、彼はあんなにギルドを………?」
ギン
「あいつこの前まで女と付き合っていたんだが、ギルドの勧誘の為に雇われただけで実際好きでもなんでもなかったそうだ」
フィオナ
「それで私も勧誘目当てで来たのが気に障って、」
ギン
「多分な」
自分の責任ではないとわかってはいたが、間の悪さも相まってフィオナは責任を感じずにはいられなかった。
そんな時、嵐は突如として現れた。
ガチャと音を立てて店の扉が開く。
ギン
「いらっしゃい」
?
「───でよ〜」
入ってきたのは厳つい強面の大男1人と煌びやかにめかした女性2人だった。
その姿を見て、フィオナが反応する。
フィオナ
「ッ! あなたは………ッ!」
?
「あぁ? フィオナじゃねぇか? 何してんだお前?」
どうやらフィオナと大男は互いに顔見知りのようだ。
だがフィオナの表情は友人や家族に向けるような穏やかなものでなく、寧ろ親の仇と言わんばかりの険しい表情だった。
ギン
「知り合いか?」
フィオナ
「先代ギルドマスター、グリード フォックスです」
ギン
「なるほど、さっき話してたやつか」
グリード
「お前まだあの貧乏臭いギルド守ってんのか? あんなもんさっさと捨てて他のギルドに行きゃいいのによ」
フィオナ
「あなたと同じにしないで下さい………! あのギルドは、祖父が創り上げた大切なギルドです」
グリード
「ハッ! ゴールドラッシュに手を出して負け組に落ちたギルドになんの価値があんだよ?」
フィオナ
「も、元はと言えばあなたが」
グリード
「それ以上は言うんじゃねぇぞ! あのモーロク爺が自分で決めてあの爺がしでかしたことだ!」
フィオナ
「それでも、それはあなたが───」
グリード
「それ以上は言うなと言ったからな」
グリードの言葉に食い下がるフィオナだったが、それをグリードの怒りを本気で買い、腰にあったリボルバー拳銃を抜き取ってグリードはフィオナの額に突きつけ、引き金を引いた。
ハンマーが弾の雷管を叩き、銃弾がズドンッと音を立てて爆ぜる。
フィオナ
「………ッ!」
フィオナの額を狙っていたはずの銃口は天井を向いており、そこには1つの穴がくっきりと空いていた。
貫いた先の上の階では、スロット台が壊れて客がクレームを入れ、店員が揃ってその客をボコボコにしている。
などとそんな話は関係なく、何故銃があらぬ方向を向いていたのかというと、この男が銃が撃たれる直前に上に向けたからである。
レオ
「………」
グリード
「あぁ? 誰だてめぇは?」
フィオナ
「レオさん………!」
レオ
「やっと会えたな。グリード」
まるでグリードを知っていたように話すレオの表情は、フィオナからの勧誘を受けて以降不機嫌な顔をしているが、それと同時にその目つきは怒りに満ちている。
グリード
「あ? なんだ誰かと思えばレオじゃねぇか?」
レオ
「てめぇあの時はよくもまあ騙してくれたな?」
ニヤニヤと笑みを浮かべるグリードに対し、レオの表情は更に険しくなってこめかみから血管が浮き出る。
グリード
「お前が間抜けだっただけだろう?」
ギン
「知り合いか?」
レオ
「コイツの取り巻きの女だよ。散々金をせびって捨てた女ってのが」
グリード
「あん? 俺は好きでもないのに親切にしてくれる変な奴だと聞いたが?」
レオ
「んだとコラァ!? あの女を出せ!」
ギン
「とりあえずレオ。今はんな話してる場合じゃねぇ」
レオ
「あ?」
ギン
「そいつがフィオナのギルドをゴールドラッシュにけしかけた張本人だ」
レオ
「んだと?」
フィオナ
「………」
グリード
「言い方を選びなよ店員さん。まるで俺がギルドを潰す為にゴールドラッシュに参加させたみたいじゃないか?」
レオ
「………」
グリード
「まぁ、あんなギルド潰してやる方が情けってもんだがな。元々慈善事業でスカンピンになってたんだ。手放して当然だろう」
フィオナ
「あなたって人は!」
グリードに殴り掛かるフィオナだったが、その拳は目の前の男に止められる。
フィオナ
「ッ! レオさん?」
レオ
「………」
フィオナを止めたレオは今度はグリードの方へ歩み寄る。
グリード
「あ?」
レオ
「ッ!」
一瞬だった。レオの渾身の右ストレートがグリードの顔が一瞬だけ歪むほどの威力で左頬にクリーンヒットする。
グリード
「ッ、………あぁッ!」
殴り飛ばされたグリードは後ろにあった客席とテーブルにガシャンと音を立ててぶつかり、当たった拍子に潰してぐしゃぐしゃにした。
取り巻きの女性
「キャーッ!」
フィオナ
「レ、レオさん………!?」
取り巻きの女性が悲鳴を上げ、フィオナが困惑する中、グリードは頭を振って正気に戻る。
グリード
「………おい、今なんで殴った?」
レオ
「てめぇが気に食わねえだけだよ」
グリード
「………フッフフ、ぶっ殺す!」
怒りの有頂天に達したグリードが今度は銃口をレオに向ける。
しかし、引き金に指を掛ける直前、瞬く間にグリードは自身の喉元に一筋の刀身が突きつけられて動きを止める。
それはレオも同様に、彼には刀身ではなく鞘の先が向けられている。
レオ
「ッ!」
グリード
「ッ!」
ギン
「てめぇらこれ以上人の店で暴れんじゃねぇ。ぶち殺すぞ?」
レオとグリードの間の入ったギンが、どこから出したのか日本刀とその鞘を手に刃先をグリードの喉元へ、鞘の尻をレオの額に向ける。
額には血管がうねうねと浮き上がっており、店で暴れられたことにギンもかなり憤慨してるようだ。
レオ
「………あ、うん、ごめんねギンちゃん、」
どうやらレオはギンが本気で怒ったときの実力差は弁えてるようで、さすがに自重した態度になった。
ギン
「とりあえず今回の損害ツケだからなクソレオ」
レオ
「俺だけかよ!?」
グリード
「知ったことかよ! 退かねえならてめぇも一緒に」
ギン
「これ以上騒ぐんなら治安の連中に通報するぞ」
グリード
「………チッ、おいレオ」
レオ
「んだよ」
グリード
「流石にこのまま白けてはい終わりなんざ言わねえよな?」
レオ
「は?」
グリード
「ゴールドラッシュだ。お互い実力者なのはわかりきっている。なら、憂さを晴らすなら、なぁ?」
レオ
「………ハハッ、上等じゃねぇか」
グリード
「ただし、お前がジリ貧なのは周知の事実だ。だから、」
グリードはフィオナに向けて開いた手を向ける。
グリード
「お前が負けたら、こいつのギルドはまた俺がもらう」
フィオナ
「!」
グリード
「だが別にまたマスターをしたいわけじゃねぇ。もうギルドマスターやってるしな。ギルドの所有物をすべて売っ払ってウチのはした金くらいには使ってやるさ」
フィオナ
「あなたって人は、どこまでウチのギルドを!」
レオ
「まあ待て」
フィオナ
「レオさん………」
グリード
「で、どうなんだ?」
フィオナ
「ふざけないで! その条件なら私が」
レオ
「待てってんだよ。グリード、お前が負けたならどうするんだ?」
グリード
「好きにすればいいさ。どんな要求だって望むままに」
レオ
「よっしゃ。言質取ったからな」
フィオナ
「ちょっとレオさん!」
グリード
「日時は明日の朝11時だ。遅れんじゃねぇぞ」
レオ
「てめぇこそ女遊びで遅れたら不戦敗にしてやるからな!」
グリード
「あぁ、あり得そうで恐いなぁ。モテない誰かさんと違ってな」
レオ
「やっぱここでやるかゴラ"ァッ!」
ギン
「てめぇの葬式をか?」
レオ
「アッイヤナンデモナイデス。ん?」
グリードが店を出ると、険しい表情のフィオナがレオに掴み掛かった。
フィオナ
「なんで、なんであんな勝手な約束をしたんですか!? 確かに私はあなたをスカウトに来ました! 強さだって期待してます! でも、でもだからってこんな!」
レオ
「え、あっ、いやだってさぁ。ねぇ、ギン?」
フィオナの圧に押されたレオがギンに話を振るが、持ってる刀を眺めながら冷淡な返事を返された。
ギン
「安心しろ。介錯くらいは請け負ってやる」
レオ
「腹切れってか!? 友だちだろ!? 助けろよ!」
ギン
「そういう台詞は友だち甲斐のある実績を作ってからにしろクソレオ。それにだ。………負ける気はねぇんだろ?」
そんなギンの質問に、レオは鋭い目つきで笑みを浮かべて返答する。
レオ
「………フッ、当たり前だ。俺の方が強えし」
ギン
「フィオナ」
フィオナ
「………」
ギン
「こいつは口下手だし身勝手が過ぎるし、金遣い荒いし無鉄砲だし女遊びも酷いし不摂生だしロクに寝泊まる場所もねぇロクでなしじゃあるが」
レオ
「余計が過ぎねえか!?」
ギン
「だがな。だからこそ実入りのあるゴールドラッシュにおいてはいつだって本気だ。そういった心構えに関してはすぐに信じろとは言わねえ。だからお前に言えんのは、こいつの実力をもう一度信じてやってほしいってことだ」
レオのツッコミを意に介さず、ギンは落ち着いた声色でフィオナに語り掛けるが、未だにレオへの信頼は
フィオナ
「………レオさん」
レオ
「うっ、」
フィオナ
「………信じて、いいんですね?」
レオ
「………あぁ、任せろよ」
フィオナ
「………ハァ。正直、承服しかねるところではありますが、ここはマスターさんの顔を立てて信じることにします」
レオ
「そこは俺の顔を立てることには」
フィオナ
「致しません」
レオ
「なんでだよォォォォォォォォ!!!???」
その後、騒ぎを聞きつけた治安組織がギンの店に現れ、事情聴取を受けることとなった。
治安の男
「またお前かレオ」
レオ
「せめて事情聴取してから輪っぱ掛けろや! 毎度毎度挨拶代わりに捕まえてんじゃねえぞ!」
最後まで読んでいただきありがとうございます。
期待されるほどの信用がないのは承知の上ですが速やかに後編も書き上げさせていただこうと思ってございます。
そしてそちらが終わり次第、只今連載中の『俺が勇者になったなら』も必ず新しい話を書き上げさせていただきますことをお伝えいたします。