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二十三、孔雀







「すまない、レッティ」


「いいえ。動物の園は大好きなので、わたくしには、ご褒美のようです」


 その日ピエレットは、エヴァリストの意識の宿る孔雀のぬいぐるみを大事に抱えて、動物の園の門を潜った。


『ピエレット。早速だけれど、動物の園へ、エヴァリスト・・ああ、今は孔雀のぬいぐるみだったわね・・と共に向かってちょうだい』


 事の始まりは、デュルフェ公爵夫人からの手紙。


 その手紙によれば、犯人というのは事件現場に戻るものだという情報を、とある本から得、実行してみる価値はあると判断したとあり、その実行者にピエレットを指定すると記されていた。


『動物の園へは、いつでも入れるようにしておいたから、心配はいりませんからね。ご安心なさい。陛下のお墨付きです』


 そんな言葉と共に同封されていたのは、国王直筆の許可証。


 しがない伯爵家の娘であるピエレットは、あまりの分不相応に倒れそうになるも、やがては公爵家に嫁入る身として恥ずかしくない態度を、と心を律して返事を出した。


「犯人は現場に戻る、ということは、孔雀の所へ行けばよろしいのでしょうか」


 エヴァリストがアダン子爵令嬢に襲われ、実際にその体を保護された場所といえば、とピエレットは懐かしく周りを見ながら歩く。


「また、エヴァ様とこちらへ伺えるのは、嬉しいです」


 不謹慎かもしれませんけれど、と言うピエレットに、エヴァリストも同じ気持ちだと心中で頷いた。


「まあ、こんな状態でなければもっとよかったのだが」


「では、元にお戻りになられましたら、またご一緒してくださいませ」


「ああ。そうしよう。約束だからな?」


「はい。でも、こうしてエヴァ様とお話ししながら歩けるだけでも、楽しいです」


 そうは言っても、現在ピエレットは護衛を少し後ろに控えさせ、ひとりで孔雀のぬいぐるみを抱いて歩いている状況なので、もし後ろの護衛に聞かれれば、それはピエレットの独り言となってしまう。


 そして、もっと避けたいのは、孔雀のぬいぐるみにはエヴァリストが宿っている、と知られてしまうことなので、ピエレットもエヴァリストも、慎重に声を落として会話する。


「しかし、こういうのも秘密っぽくていい・・・・っ!レッティ。白絹!右の藪に隠れろ!」


「っ!」


 エヴァリストの指示に、咄嗟にピエレットは右の藪へと身を潜めた。


「いい動きだ。流石、俺のレッティ」


 そんなピエレットを、エヴァリストが誇らしげに誉める。


「あの、エヴァ様?」


「ああ。白絹、とは真っ白だろう?そうして、頭の中を白くさせておいて命令すると、その指示に従い易くなるんだ」


 ああ、だから白絹、と納得して頷、ピエレットは、慌ててふるふると首を横に振った。


「あの、そちらではなくて。いえ、そちらの疑問も解消されてよかったのですが。何故、こちらの藪に潜むようにとおっしゃったのですか?」


「母上の話が、大当たりだ」


「え?」


「見てみろ。孔雀の前に、あの女がいる」


 エヴァリストに言われピエレットが首を伸ばして見れば、確かに孔雀の檻の前にひとりの令嬢がしゃがみ込んでいるのが見える。


「何か、お話しされているようですね。もう少し、近づきましょうか」


「そっとな」


「はい」


 春になれば美しい花を咲かせる低木の陰を、ピエレットは音を立てないよう慎重に移動し、何とか声を聴きとれる場所まで移動した。


「エヴァリスト様。いい加減に諦めて、わたくしと結婚するとおっしゃってください・・・わあああっ。そんな、虫なんて召し上がって!エヴァリスト様!正気に戻ってくださいませ!」


「・・・・・」


「・・・・・」




 エヴァ様が、虫を召し上がる?


『俺が、虫を何だって!?』




 アダン子爵令嬢の頓狂な叫びに、ピエレットとエヴァリストはそっと目を見合わせた。



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