幻影
レンは、19歳の女の子しか興味をしめさなくなった。
自分が19の時はもちろん、20、21となった現在もだ。
どんな綺麗な大人な女性にいいよられても、かわらなかった。
逆もしかり、年下、後輩からもだ。
ただ19歳のみにしか興味をしめさなかった。
レンが20歳の時‥
「なあ、朱馬なんで19歳が大人なんだ?」と、ストバスの休憩中にレンがそう言った。
ボールをクルクル手元で回しながら朱馬は笑いながらこたえる。
「まったくな、20歳でも怪しいのに、19で成人とかな。でも、オレは年齢より本人しだいだと思うがな」
手元でさらに激しくボールが回る。
「本人しだいか‥」レンも手元でボールをシュルシュルと回し始める。
「例えばさ、一人で生活している人なんて大人じゃん?オレ、一人暮らしするビジョンみえないもん」といって、朱馬はまた笑う。
「何をもってして大人なのかな‥オレはそんな大人は嫌だけどな」とレンはふてくされたように言った。
「またハルちゃんのことか?」とボールをクルクル回しながら朱馬はレンをからかう。
「朱馬‥お前な、オレはハルはハルでいて欲しいだけなんだよ。」
「わかってるって、ハルちゃんは特別なんだろ?」そう言って笑う朱馬の声が辺りに響いていた。
レンは、ちゃんと説明するのが面倒で、特別と言っている節がある。
特別と言えば、周りは納得してくれるので余計にそうなる。
「特別で悪いかよ‥」とボソッと呟くレン。
そんなレンを一瞬みてから立ち上がる朱馬。
「まあ、なんだ、理由はどうであれ、特別なものがあるっていうのは、いいもんだと思うよ」そういいながら、ドリブルをはじめる朱馬。
そのままリングに向かいジャンプシュートをする。
ボールは綺麗な放物線を描きリングに吸いこまれる。
それをみて立つレン。
(19歳の良さを、素晴らしさを教えてくれた、気付かせてくれたのはハルだ。でも、色んな19歳と出会ったけど、ハル以上はいないんだよ‥)
「なあ、レン」朱馬がレン呼んだと同時にパスがきた。
不意打ちだが、なんなく受け取るレン。
「な、なんだよ」
「おいおい、今の取るのかよ、マジか」朱馬が頭を抱えてる。
レンが朱馬にリターンする。
「つっ!あぶな!」といいながらパスを受け取る朱馬。
「これで部活やってなかったってチートだろ」そういい笑う朱馬。
「とにかくだ、レン、ちゃんと向き合えよ!」といって片手で掴んだボールをレンの方に出した。
「‥あぁ」そう言ってレンは空を見つめた。
仕事の休憩中、レンは寝てしまったらしい。
今日は天気もいいし、ポカポカ日和だ。
「向き合えか‥オレ、全然じゃん」
そう言って、2階ベランダのベンチから立ち上がるレン。
そのまま一階の仕事場に戻っていった。
店内には、常連客のハルの姿があった。
レンに気付くと、とびきりの笑顔と右手を大きく振り、レンに挨拶をしている。
周りの客も、慣れたような光景だという空気と、店内のBGMが妙にマッチしていた。