エースとしてではなく‥
結局、レンのチームは2連覇とレン自身、2年連続のMVPを獲る。
そんなシーズンの裏である男は違う戦いをしていた。
全日本代表で、レンに続きNBAに挑んだ男‥
朱馬だ。
レンの友達、戦友、バディでもある。
ストバスでは、2人で大会をかき乱していた。
そんな2人のバスケを幼い頃からみているりん。
その2人が今はNBAにいる。
喫茶店 South Wind
りんが友達と話している。
壬生はカウンターから見守る。
(楽しそうですね)
友達の1人が何やら吐露する。
「朱馬さん、どうしちゃったのかな」
「しゅーさん?」
「え?しゅーさんって、何?何?知り合い?」
(しまった!つい、いつもの癖で呼んじゃった!)
「あー、よくレンにぃと遊んでたよ!その時、よく見てたんだ。で、あたしが小さい頃、朱の字をそう見て言ったらしいの」
「なるほど、それがしゅーさんになったと‥って、許しません!」
「え⁉︎」
「え⁉︎ではありません!わたし、朱馬さんに憧れて、バスケ始めたんだからね!」
「えー⁉︎楓そうだったの!」
渚佐楓りんの親友にしてマブである。
「そうだよ!レンさんが、最近有名だけど、昔からバスケやってる人は、朱馬さんに憧れてるんだよ!」
「ごめん、楓‥」
「りん‥」
「はい?」
「ゆるしません!」
「だよね‥」
「だけど‥」
「だけど?」
「朱馬さんに会えるなら許そう!」
「えぇ!」
‥‥
「ということで、レンにぃ、お願いします」
「とんだ災難だったな」そういいモニター越しに笑うレン。
2人はPCで会話している。
双方の自室も映っているわけだが、レンの部屋は相変わらずスゴい。
モニター越しとはいえ、レンの顔をみると安心と幸せが押し寄せてくる。
「朱馬か、オレは構わないけど‥」
「ホント⁉︎」
「ああ、ただ、今は無理だな」
「シーズンだから?」
「まあ、それもあるけど、他にも理由があるんだ」
「聞かない方がいいかな?」
りんがモジモジしているのがモニター越しでもわかる。
クスっと笑い、緩んた顔を一瞬で戻すレン。
「その友達には、まだ言わない方がいいと思うが、朱馬は怪我をしていると思う」
「怪我って!しゅーさん、身体強いのに!」
「だからだよ。あいつはパワータイプでもあるからな」
わかっている。レンにぃとしゅーさんのコンビが強かった要因の一つでもあった、柔と剛。
まさか、それが‥
「大丈夫だ‥りん」
まるで、りんの心を汲み取ったようなレン。
「ただ、あいつは、今シーズンを最初からターゲットにしてないからな」
「え⁈」驚くりん。
「りんに伝わるかわからないが、シーズンは順応、プレイオフが本番みたいな感じなんだよ」
「しゅーさんも考えてるんだね」
「そうだな‥でも、危ないんだよ‥」
「にぃにぃ‥」(りんは気が緩むとレンにぃではなく、にぃにぃと言う)
結局、朱馬のチームはプレイオフにでることができなかった。
そして、朱馬もシーズン終了まで誤魔化しながらのプレイが続いた。
全日本の若きエースでも、様々な壁に立ち向かわなければならない、という事でもある。
レン自宅
「本当にレンはすごいな」そういいながら、レン自宅中央にあるオフィスでコーヒーを飲む朱馬。
「穂崎さん!相変わらずコーヒー美味しいです!」
朱馬は後ろを向きそう言った。
その方向から、穂崎かなえが現れる。
「ありがとー!朱馬くん」
「はい、レン」
「ありがと」
レンにコーヒーを渡すとかなえは戻って行った。
奥で何やら騒ぎ声が聞こえるが、かなえと蘭だろう。
「すごい環境だな」朱馬がニヤニヤしながらそう言った。
「おかげで今シーズンも無事終わった」そういいレンはコーヒーを一口飲む。
「オレとは偉い違いだ」
「‥朱馬」
「ん?」
「何か企んでないか?」
「どうしてだい?」
「シーズンの動き、オフェンス100%でやってないよな?」
「孤軍奮闘の身ですからね!誰かと違ってさ」といいつつ笑う朱馬。
「真面目に話そう、しゅー」
レンが朱馬の事を、しゅーと呼ぶ時は真剣な時だけだ。
「降参だ、わかった!話すよ」朱馬は両手を上げている。
コーヒーを一口飲み話し出す朱馬。
「正直さ、チームにガッカリしたんだ。結論から言うと、優勝を狙ってない‥んー、意識してないかな?なんだよ」
「いいチームだと思ったが、中身は違うのか?」
「いいチームなんだが、いいチーム過ぎるんだよ。オレが負傷した時も心配ばかりしてくれたさ」
朱馬の目が真剣になる。
「でも、違うだろ?オレたちは、優勝するために、切磋琢磨しなきゃいけない。オレを糧に前に進んでほしいくらいだ‥だけど、違うんだよ‥」
レンは黙って聞いている。
朱馬は止まらない。
「仕事になってるのに納得いかないんだよ!優勝はしたくないのか?さらに上を目指したりしたくはないのか?って‥だからさ‥」
「しゅー」レンが口を開く。
「選手が悪いのか、フロントが悪いのか、また、その両方が悪いのか、ボクはそのチームじゃないからわからないけど、一つだけ言えることがある」
朱馬の目がレンの目を捕らえる。
「しゅーが変えればいい」
わかっていた。ルーキーだとか関係ない。わかっていたのだ。
自分ではなく、周りを責めたのも。
怪我も、必死過ぎて起こしたようなものだ。
それでも、チームメイトは心配してくれた。
朱馬は、床の一点を見つめたまま黙っていた。
「リバウンド3位、ブロック4位‥チームのために戦ってるじゃないか」
レンが優しく語る。
全日本のエースは、とりわけオフィスで目立っていた。
それはそうだ、レンに比べれば見劣りする選手ばかりだ。
ただ、朱馬は自分のディフェンス力をさほど意識していなかった。
全日本ではポイントゲッターだからだ。
得点絡みのこと以外はある意味体力温存が役目だった。
それがどうだろう。NBAに来て、怪我をしたとはいえ休むことなくシーズンを終えた。
リバウンド3位、ブロック4位はそれを物語っている。
自分の得点以外のことに働いた結果だ。
「しゅー、おまえのプレイで奮い立たない選手がNBAにいると思うか?」
レンの言葉を聞く朱馬は、静かにコーヒーを飲む。
その飲んだコーヒーカップを見つめる朱馬。
「じゃあ、なんで‥」
その言葉を聞いてレンはフッと笑った。
「レン!」
「悪い、お前でもそうなるのかと思ってさ!」
「わ、悪かったな‥」下を向く朱馬。
「ボクは、しゅーのチームをこう分析している」
「え?」朱馬は少しビックリした。
「まあ、ボクの分析だ、参考程度に聞いてくれ」
頷く朱馬。
「しゅーのチームは、今シーズンは捨てたと思ってる」
やっぱり‥という顔をする朱馬。
「ただし、今シーズンだけだ」
驚く朱馬。
「なぜ、怪我しているしゅーを使っていたんだ?」
「それは、オレが平気だと‥」
「ちがうな。チームとして、朱馬のディフェンス力にびっくりしたんだろう。オフィス強化で獲得しているはずだからな。たまたま、しゅーが怪我をしたが、それがマイナスになったわけではないと思う。朱馬の怪我辺りから、チームがディフェンスよりにシフトしてるんだ」
朱馬は驚いた。敵チームなのに、そこまで分析するのかと。
「だよな、みどり」レンがそういうと、オフィスの壁に隠れていた及川みどりが顔を出した。
「もう、レンったら、なんで呼ぶんですか!」すこし頬を膨らませてるみどりが小動物みたくて、かわいい。
「ごめんごめん!でも、みどりの方が説得力あると思うよ」
「そ、そうですか?わかりました!」そういうみどりの頬はほんのりと色付いている。
みどりは耳元の髪を掬い、一呼吸してから口を開く‥
「では、失礼します。朱馬さんのチームはオフェンスメインのスタイルでした。それは当然、朱馬さんを獲得した時点からわかっていた事です。点の取り合いを好むゲーム展開をするチーム。だからといってディフェンスを捨てるわけではありません。割合がオフェンスに片寄っているんです。ゾーンに入ったりオンファイアすれば、爆発的な得点力を生産するチームだと思います。ですが、入ったら‥なんです。選手はシーズンを通して波が生まれます。バイオリズムといった方がわかりやすいでしょうか。その波はオフェンスは大きいと言えます。また、選手バランスも影響してきます。そんな中、朱馬さんが怪我をし、ディフェンスにプレイスタイルをシフトしました。ご存じの通り、ディフェンスに波はありません。経験値と努力の世界です。オフェンスより華がありません。ですが、とても大切でもあります。様々なことが重なり、朱馬さんのチームは、チームとしてディフェンスを意識しシーズンを戦うことにしたのではないでしょうか!‥あっ!すみません!つい‥」
みなみは深々と頭を下げている。
「大丈夫だよ!みどり!ありがとね!しゅー、ボクは、みどりが集計しているデーターを参考にしたんだよ」
「そうなのか‥及川さんも、レンもありがとう‥オレは怪我のことを考えてばかりで‥」
「ベストな状態でないことに対する焦りはわかる。だけど、ベストじゃなくてもこの成績だ」
「確かに‥新人王はダメだったけどな」そう言って少し笑う朱馬。
「落ち着いたようだな」
「ああ」
「新人王は仕方ないんじゃないか?あんなオフェンスの鬼が同期じゃ」
「確かに!」2人目を合わせ笑いだす。
「オフェンスの鬼って、レンが言うのおかしいだろ!」
「そうか?得点3位、リバウンド2位、ブロック5位で新人王とったけど、オフェンスバカと言ってもいいくらいだよ」
「いやいや、それはレンがMVPだから言えるんだぞ?他のヤツにはそうは言えん」
「朱馬も本来なら言えるだろ?」
2人顔を見合わせて笑い出す。
「来シーズン、がんばるわ!」そう言う朱馬の瞳は輝きを取り戻していた。
レン自室
「‥ということで、オフで日本に帰ったら、朱馬会ってくれるってさ!」
「ホント?ありがとー!レンにぃ」
レンとりんはPCを通して会話している。
「それでだ。壬生さんのところにしようかと思ったけど、変更した」
「え?喫茶店じゃないの?どこだろ?ワクワクする!」
「なんでりんがワクワクするんだ?」モニター越しでも、りんの喜びが沢山伝わってくる。
「いいでしょ!」りんは、自分も楽しみだが、楓が喜ぶのも楽しみで仕方ないのだ。
「まあ、いいけど‥楽しみだな」
「うん!あたしも楽しみ!」
2人はしばし見つめ合う‥
「やっぱりアレだな‥」レンが頭をサワサワする。
「ん?なにぃ?」りんはキョトンとしている。
「はやくそっちで会いたいな」
レンの言葉に、りんの顔が真っ赤になる。
「う‥うん」
照れてるりんのかわいい声がベッドセットのスピーカーから聞こえる‥
(かわいい声だな‥)




