九十九レン
レンの願い‥
(あたしの記憶がなくなるのを知っていたの?)
レナの推測通り、レンは自分の身に降りかかる事を知っていた。
カレン、ノア、マコトがレンにあることを告げたのだ。
姉、レナに関する記憶と、レンがレンに会ってしまうことを。
そのため、三杉三姉妹が急に接触してきたようになってしまった。
三姉妹も自分達の記憶をレンから消されても、なんとかしたかったのが本音だ。
そんなことを繰り返す三姉妹の前に、奇跡のイレギュラーが生じる。
レンと天音が接触する‥ということである。
レンは思った。
姉と三杉三姉妹の記憶の欠如は、どう考えてもおかしいと。
そんなおり、いつもの喫茶店に入ってコーヒーの薫りを浴びた途端、雰囲気が変わっていたのだ。
「あれ?壬生さんは?」
レンは辺りを見まわす。
そして、驚いた。
全てが、宙に浮いていた。
「止まってる?」
レンの言う通り、浮いている全てのものの時が止まっていた。
「ここに来てしまいましたか」
カウンターの奥から、壬生が現れた。
「壬生さん!これは?」
そう聞くと、壬生はカウンター席に座るようレンを促す。
「とりあえず飲んでください」
壬生に差し出されたコーヒーを飲むレン。
「九十九くん、出会ってはいけない2人が出会って、こうなっているのです」
「‥2人?‥」レンはまたコーヒーを飲む。
「ボクと壬生さんですか?」
思わず立ってしまうレン。
いつも会ってる2人だ。なぜそれが理由になるのか、レンは不思議だった。
「九十九くんにはわからないかもしれませんが、ここの問題なんです」
そういい胸に手を当てる壬生。
「壬生さん、そこって‥」
「心ですね」
レンにはさっぱりわからなかった。
そんなレンをみて微笑む壬生。
「わたしの中には九十九がいて、九十九くんの中にはわたしがいるんですよ」
レンは、言葉がでなかった‥。
-数日前
壬生は、三杉三姉妹と会っていた。
「これは、わたしが知っている三杉三姉妹であり、そうではありませんね」そういい困惑していた。
カレン、ノア、マコトと目の前にいるのだが、みな子供だ。
「わたしたちの姿は気にしないで」とカレンが言う。
「あとでちゃんと説明します」とノアが続く。
「あたしたち、かわいいでしょ?」とマコトが笑顔でこちらを見ている。
「えっと‥では、説明よろしいですか?」壬生は覚悟を決める。
カレンが「マコト!」と指示を出す。
「はい!」
そういい、壬生にネックレスをかけようとする。
壬生は自ら屈む。
「さすが壬生さん!」マコトは嬉しそうだ。
「はい!おしまい!」マコトがそう言った後、すぐに壬生の頭の中に様々な光景が流れ込む。
「こ、これは?」壬生は戸惑っていた。
「壬生さん‥いや、レンくん!」カレンがそう壬生を呼んだ途端、壬生は気を失って倒れた。
真っ暗らな視界から、ゆっくり目を開ける。
光と共に、3人の人影が薄っすら見え、それが次第にピントが合うようにハッキリ見える。
「大丈夫?レンくん」
「レン」
「レンちゃん」
三姉妹がみな心配する。
「ボクは‥」
「レンくん、驚かないでね」といいカレンはかわいい手鏡をレンに見せる。
「え?壬生さん?これはいったい‥」
「ごめんね、レン。わたしたちでも防げなかったみたい」ノアが謝る。
カレンもマコトも頭を下げている。
レンは手を振る。
そして胸元のネックレスをみる。
ものすごく透明度の高い宝石が輝いている。
「それは、真実の心っていうらしいの」カレンが説明してくれる。
「強制的にレンを目覚めさせました」ノアが補足する。
「壬生さんは、レンちゃんなんだよ!」マコトも続く。
色々な事が、頭の中を渦巻く。
「情報量が多すぎて、流石にパンクしちゃうな‥」といいつつ、レンは内心パニックになっていた。
喫茶店の角の席でみんな座って話している。
レンの隣はマコトだが、ちっちゃい。
クリームソーダを美味しそうに飲み、舌を出して、カレンとノアに注意されている。
カレンからこう説明を受けた。
「簡単に言うと、壬生さんの中にレンくん、レンくんの中に壬生さんが入っていて、その2人が出会うはずのない次元で出会ってしまったの」
‥と、言われても信じ難かった。
ノアにはこう言われた。
「自分が自分に会う以上に、さらに危険なことらしいんだって」
‥確かに、複雑だが、単純に自分に合う以上の面倒くさいことが起きたのは理解した。
マコトは絶えずこう言ってた。
「天音さんいなかったら、ものすごく大変だったんだよ」
‥天音さん‥壬生さんの奥さんだっけ‥
壬生の見た目のレンは、頭を抑える。
「クラクラする‥」
ノアが支えに入る。
「多分だけど、そんなに長い時間は今の状態でいられないとおもう」
レンは、ノアの目をみて頷く。
「いいかな?レンくん」カレンが目の前に来た。
ちょこんとしゃがむと、カレンと見つめ合う。
「見た目は壬生さんなのに、不思議。目からはレンちゃんを感じるわ」
そういいながら、レンの頭をハグする。
「レンちゃん、いるべき場所、元の世界に戻るわよ」
カレンの言葉に、レンは静かに頷いた。
壬生とレンが出会う時代、レンが小学3年生の時まで戻るということになる。
「時間がないよ!」マコトがめずらしくリードする。
レンを中心に三姉妹が手を取り合い囲む。
カレン、ノア、マコトがそれぞれ何かを言った途端、光る大きな球状のものが展開される。
ある程度の大きさになった瞬間、収束をはじめる。
そして、点の光を最後に残して4人は消えてしまった。
‥
‥‥
‥くん
九十九くん?
呼びかける声で目を覚ます。
目を開けると、そこにはひとりの大人がいた。
「壬生さん?」
「ああ、よかったです!他の子のボールが九十九くんに当たりそうになって‥」
「壬生さんがかばってくれたんですか?」
レンをハグしているようにも見えるが、間違いなく壬生が反射的にカバーに入ったのだろう。
改めて周りをみるレン。
小学校の体育館、バスケ、コート脇にも人はいる。
その中から3人の女の子が飛び出してきた!
「レンくん!」
「レン!」
「レンちゃん!」
三杉三姉妹だ。
「大丈夫だよ!壬生さんが助けてくれたから」
レンと壬生、お互い尊敬し合い、共に歩むことになる。
その深い絆と信頼は、誰も断ち切ることはできないくらい。
しかし、お互い自分を過小評価していた。
人には言わない、見せないが、内心はそう感じていたのである。
そして、そうなると相手の良さが際立って見える。
壬生もレンもお互い、尊敬や憧れが強くなる。
それが、それぞれのメインストーリーや未来に影響を与えてしまったのだ。
偶然か必然か、お互いの心の中に入り心が満たされてしまった。
オリジナルの2人は存在しなくなり、未来も分岐も進むことになる。
こうなると、何がオリジナルだ‥っとなる。
壬生は壬生、レンはレンのはずなのだ。
レンは、様々な分岐、未来を経験し
、壬生は、それを見守り自らの家庭の幸せを満喫していくことになった。
‥なったのだが、何が起きるかわからないのが人生でもある。
街の外れ、今は使われなくなった灯台がオブジェクトのように佇んでいる。
錆びた外壁が、さらに灯台の存在を際立たせていた。
そこに、天音とレンがいる。
海風が心地よく、天気もいい。
天音19歳、レン26歳、2人は静かに波の音を聴いている。
「レンくん、ありがと」天音が口を開いた。
首を横に振るレン。
「天音と結婚できてよかった」
そういいレンは天音の手を取る。
「わたしもレンくんと結婚できてよかった‥」
レンに寄り添う天音。
穏やかな風が2人を包む。
天音の髪が靡く。
レンと天音が出会って2年、結婚して1年半くらい。
「天音、子供ほしいって言ってたでしょ?もし、出来たら名前どうするの?考えてたりする?」
そう言われ天音はレンをみる。
上目遣い、少し傾げた首、可愛すぎてレンは爆発しそうだった。
「うーん、男の子ならせいじゅうろう、女の子なら‥れな‥ってどうかな?」
「せいじゅうろう‥なんか凛々しいね!‥れな‥は、聡明な感じがするね!」
2人は見つめ合う。
そして笑う。
「生まれたら考えればいいよね!」天音がそういい無邪気に笑う。
レンも天音の肩を抱きしめて、一緒に笑った‥。
「見方しだいで変わるんですよ」
以前、天音に言われた言葉だ。
改めて思う。
そうだなっと。
全てが戻り、未来が変わろうとも、人自信は変わらないのかもしれない。
「一番良くないのは、その人にたくさん色々つけちゃうことですよ」
天音の言葉だ。
本来見るべきものをみないで、勝手に決めつけ設定を増やしていく。
人が人ではないように‥
結局、どれが正しくて間違いなのか?‥が問題ではなかった。
壬生とレン、多くの出来事思い出の中で、それぞれ進むことになる。
ただ間違いないことがある。
レンと壬生は必ず出会い、共に歩んでいく。
「レーン!」木々が風に揺られ、軽やかなメロディを奏でている。
その間にある遊歩道を歩くレンに、後ろから声がする。
レンが立ち止まり振り返る。
ニコリと笑うレン。
誰と出会い、付き合い、歩むのかは‥
本人次第であり、他の人が決めらない‥
これは、九十九レンの道だから‥
あたしは、見守ることしかできない。
-第三部完




