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十八、共同戦線





「え?ぴぃちゃんが、エヴァ様?」


「ああ。信じられないだろうし、俺も信じがたいが、レッティの目にぴぃちゃ・・孔雀のぬいぐるみが映っていて、この声がそこから聞こえるのなら、そういうことだ」


 事実ならば受け入れるしかない、とエヴァリストは重い息を吐いた。


「で、では、エヴァ様はご無事ということですか?」


「俺の体の状況は分からないが、俺がここに居る・・・恐らくは、俺の意識がここにあるのは間違いない」


「エヴァ様・・・・!よかったです。あ、お体と離れてしまったのはよくないのですが、あの・・すみません」


 声が聴けて安心してしまった、と謝罪するピエレットにエヴァリストは大丈夫だと首を横に振ろうとして、またもため息を吐く羽目になり、きちんと声に出すことに意識を切り替える。


「そこは、問題ない。レッティが、俺をそれだけ心配してくれていたといいうことだからな。嬉しく思う。だが」


「だが?なんでしょうか、エヴァ様。わたくし、何か他に失礼なことを申し上げましたでしょうか」


 不安そうに首を傾げるピエレットに、エヴァリストは不機嫌そのままの声を出す。


「失礼、というか。さっきの言葉。レッティは、俺の浮気を疑っていたのか?いや、あの言い(よう)だとむしろ、俺が真実想っているのは、ルシールだとでも言いたいようだったが?」


「え?違うのですか?」


 咄嗟に言い返したピエレットに、エヴァリストは思い切り声を張った。


「違うに決まっている!何をどうして、そんな誤解をするに至ったのか分からないが、そのような事実はない」


 迷い無く言い切るエヴァリストに、それでもピエレットは納得のいかない様子で、エヴァリストの意識の入った孔雀のぬいぐるみを見つめ返す。


「でも。ルシール王女殿下には、密かに想う方がいらっしゃるとお聞きしました。それは、エヴァ様なのではありませんか?ルシール王女殿下は、望まない婚約を国のために結ばれて、それで、エヴァ様もルシール王女殿下を諦めるために、わたくしと婚約したのでは?」


「違う!事実無根だ」


 何を言い出す、とエヴァリストは焦るも、ピエレットは、その言葉をやんわりと否定するよう、大丈夫だと微笑みを浮かべた。


「でも、嬉しくもあったのです。エヴァ様が、前を向いて生きようとなされた時に、選んでくださったのがわたくしだと」


「レッティ!俺は、俺が望んでレッティと婚約をした!伝わっていると思ったのに、それは俺の勘違いだったのか?では、レッティが俺を想ってくれていると感じていたことも、俺の思い上がりだと?」


「なっ。そんなことありません!わたくしは、エヴァ様をお慕いしています。心から」


 叫ぶように言ったピエレットに、エヴァリストは嬉しそうな笑みを浮かべ・・ようとしてそれさえも出来ない事実に膝を突きたくなり。


 今は、それも無理なのだと絶望の思いがした。


「エヴァ様?もしや、何処か具合がお悪くなられてしまいましたか?」


 その気持ちが通じたのか、様子の変わったエヴァリストに、ピエレットが心配そうな声を出す。


「いや、大丈夫だ。ただ、レッティといるのに、微笑む事も髪を撫でることもできない我が身が情けなくてな。レッティ。俺は、やはり孔雀のぬいぐるみに居るのか?」


「いらっしゃる、かどうかは、エヴァ様のお姿が見えないので断定して良いのか分かりませんが、わたくしには、ぴぃちゃんがエヴァ様のお声でお話ししているように聞こえます」


 困ったように眉を寄せるピエレットに、エヴァリストはそうかと納得せざるを得ない。


「では、やはり俺は今、あの孔雀のぬいぐるみに居るということか。はあ・・・まあ。レッティが、すぐに信じてくれてよかった」


「だって、エヴァ様ですから」


 本当に良かった、というエヴァリストに、当然、と胸を張って言うピエレット。


 そんな彼女に、エヴァリストは、なんだその根拠は、と嬉しく、くすぐったい気持ちが湧き、内心で苦笑した。


「だが、おかしな現象に悲鳴をあげたりもしなかったじゃないか。なかなかに、肝が据わっている」


「それも、エヴァ様のお声だったからですわ」


 エヴァ様のお声が怖いなどあり得ません、たとえ何処から聞こえたとしても、とピエレットは揺れない瞳で言う。


「そ、そうか」


「そうです」


 またも、当然、と言い切るピエレットに、エヴァリストはあたたかな気持ちが込み上げる。


「ありがとう、レッティ」


「ですから。当然、必然なのです。エヴァ様」


 ふふ、と笑うピエレットは本当に可愛い、と暫し見つめエヴァリストは今後の話をピエレットに振った。


「ところでレッティ。俺を、このような状況に追い込んだ奴についてだが」


 エヴァリストの真剣な声と深刻なその内容に、ピエレットも姿勢を正す。


「はい。エヴァ様には、その犯人が分かっていらっしゃいますか?」


「ああ。この目で見たからな。俺を陥れたのは、ブノワト・アダンだ」


 忌々しく言い切ったエヴァリストに、ピエレットが瞳を見開く。


「え?アダン子爵令嬢ですか?ですが、エヴァ様は動物の園に倒れていらっしゃったと聞きました。このような言い方は何ですが、あの方のお立場では、動物の園に立ち入るのは、かなり難しいのではありませんか?それに、あの方は謹慎されていたのではないのですか?」


 王族が所有する動物の園には、貴族であっても容易に入れない。


 それが、特に目覚ましい功績をあげた立場、もしくは重要な立ち位置にあるわけでもない子爵という地位であるなら尚のこと、とピエレットは首を傾げる。


「もちろん、不法侵入だ。本人が言っていたからな。間違いない」


「まあ・・・。ですが、どうやって?どなたか共犯、協力した方がいらっしゃるということでしょうか」


「協力者、は、いるな。恐らくは、レッティが考えている形とは異なるが」


 ピエレットの疑問は尤もだと心中で頷き、エヴァリストはきちんと声にした。


「わたくしが考えるのとは、違う形、ですか?」


「ああ。俺達の常識では有り得ない」


 苦く言って、エヴァリストはブノワトと対峙した状況を思い出す。


「レッティは、俺が手紙に書いたことを覚えているか?隣国の怪しい術を使う者、という」


「はい。覚えています。ですが、怪しい術、というのが、そもそもわたくしには分かりません」


 勉強不足ですみません、と頭を下げるピエレットに、エヴァリストがそんな必要は無いと言い切った。


「あれは、俺達の理解の範疇を越えている。何と言っても、突然俺の隣に現れて、ペンダントに見える物を俺の首に当てることで、俺をこの状況に陥れたのだから」


「ペンダント、ですか?」


「ああ。あれに何か、秘密があるのだろうと思う」


 考えるように言うエヴァリストに、ピエレットは深刻な表情で頷きを返す。


「では、そのペンダントを手に入れられれば、エヴァ様は元のお姿に戻れるということでしょうか」


「仕組みは全く分からないが、その可能性はたか・・・おいっ、レッティ!何処へ行く!?」


 エヴァリストが言い終わるより早く、動き出そうとするピエレットにエヴァリストが焦った声をあげた。


「どこ、って。もちろんアダン子爵令嬢の所です」


「もちろん、って。レッティ。よく考えてみろ。何の証拠も無しに行っても、素直に渡すはずないだろう?」


 諭すように言ったエヴァリストの言葉に、ピエレットの瞳がきらりと光る。


「その時は、脅してでも」


「結構過激だな!?少し落ち着け」


「ですが、こうしている間にも、エヴァ様の身が危険かもしれないのですよ?長く心と体が離れるなんて、いいとは思えません」


 そう言って目に涙をため、ふるふると首を横に振るピエレット。


「ああ、泣かないでくれレッティ。今の俺は、君の涙を拭うことも出来ないのだから」


「エヴァ様。わたくしこそ、役立たずですみません」


「そんなことは無い、レッティ。俺こそは、君を守ることも出来ない立場で言い難いのだが。俺と一緒に、俺を取り戻してくれないか?」


「はい。もちろんです、エヴァ様」


 エヴァリストの言葉に、ピエレットは決意の瞳で頷いた。


 


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