この道を‥
れ‥
レン‥
レンに‥
レンにぃ!
なんだかかわいい揺さぶりと声に起こされる。
「あれ?寝ちゃったのか」
「レンにぃ、どこでも寝れるよね!」
「あっ、喫茶店で寝ちゃったのか」とレンは辺りを見回す。
「はい、どうぞ!」と壬生がブラックコーヒーを差し出す。
レンが壬生をみる。
「眠気覚ましですよ!」と、壬生が満面の笑みでいう。
「九十九くん、だいぶ疲れてますね」と気遣う壬生。
「帰る前は、何かと大変で‥」そういい、ブラックコーヒーを飲む。
レンの大変は、バスケ以外も含まれている。
ちらっと、りんをみる。
いつもと変わらず壬生さんと話している。
泣いていたりんが遠い過去のように思えた。
あの時、レンは寄り道をした。
りんを元気付けようと思ったのと、自分の思いを話すために‥
「ついたぞ」
レンにそう言われて辺りを見回すりん。
「ここって!」さっきまで泣いていたとは思えないほど、目がキラキラしている。
「ああ、オレが練習してたコートだよ」
「レンにぃがよく話してたコートね‥すごい、設備もしっかりしてる‥」
「めずらしいだろ?外でこれだけちゃんとしたコートは‥」
りんは、レンにぃが興奮してるのかな?っと少し思ったが、それはそれで嬉しいので、そこはスルーした。
「どうしてここに?」そういい少し首を傾けるりんが可愛くみえる。
自販機で買ったミルクティーを差し出すレン。
「ありがと‥いただきます」と囁くようにいい飲むりん。
レンも、缶コーヒーを飲む。
「りんには見ておいてもらおうと思ってさ‥」と話し始めるレン。
頷くりん。
「ここが日本での原点なんだよね‥今のボクがあるのは、間違いなくここのおかげだ」
また頷くりん。
「‥だけど、一部にしか過ぎないんだよ‥ボクはみんなに支えてもらってるから、それに比べたら‥ね」
そういうレンの顔をみてりんは口を開く。
「でも、ここも大切だよね‥レンにぃの一部なんだもん」
「確かに‥全部大切なものだな」
夜風が2人の間を通り過ぎる。
それは冷たいものではなく、2人の温度によって、心地よい風となっているかのような錯覚に包まれる。
そんな風が通り過ぎた後、レンが口を開く。
「りんは、もっと大事なんだよ」
その言葉を聞いた途端、りんの瞳から涙が溢れる。
「ご、ごめん‥今日は、りんを泣かせてばかりだな‥」
それを聞いて、泣きながらも顔を左右に振るりん。
「うれしい‥の‥」
そういい、レンの左袖を掴むりん。
「りん‥」
しばらく間を置いてレンは話し出す‥
「色々難しいが、今はバスケに集中しなければいけないと思ってる」
その言葉に、りんは少しビクっとした。
「りん」
「ぅん?」
「ボクもりんが好きだ」
りんは何も言えなかった。
溢れる涙と両手で口元をおさえているだけだった。
そんなりんを、レンは優しく抱きしめる。
「このまま聞いてほしい‥」
レンの腕の中で頷くりん。
「2年‥いや、3年待ってくれる?」
りんは、レンが放った言葉を瞬時に理解し消化した。
何も言わず頷くりん。
そんなりんを、レンは愛おしさを込めてさらに抱きしめた。
りんも応えるようにレンをさらに抱きしめた。
誰もいないコートに、2人の鼓動だけが、お互いの身体に響き渡っていた‥
‥店内で楽しそうにしているりんを再びみて、レンはニコリとする。
「レンちゃん、キモい」
「ハ、ハル⁈なんでここに?」
「は?それは寝てるレンちゃんが悪いんじゃない?」冷ややかな目でみるハル。
「幼馴染みはすごいですね!」と壬生が割り込む。
『壬生さん!!』レンとハルの声がユニゾンする。
「ハルさんも、レンにぃもやめてー!」と、りんも割り込む。
「りん」
「りんちゃん」
割り込むりんのポーズをみて、2人ともクスっと笑う。
「ハルさん!レンにぃ!」
ごめんごめんと2人はりんに謝っているが、まだクスクスしている。
「りんちゃん、この2人にとっては、これが日常ですよ?」と壬生が補足する。
2人とも頷いている。
「あ、あたしも知ってる‥もん」と下を向くりん。
ポン!っと頭の上に重さを感じる。
「わかってる」
レンの手のひらだ。
ニコリとして、りんの頭をまたポンしてから、カウンター席に戻るレン。
「りんは、本当に周りをみてるよな」と、席から頬杖ついてりんをみるレン。
「ホントよねー!周りみてるし、行動が早いのよね」とハルはそういい、コーヒーを飲む。
りんは、顔が染まっているのを隠すため、両手で覆う。
(周りをみている‥そうなんだけど、あたし、ハルさんとレンにぃが楽しそうに騒いでいるの‥羨ましかった)
そうなのだ。りんはわかっていたのだが、仲裁に入った。
ハルに嫉妬しているわけではなく、レンのことが好き過ぎるのだ。
お互いの思いがわかったからといっても、りんは18歳。
若さとは強みでもあり、弱点ともなるということは、当の本人には分からないものである。
閉店した喫茶店内。
壬生とレンが何やら話している。
「壬生さん、オレ3年目はかなりヤバいかもです」
「おや?MVPが何か起こしますか?」
壬生は、レンのヤバいが、マズイの方ではないとわかった。
まだこれから2年目が始まるのに、3年目の話をしだすレンに、壬生は2年目は、もう道もゴールも見えているのだと悟った。
「傲慢とかではないんです」
そう言ってカフェオレを飲むレン。
頷く壬生。
「わたしでもわかります。環境、サポート体制がバッチリですものね」
壬生はこぶ茶を飲む。
「1年で、かなり変わりました‥本当に色々と‥」
レンはくるりと回り、カウンターを背に寄り掛かり天井をみる。
「スーパースターが店にいるのも信じられませんよ」と、壬生は笑みを浮かべる。
「やめてくださいよ‥まだルーキーですよ?」と、レンもニコリとする。
「向こうの世界はどうですか?」壬生もレンの隣に座る。
「楽しいですし、やりがいがありますね」レンの姿勢は変わらない。
「そうですか、それはよかった」
「ただ‥」そういってレンは身を起こす。
「ただ?」壬生は不思議そうな顔をする。
「りんが、心配ですね」
「りんちゃんですか!」壬生の顔が笑顔に変わる。
「なんで笑顔になってるんですか⁉︎」
「これは失礼しました。つい‥」
「壬生さん!」
「‥りんちゃんは、愛されていますね!」そういいこぶ茶を飲む壬生。
「壬生さん」
「はい?」
「オレのエゴかもしれないです」
「エゴ?それがどうかしましたか?大事なのは、九十九くんのここです」
そう言って壬生は、自分の胸に手を当てている。
りんは母子家庭だ。
りんが幼い時に両親は離婚。
以後、母親が女で一つで育ててきた。
そんな環境下だからこそ、いとこのレンがよく遊んでいた。
5歳の差をものともしない、りんのパワーは凄かった。
そんなりんをみて、レンはパワーをもらっていた。
レンも、子供ながら、りんの凄さに驚嘆していた。
今思えば、あの時、りんを好きになっていたのかもしれない。




