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二十六、明かされる真実と、新たな問題







『え、って何だ、え、って!レッティ、まさか知らなかったのか!?』


 ピエレットの反応に、エヴァリストは焦ってその瞳を見ようとするも、膝に座らされた状態では、ピエレットの顔を見ることも出来ない。


「レッティ!俺を、顔の高さまで持ち上げてくれ!」


「あ、はい」


 咄嗟に叫んだエヴァリストにピエレットも答え、ふたりきりの時のように、エヴァリストを自分の顔の高さまで持ち上げた。


「レッティ。暗黙の了解を知らなかったのか?」


「エヴァ様は、ご存じだったのですか?」


「もちろん。だから、そのように行動したんだ」


 まっすぐに目を見つめ合い、その意思を確認するように問うピエレットに、エヴァリストは心情的に大きく頷きながら、はっきりと言い切った。


「そうだったのですね。わたくし、何も知らなくて。エヴァ様がルシール王女殿下のお話をされるたび、わたくしではなくルシール王女殿下とご一緒されたいのかと、寂しく思っておりました」


「っ。それで、あんな誤解をしたのか!そうか!」


 ルシール王女殿下とエヴァリスト様が密かに想い合っている、というピエレットのとんでもない誤解はそこから生まれたのかと、エヴァリストはひとり納得する。


「あの、エヴァ様。すみません、わたくし」


「レッティが謝ることは、何もない。俺も、知っていて当然と思ってしまったからな。そうか。知らない状態で、ああもルシールの話をされれば、それはレッティのように誤解をして当然だ。俺こそ、気づかずすまなかった」


 慣れないながらも、必死で、君が本命だ、特別だ、運命だと伝えていたつもりが、つもりに過ぎず、あまつさえ誤解を生んでいたと知ったエヴァリストは、心底申し訳ない思いでピエレットを見つめた。


「もう、分かったので大丈夫です。それに、エヴァ様が下さる物も、連れて行ってくださった場所も、わたくし、とても好きなのです」


「では、また行こう。そして、新しく思い出を作ろう」


「はい。では、何か軽食を持って行きましょうか」


 ピエレットの提案に、エヴァリスト・・孔雀のぬいぐるみの瞳が輝く。


「それはいい。出来れば、レッティの手作りがいいな」


「ピエレット手作りの軽食ですか。わたくしも、いただきたいです」


「な・・っ。ルシール、それは俺の・・・ルシール?」


 するりと会話に入って来たルシール王女に普通に答えかけ、エヴァリストは言葉を止める。


「ルシール王女殿下」


 同じようにピエレットも固まって、孔雀のぬいぐるみを持ちあげたまま、ルシール王女を見つめてしまう。


「どうなっているのか、まったく分からないけれど。ふたりが楽しそうにお話ししているから、わたくしも入れてほしいなと思って」


「ルシール・・・。少しは、驚けよ」


 呆れたように言うエヴァリストに、ルシール王女はふふふと笑った。


「驚いているわよ?でも、どうしてピエレットが孔雀のぬいぐるみをそれほど大切に抱いているのか、よく分かったわ」


「はあ。まあ、確かにな」


 ということは、周りからも怪しまれているのか、と呟いたエヴァリストに、ルシール王女は首を横に振る。


「それは無いと思うわ。皆、エヴァリストがあのようになったことで、ピエレットが精神的に不安定になって、エヴァリストから贈られた孔雀のぬいぐるみを、精神安定剤代わりに連れ歩いている、という認識しかないようだから」


 あっさりと言って、ルシール王女はカップに口を付けた。


「そうか。よかった」


「精神安定剤代わり、というのも正しいです。わたくし、エヴァ様が一緒に居てくださるだけで、とても心強いので」


 ふんわりと笑って言ったピエレットに、ルシール王女は揶揄うような視線をエヴァリスト・・孔雀のぬいぐるみへ向ける。


「よかったわね、エヴァリスト。孔雀のぬいぐるみよりも、愛されているようじゃない」


「ああ。それは、俺も安心したところだ」


 確かに、と言うエヴァリスト、孔雀のぬいぐるみをルシール王女は、じっと見つめた。


「こうしてみると、凄いぬいぐるみよね。エヴァリストの愛と執着に満ち満ちているわ」


「まあ。エヴァ様は、それほどに孔雀がお好きなのですね」


 確かに凄い再現度です、と微笑むピエレットに、ルシール王女が小さく吹き出す。


「あら、まあ」


「ルシール王女殿下?」


 そして、何やら意味深な目で孔雀のぬいぐるみと自分を見るルシール王女に、ピエレットは問いかける視線を返した。


「ピエレット。エヴァリストはね、動物の園で、貴女が孔雀をとても気に入って、きらきら輝く瞳で見ていた、って、それはもう嬉しそうに報告してきたの。それで、孔雀のぬいぐるみを贈ったらきっと喜ぶだろう、って。特別に注文をかけて、自分も参加して。孔雀のぬいぐるみは、ピエレットに見つめられるだろうから、瞳の色はもちろん自分の色、それから羽の部分は稼働できるように、ああ、その羽の色も出来るだけ自分を思い出すような色で、と。それはもう、大騒ぎだったそうよ」


「なっ。ルシール!」


 デュルフェ公爵家と親交の厚いルシールの暴露にエヴァリストが焦るも、ピエレットは嬉しくその話を聞く。


「そうなのですね。特別に注文してくださったことは知っていたのですが、そこまで色々考えてくださったなんて、とても嬉しいです。でも瞳の色、今は少し明るくなっているのですよ」


「え?そうなの?」


「そうなのか?」


 ルシール王女とエヴァリストに問われ、ピエレットは、こくりと頷いた。


「はい。思えば、エヴァ様がお入りになられた頃から、明るくなりました」


 ピエレットの言葉に、エヴァリストが考えるような声を出す。


「それは、俺の魂が宿ったから、か?」


「まあ。それでは、エヴァリストは、このままずっと孔雀のぬいぐるみのなか、ということかしら?」


「「え?」」


「だって、エヴァリストの魂と、その孔雀のぬいぐるみという外見が融合してしまったのなら、そういうことでしょう?」


 悪意なく、真実と告げたルシール王女に、その可能性を考えもしなかったエヴァリストとピエレットは、揃って固まった。



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