二人が集まる
まだ状況が鮮明でないメインのお二人の登場です。
「…ツヒ…。起きぬか、ナツヒ!」
気づけば目の前には遥か昔の美しい青き空が。
此処はどこなのだろう、緑の草木がたくさんある。
倦怠感さえ残るものの先程の重苦しさが嘘のように消えていた。
「うん、目覚めたか。何しろ暫く身体が不自由だったものだからな。すまん。」
マガタマと名のる兄は枕元で胡坐をかいていた。
「ここは」
「わからない。適当なとこにとんだらしい。」
はい?
「まぁ無事に逃げることが出来た。我も身体を手に入れた。良いではないか!」
よ…っ
「良くねぇよ!兄さんを返せ!」
マガタマの両腕を強く掴むと、マガタマは顔を横に背け、口を尖らせる。
「我の魂がここに在るということは…この身体を支配できるということは、もう兄殿は死んでおるのでは。」
ぽつぽつと小さな声で呟くように告げたその言葉を心の中で否定した。
でも直ぐに力をこめていた手を緩めマガタマを解放した。
「この身体…通常の魂では耐え難い程衰弱していた。我が入ったことにより、肉体は生を継続できる。
…寧ろ感謝されるべきだ。ナツヒよ、二人とも無事なのだ。分かるか?」
そうだっけ…。もともと兄さんは死の間際…。死神とかいうのが現れ 安眠 とか言うから…っ
「…なぁ、マガタマ…。はじめっから絶望からでさ…終わるまで絶望なんて…。幸せってどうなってるの?
どこに帰れば、ハッピーエンド…?」
もう泣きそうだった。今此処に在る自分自身の存在が在りえなくて。さっきまでの出来事が信じられなくて。
マガタマは項垂れた俺の頭を軽く撫でた。顔なんて見なかった。姉の面影を見たら絶対泣くから。
「ナツヒ…?絶望って言うのは望みが絶たれること。はじめは総て希望から始まるのだ。だが、絶望したままで行こうか。…これから行うことに希望を持つべからず。一切の保証はない。だから泣くな。心を浄化せず、濁せ。」
何かを試すような冷静な口ぶりで理解しがたいことを口にした。泣くな、なんて兄なら絶対に言わない言葉。
それをまんまと兄の声で言い放つマガタマに少し苛立ちを覚えたが、顔を見ても不思議と涙は出なかった。
「高く絶望を持つことで更なる希望が生まれ出でる。ひとつの希望を与える。我はマガタマ。時空を自由に行き来出来るのだが?」
「…っ!過去を、変える…?とか…?」
そうだ、こいつの存在自体ファンタジーみたいなものだ。過去を変えて今が変わるように…
「そんなことが出来ればいいなぁ…。」
「はい?」
マガタマはなぜか遠くを見ている。半笑いで。
「いいか、ナツヒ。過去は変えられない!そんな生温い考えは捨てろ。我だって…っ
出来れば自分の身体に戻りたいのだぞっ!」
何時も笑顔だった兄の顔が怒りに歪んだ。少し、悲しみも含んだような声だった。
「…ごめん、なさい…?」
見たくない、これ以上。この気持ちが、兄が死んだということを否定し、受け入れられないという事であると分かっている。でも此処に兄の面影が在るということだけで
(幸せになって欲しい…)
「分かればよいのだ。…とりあえず、兄殿の存在を解こう。ナツヒのことは大体分かる。
髪の色、目の色、出生や年齢について聞かせてくれ。」
マガタマがその場に座り込む。
「あ、うんえぇと。出生は詳しく分からないけど歳は18歳、髪の色はネイビーっぽい。目もその色に近いと思う。」
「そうか、それで右目は殆ど見えない、と。」
「え?」
「知らなかったのか?今左目でしか正常に機能していない。まあ回復させているが。」
「…そうか、頑張れ。」
「成長したな。認めたか。それでいいんだ。」
「で?マガタマは?何者なんだ?」
5分経過。
ふう、とため息をつくマガタマ。改めてこちらに向きなおすと、真顔で口を開いた。
「忘れた。」
「ええええええええええええぇ…!教えてくれないの!?」
「性別すらわからん。」
「そんな冗談だろ!」
「分からないんだ…何時から自分がいて、何時から苦しかったのか…それすらも。」
冗談ではないらしい。伏せた睫毛が、そう思わせるには十分だった。
「…っもう!分かった!こうしよう。俺はお前の記憶を取り戻してやるから、お前はあの世界を何とかしろ!で、俺は絶望していればいいんだよな。」
早口でまくし立てると、マガタマは不満そうに顔を顰める。でもすぐ後、ふふっと笑いを漏らした。
「…ナツヒ如きに慰められているようじゃあ、我もまだまだだな。ふん、口の上手いやつめ。」
どうやら少し本調子に戻ったようだ。安堵のため息を吐くと、そうそう、とまたマガタマが切り出してきた。
「言ったからには責任とって我を探したまえよ。あと気を遣うな調子狂う。」
兄とはまた一味違う不敵な笑みに、戦慄が走った。
いい加減グダグダで、マガタマさんのキャラが崩壊していますね。大丈夫、多分次がある。