それぞれの世界
レンがNBAのコートに立つその姿をみて、フローラは思わず泣いた。
あの時の少年が、まさかNBAの舞台に立つとは思ってもみなかった。
過去の思い出が甦り、現在のレンの姿にフィードバックされていき、思い出が、現実とリンクする。
現在31歳一児の母。
シングルマザーとして、日々格闘してきた。
その努力は、人にはわからないだろう。
自分よりもエリーがいつも優先だった。
そんな中、レンが再び現れた。
訳も分からず胸の鼓動が高鳴る。
「やだ、わたし‥」
しばらく画面の前に釘付けになるフローラ。
レンのプレーをみてフローラは驚いた。
「わたしがいる‥」
涙が次から次へと溢れてくるフローラがそこにはいた。
喫茶店
「泣かすつもりはなかったんですが、すみません、フローラ」といい謝る壬生。
泣きながら首を横に振るフローラ。
「わたし、レンみて思ったんです」
「はい」優しく微笑む壬生。
「レンが大好き‥って」
「はい」壬生は暖かく見守るようにみている。
「わたし、レンを無意識に消していました‥でも、レンはわたしをずっと忘れてなかった‥」
「九十九くんを見ていると、たまにフローラを思い出しますからね」と、優しい目で、フローラを見ながら語る壬生。
「わたしは、プロとしてコートに立てなかったけど、レンがわたしを連れて立たせてくれた」涙が止まらないフローラ。
「そうですね!自分が‥ではなく、周りの一部として、立つことや夢を叶えることはできます」そう言った壬生も、フローラと同じだとおもっていた。
「わたしに資格はないかもしれない‥でも、レンの側に居たいんです」
壬生は静かに聞いている。
「あ、センセーに言われた、誰にでも資格はある‥は理解しているんですよ。わたしのいいたいのは‥」
「恋愛対象になるかどうか?ですか?」と、壬生の優しい声が舞う。
「はいセンセー」
「フローラ、結果を恐れて進まないのは、人生の楽しさのかなりの部分を失っていることになりますよ?フローラの人生です。楽しみたくないですか?」
そう言われて首を横に振るフローラ。
「センセー、わたしどうしたらいいか‥」
壬生はニコリと笑いこう言った。
「九十九くんと話してみてください」
フローラは、近々アメリカに戻るので、その時に会ってみようと思うことを壬生に告げて帰っていった。
「オーナー、おつかれさまでした!」と、かなえがコーヒーを差し出す。
「ありがとございます!この店イチバンのコーヒーを飲めるのは幸せですね!」そういいゆったりとした時間に身を任せる壬生であった。
レンは気付いていない。
19歳の女の子が好きになったスイッチを入れたのは、フローラであることを。
記憶があるとかないとかではなく、ただ、フローラへの憧れが強く、それが優っていたからだ。
某スタジオ
用意された席に座っている男がいる。
レンだ。
しばらくして女性がくる。
「久しぶりだね、レン!」そう言って満面の笑みを浮かべるフローラ。
「フローラ!」そういいながら、レンはフローラにハグしていた。
「久しぶりです‥」
レンがバスケを教えてくれた人がいるという話題を言ったことで、今回の企画が執り行われた。
2人は懐かしい話や、現在の話などで盛り上がりつつ終始和やかなムードの中で行われた。
そんな2人の対談をみていた、エリーは、あまりにも凄すぎて、金縛りにあったかのように動けないでいた。
幼い時の出来事であったが、大人になった時でも、鮮明に覚えているほどの
インパクトがあったようだ。
対談以降、レンとフローラは連絡をとったり、会うことも多くなった。
みどりは、フローラをみていて、「この人の力は必要‥」そう呟いた。
チーム99(みどりが命名)に、フローラが加わるのは時間の問題であった。
Tの文字の下に99が相合傘のように配置されているデザインがロゴとして使われている。
Tは二重になっており、白の下に赤みたくなっている。
読み方はTEAM99と書いて、チームツクモと読む。
ひねりも何にもないが、レンではなく九十九にしたのがみどりらしい。
そう、このロゴとチーム名はみどりが考えたのだ。
フローラが、新たにスタッフに加わるにあたり、ちゃんと決めようという展開になり、レンはみどりに頼んだのだ。
レンのサポート体制も補強がされ、パワーアップしていく。
2シーズン目のレンだが、こと恋愛に関しては本当に浮いた話がない。
本人はいったい何を考えているのだろうか?
みどりは、レンとの親密さも増し、何も知らない人がみたら、お似合いのカップルだというだろう。
みどりも、20歳になり女としても魅力がUPしていた。
フローラも加わったことで、レンと誰が付き合うのか?恋は実るのか?楽しみでもあり、不安でもある。
誰かが幸せになるということは、誰かが不幸になっていることもあるからだ。
レンは、みどりを通して色々状況を把握できている。
フローラは、レンのバスケスキルや身体面でのサポートだ。
ただ、今までのフローラの仕事も続けてほしいとレンに言われ、各学校でバスケを教えている。
フローラが忙しい時は、レンたちが面倒をみるので、ものすごく安心して仕事に打ち込めるらしい。
見た目が、若いのに、さらに最近若々しくなっているようで、人気もすごいようだ。
ハル、かなえ、蘭たちも変わらず、レンとのパイプラインは健在のようだ。
特に、蘭は栄養学に通じており、レンやレンのチームと連絡を取ることが多くなっていた。
レンにとって、ハルは息抜き、かなえはリフレッシュみたいな図式が形成されつつあるみたいだ。
過酷なプロの世界で戦うのも大変なのだ。
誰もいないコート上に、レンが立っている。
急に座るレン。
試合の時とはちがい、静まり返っている。
その静寂が心地よい。
ふと、あの監督にはお礼を言わないとな‥といい笑う。
「お礼どころか、感謝しなきゃいけないかもな」そういい仰向けになり、両手を伸ばしながら天井をみていた。
ちなみに監督は女性となると、レンの周りがまたざわつくのかと心配してしまうのは、少し考えすぎだろうか?
レンの見ているものは、レンの世界。
誰かが進むわけではない。
レン自身が進み切り開いて行くものだ。
何もないコートに、レンのビジョンが映し出される。
それら一つ一つの中には、大したこともないものもあるかもしれない。
しかし、それらを含めて、今のレンが形成されているのは、確かなことである。
レンは、仰向けのまま寝てしまったらしい。
お腹にやわらい感触と適度な重さを感じ、ゆっくりと目を開けようとした‥
その瞬間、柔らかいちがう感触が、レンの唇に広がった。
それは、不謹慎かもしれないが、心地よい感触だった。
レンが目を開けてちゃんとみると、頬を染めてレンにまたがったまま、こちらをみている女性がいた。
「みどり⁈」
ほんの一瞬の間だったが、2人にはかなり長い時間に感じ、しばらく時が止まったように感じていた。