どんなときも
第二部
はじまりのおわり
九十九りんは、レンのいとこだ。
九十九レンは世界のスーパースターとなれば、それは鼻が高い。
しかし、りんは違った。
喫茶店‥South wind
黒い髪で少し伸びたショートが風に揺れ、制服も一緒に踊り、さわやかな空気をまとった女の子が店前にいた。
カランコロンとドアを開けると心地よい音が鳴る。
一瞬でコーヒー豆の香りに包まれる。
「いらっしゃいませ!りんちゃん」
と、店員のみさきさんが迎えてくれた。
「こんにちは!みさきさん!あのー‥壬生さんはいますか?」
「オーナーね、ちょっと待っててね!」といいながら、手でカウンター席にと誘導される。
壬生聖十郎は、ここのオーナーである。
しばらくしてオーナーが出てきた。
「いらっしゃいませ!りんちゃん、どうかしましたか?」といいながら、りんの前に素早く紅茶を出す壬生。
ありがとうございます‥といい紅茶を飲むりん。
(おいしい‥)少し頬が赤くなる。
「壬生さん、あたしもうすぐ19になるんです」と、りんが話し始めた。
「19ですか、おめでとうございます!」と、壬生に言われる。
その言葉に、素直に喜ぶりん。
「ありがとーございます!」と、テーブルにぶつかるのではないかと思うくらい頭を下げるりん。
すぐ体制を戻し、壬生の方をみる。
「あたしが、19になったら、レンにぃ、みてくれるかな?」とティーカップに視線を移しながら、真剣な眼差しで語るりん。
「りんちゃん‥」壬生は一呼吸置いて口を開く。
「九十九くんに、親戚ではなく、一人の女性としてみてほしいのですね?」
そういって、りんのティーカップに新しい紅茶を注ぐ。
りんは頷いて、紅茶を飲む。
「九十九くんは、エネルギーをもらってますからねー‥色んな人たちから‥でも、19歳が一番凄いんですよね!」
「じゃあ!!」といい俯いた顔を上げるりん。
それに対して、ゆっくりと首を横に振る壬生。
「りんちゃん、エネルギーが凄いのは凄いですが、九十九くんの気をひくことは難しいでしょうね‥」
「壬生さん‥」
「彼には沢山のサポートがあります。現にすぐ近くにもいますしね(といいこちらをチラっとみる壬生)その中で、自分だけに注意を向けるのは並大抵の事ではありません」
りんのティーカップを握る手に力が入る。
「なんで‥いとこなんだろ‥」
小さな声で言ったのだが、壬生には聞こえていた。
「りんちゃん、九十九くん‥これは失礼、いつもの癖で‥りんちゃんも九十九くんでしたね!ごめんなさい、配慮が足りなくて‥」
壬生のその言葉に、りんは顔を左右に軽く振る。
「りんちゃんがレンくんが大好きなのは、レンくんはわかってますよ」
「壬生さん、なんでわかるの⁉︎」
りんの真剣な眼差しをみて、壬生は口を開く。
「簡単なことですよ!りんちゃんと話すレンくんは、別人ですよ」
「‥そう‥かな‥?」
りんは自信がなかった。
「無理もないと思いますよ。りんちゃんにとっては、それは当たり前ですからね!」壬生の優しい空気感が漂う。
「当たり前‥」りんは考える。
と、突然テーブルに身を委ねた。
そのまま「壬生さん、わがりまぜん‥」といい、思考がショートした。
そんなりんをみて、ニコっとする壬生。
「産まれた時から、りんちゃんを見ているんですよ?」
「あ、あたしも、レンにぃばかりみてたし、追いかけていたんです!」
「レンくんから聞いてますよ!ベッタリだったって」
「そうです‥いつも、レンにぃのお嫁さんになるって言ってたし‥」
「そういえば前に、レンくんがいってましたね!オレにはお嫁さんになってくれる人がいるって‥りんちゃんのことでしたか」壬生に言われるとなんだか不思議な感じで、りんもほわほわしている。
「レンにぃ、ちゃんと覚えていたんだ‥」
そういい、やっと上体を起こす。
「りんちゃん、レンくんは、そこら辺の人とは違いますよ?それに、自分を下に下に見過ぎですね」
そういい、タルトを出してくれた。
「これは、わたしからの奢りです」
りんの大好きなブルーベリーが沢山入っている。
「いつもすみません」
壬生は、美味しそうに食べるりんをしばらく見守っていた。
「壬生さん!あたし、諦めない!だけど、今の自分とは、さよならする!」
急にそう言い出した。
「タルトを食べて、閃きましたか?」と、嬉しそうに話す壬生。
「レンにぃのことは大好き!いとこはいとこ!あたしはあたし!」
まるで呪文のように繰り返すりん。
「レンにぃの事を好きなのは変わらない!だけど、今までの自分はよくないと思うから‥」
そう言うりんの目元に、うっすらと涙がみえる。
「りんちゃん、これは、わたしが思う話なんですが聞いてくれますか?」
そう聞かれて頷くりん。
涙をハンカチで吸収していく壬生。
「りんちゃんが、レンくんのことを好きなのは悪いことではないと思うんです。それがいとこであってもです。なぜなら、人を好きになるのに、縛りは関係ないからです」
りんは、少し驚いた様子をみせるが、そのまま聞いている。
「結婚していようが、恋人がいようが、人は誰かを好きになる‥、アイドルやスポーツ選手、配信者なんかを好きになるとかですね!」
りんは頷く。
「でも、恋愛とは違いませんか?」と上目遣いで聞かれる‥流石に壬生もくるものはあったが、首を横に振り話を続ける。
「時に、恋愛以上のパワーを出すこともありますから、どっちが違うとか優劣は存在しません。むしろ、どちらの方がより真剣で熱量を帯びているか‥そこの差が気になるくらいでしょうか‥」
りんは少し考える‥
「好きになるってすごいことですね」
その言葉に、壬生は優しく微笑む。
「莫大なエネルギーがなければ無理でしょうね‥そう考えると凄いと思いませんか?」
素直に頷くりん。
「りんちゃんは、素直でよろしいですね!」そういい、食べたタルトの皿を片付ける壬生。
「ただ、ルールは守らなければなりませんよ」壬生がニコリとしていうから何故か身が引き締まる思いがする、りん。
「ルール‥」下を少し向くりん。
「難しい‥」そのまま膝上にあった手がグーになり、力が入るりん。
「逆に、このルールがネックになり問題も起きるわけです」
「なん股とか不倫とかですか?」
「おや、りんちゃんからそんな言葉がでるとは‥、まあ、それもありますね!でも、そこまで行ったら終わりです」
「終わり‥そうですよね‥後戻りできないですね」
「そんな難しい顔しないでください!わたしが言うルールとは‥」
りんが真剣に壬生をみている。
「‥好きな対象に迷惑をかけない‥です!」
「えっ⁈」りんは驚いた。
「それだけですか?」
「りんちゃん、この言葉の真意わかりますか?それだけではないんですよ?」
りんは高速で顔を左右に振る。
「わかりました!今回は特別です。」
「好きには色んな形があるのはわかりますね?恋愛、尊敬、憧れ、異性として、同性として、年上年下として、アイドルや芸能、漫画やアニメ、その他数々の趣味娯楽‥本当に色々あります」
りんも頷く。
「どれも、好きになっていいですし、夢中になってもいい‥ただし、他人に迷惑をかけてはいけません」
壬生の話を聞くりんの目は真剣だ。
「ここで言う他人には、自分が好きになった人も含まれます。どうですか?簡単なことですか?それだけでは収まらないと思いませんか?」
りんは考える。
「壬生さん、好きな気持ちは一方通行でいいってことですか?」
壬生はニコリとする。
「いいところを突いてきましたね!後で話そうと思っていたのですが、ついでに一緒に話しましょう!まず、好きな相手に迷惑をかけない。これは、大きな意味で、その人を取り巻く全てのものを含めてのことです」
目の前のりんが固まっているように見える。
「好きになるということは、対象だけではないってことです!」
りんは考え込む。
「‥壬生さん、例えば、あたしがレンにぃの事を好き、その‥レンにぃばかり見てちゃダメってこと‥?」
壬生は笑顔で応えてから話し始めた。
「そうですね‥りんちゃんが、レンくんしか見えなかったら‥それはダメでしょうね」
りんは、さらに考えているようだ。
「壬生さん、もし、レンにぃが迷惑と思ってなかったら?」
「そうですね、それでも‥ですかね!レンくんと繋がりのある様々なことまでは、どうだかわかりませんよね?」
そう言われて、りんは天井をみて考える。
「あたし、レンにぃしか見ないし、気にしないだろうなぁ‥、他はどうなろうが、どう見られようが気にしない、気にならない‥かも‥」
(これはこれで、りんちゃんの良さでもあるんですがね‥)心の中で笑う壬生。
「壬生さん、好きになるって、全部ってこと?」そう聞いてきたりんの仕草と表情が愛くるしかった。
「ふふっ、正解でもあり不正解でもありますね」
「えー!壬生さん、意地悪だー!あたし、壬生さんのこと嫌いになっちゃうよ?」
壬生はなんだか嬉しそうだ。
「困りましたね!どうしましょう!」そう言い2人は目を合わせ、クスっと笑う。
「りんちゃん、冗談でもやめてくだかいね!わたし落ち込みますよ」
「だって、壬生さんいつも完璧だし、何でも知ってるからつい‥」
「りんちゃん、わたしを過大評価しすぎですよ!わたしも人間ですし、不完全なものですよ」
そういい、りんにカフェオレを差し出す。
「ありがとーございます!あたし、壬生さんのカフェオレは飲めるし大好きなんだよね!」りんは、美味しそうに飲んでいる。
「本当にいい子ですね‥」と壬生が呟く。
「壬生さん?何かいいました?」
壬生が、首を横に振る。
「わたしの奢りですから、ゆっくり飲んでくださいね!」
満面の笑みで頷くりん。
「壬生さん、色々話せてよかったです!あたし子供だから、分からないことだらけだけど、でも、がんばります!」
「りんちゃんは、謙遜ですね!そんな事はないですよ」と優しい笑顔で対応する壬生。
今までの『りん』にさよならとありがとー‥、そして、これからの『りん』に、よろしくと、未来を託して‥
九十九りん、18歳、小さい頃からの夢‥
‥レンのお嫁さんになること!
美味しそうに飲むりんを壬生は、これからも見守ることを、心に誓った。
これは、レンが結婚する前の話であり、レンとみんなの心を満たす物語。




