狭間
「ボクも、かなえさんのこと好きですよ」と、レンはこたえた。
『ボク』と言っているから、真剣だし嘘ではないようだ。
今、レンとかなえは、側からみれば居酒屋で告白しているような感じになっている。
かなえはレンをみる。
「‥」
「‥レンくん、レンくんの好きは好きじゃないでしょ?」と、レンを下から覗き込むようにみる。
酔っ払ってるから、わけわからないことを言っているみたいに思うかもしれないが、そうではない。
かなえの言葉は、核心をついていた。
「だかぁらぁー、恋愛のぉだぁいすきぃとーちが‥うってことだよぉ」と、急に力尽きたようにテーブルにくっつくかなえ。
「かなえさん!」
レンは実際悩んでいた。
好きってなんだろうと。
好きと言ったら、好意があるとか、付き合うとか、了解とかOKとか、まったく理解出来なかった。
レンにとって、好きは好きで、表現の一つなのだ。
19歳の女の子が好き、ゲームも好き、ハルも好き、かなえさんも好き、何がいけないのだろうか?
それとも、好きということにちゃんと向き合わなければいけないのか?
レンなりに悩んでいたのである。
レン自宅。
困った。
かなえさんがダウンしたので、なんとか自宅まで連れてきた。
連れてきたはいいが、よかったものかと。
穂崎かなえがダウンして、彼女の自宅を聞き出せなかったので、仕方なく連れてきた。
いま、穂崎はソファーでスヤスヤ寝ている。
穂崎は、狙ってかそうでないかはわからないが、レンの家に何度か来たことはある。
今回みたいなのは初めてだし、まして2人きりだ。
さすがのレンも、店でも人気の美人な彼女が寝ている、しかも自分家でとなると、落ち着かない。
寝ている穂崎のすぐそばに座るレン。
「かなえさん、すごいなー、素敵すぎる」
そういいながら、かなえの乱れた髪を直しながら頭をそっと撫でる。
「寝顔もかわいいなんて反則ですよ」
穂崎の頭を撫でるレンの手が止まらないのではないかと思うくらい時が流れた。
翌朝
レンはかなえの側で寝てしまったようだ。
状況はこうだ。
かなえはソファーで寝ている。
レンは座って寝ているが、自分の腕に顔をのせ、横を向いてソファーの空いたスペースを使っていることになる。
そして、かなえは今、レンの方を向いて寝ていて、レンはかなえの顔の前辺りで寝ているのだ。
かなえの視界が開ける‥
霞んでみえる黒い物体。
見慣れない景色。
視界が晴れてくる。
黒い物体は、レンの頭、見慣れない景色はレンの家と理解した。
理解したが、動けなかった。
(やってしまった!)
そう思うと同時に、嬉しさも込み上げる。
今、かなえは恥ずかしさと嬉しさの狭間でもがいているのである。
しばらくそのままの体制でレンをみるかなえ。
「やさしいんだよね‥」といい、それをきっかけに起きるかなえ。
自分に使われていた毛布をレンにかける。
そして、背中から軽くハグして、ありがと!と囁き、台所へ向かって言った。
レンは、聞きなれない音といい匂いで目が覚めた。
「かなえさん⁈」と身を起こし辺りを見回す。
と、いっても、そこまで広くはないが。
「あっ、レンくん起きたのかな?」といい手を洗いこちらに向かってくるかなえ。
「本当にごめんなさい!」といい頭が膝につくのでは?というくらい謝ってきた。
「あと、台所も勝手に使ってごめんなさい!」とまた謝ってきた。
今度は頭が膝に当たったようにもみえた。
「気にしなくていいですよ、オレこそすみません。勝手に家に連れてきちゃって」
それを聞いて首を横に振るかなえ。
「わたしがいけないから‥」
(ホントこの人は‥)レンは左手で頭を少しサワサワした。
年上とか年下とか気にしてるのかな?とレンは思っていた。
職場でもそうだ。
自分はしっかりしなくてはいけない、そう思っているのが伝わってくる。
看板娘であり副店長であるプレッシャーなのだろうか。
(もっとオレががんばらなきゃいけないな)
そう考えながら、サワサワした辺りを今度は撫でていた。
かなえの朝食は美味しかった。
レンも自炊はしてるので、材料があったとはいえ、残り物で作ったとは思えなかった。
それと、かなえはコーヒーだけでなく、味噌汁も美味しかった。
「コーヒーもそうだけと、かなえさんのはなんで美味しいんだろ?同じ材料なのにさ」
と、美味しそうに飲んでいる姿をみて、かなえはニコニコしている。
「同じなようで、同じじゃないのよ!」と、ちょっと意地悪そうな笑みを浮かべている。
(これは、お客さんやられちゃうわけだ)
朝食を食べ終えてしばらくして、玄関のチャイムがなる。
レンの家はカメラ付きなので、外の映像が映し出されている。
「おっ、ハルか」と、対応しないで、そのまま玄関に向かう。
どうやら、レンにはかなえがいることは関係ないようだ。
玄関を開けると、元気いっぱいのハルがいた。
「おはよー!これ、出かける前に返しておこうと思って」と渡されたのは貸したゲームだった。
「ん?誰かいるのかな?」と玄関にある靴をみてハルは尋ねる。
「おお、かなえさんがいるよ」と普通に返すレン。
「あら、おはよーハルちゃん」とかなえがそのタイミングで出てきた。
「かなえさん、まさか‥」とハルのほっぺが膨らむ。
「ご、ごめんなさい!そんなつもりじゃなかったの」と胸を抑えて首を横に振るかなえ。
「ふ、2人ともさ、なんか楽しんでない?」
レンがそう言うと、かなえとハルはお互い見つめ合ったあと、笑い出した。
2人とも、本心はレンのことが好きでたまらないのに‥。