それぞれのスター
壬生は、開店前だがエリーを招き入れた。
エリーはなぜ、レンのことをししょーと呼ぶのか?
壬生はエリーにジュースを振る舞う。
おいしそうに飲むエリー。
満足そうな顔で「エリーね!ししょーみたくなりたいの!」といい出した。
「そうですか、エリーさんはししょーみたくなりたいのですか」といいながら、エリーのジュースのグラスに注ぐ。
「エリーさんは、なんで九十九くんみたくなりたいのですか?」と壬生のいい声が辺りのコーヒーの香りと一緒に漂う。
「ミブさん!エリーってよんでね!‥うーん‥ママがわたしよりすごいのよ!‥っていってたから!」
「そ、それにカッコいい!」
そういうエリーの瞳はキラキラしている。
「確かにカッコいいですね!しかも、アレだけ活躍すれば尚更でしょうね」
エリーは美味しそうにジュースを飲んでいる。
「でも、エリー。九十九くんはいませんよ?」と壬生が言ったあと、エリーが壬生を指差した。
「ミブさん、おなじニオイがするの!」
実は、レンは日本に来てから、かなり目立った。
バスケスタイルが、フローラの影響とはいえ、型にとらわれてなかったからだ。
「え?なんで両手じゃダメなんですか?」
レン9歳、西小で助っ人で参加した時だった。
ミニバスには3Pラインはないが、レンはロングをよく打っていた。
その時にボスハンドでシュートしていた。
もちろん、ワンハンドもできる。
でも、こちらの方がイージーだった。
「いや、それは主に女の子がやるフォームで‥」と、当時の監督が言った。
「ボクは今のスタイルを変えることはしません。ダメならやめます」とレンはハッキリとこたえていた。
「だめですよ、佐藤先生」と仲介に入ったのが、当時ヘルプに来ていた壬生であった。
「佐藤先生、型にはめてはいけませんよ」と壬生が言うと「壬生先輩に言われるとかないませんわ」と素直に認めた。
「彼はすごいでしょ?」
「ええ、発想というか、日本人にはないですよね、あーゆースタイルは‥」
壬生は笑う。
「先輩、笑い事じゃないですよ!」
「ごめんなさい、佐藤先生。先生は、基本の大事さをしっかり教えてあげてください」
「基本‥ですか?」
「ええ、これはどのスポーツ、んースポーツ以外もですが、当てはまり、大事なことです」
「例えば、九十九くんのボスハンドは選択の一つなんです。基本がなければ派生しませんから」
「確かにそうですが、レンくんには必要ないような?‥」と首を傾げる佐藤先生。
「そんなことはありませんよ!できるからと言って基本は無視できませんから」
「先輩がいてくれてよかったです!でも、レンくんはみんなとは違いすぎますよ」
結局、個別で指導することになった壬生。
レンは壬生と練習しだしてすぐわかった。
「フローラにバスケ教えたの壬生さん?」
その時のレンの瞳は眩しかったのを今でも覚えている。
フローラが19歳の時に、レンと出会っている。
レンはその時は9歳になったばかりだっだ。
フローラは15歳の時に、壬生と出会った。
フローラは好きなスポーツはなかった。
それは、色々なスポーツをやってきたからだ。
しかし、壬生と出会い全てがかわる。
「マジシャンみたい‥」
その通りで、壬生は大型PGで、マジック・ジョンソンが現代に戻ってきた!とまで言われていた。
しかし、原因不明の壬生の歳ではなるはずもない眼の病気で引退した。
幻の日本人NBA選手となってしまったのだ。
病気がなければ、間違いなくNBAのコートに立っていただろう。
たまたま、フローラの学校にヘルプでバスケを教えていた壬生をみて、出会い全てが変わったのだ。
つまり、壬生、フローラ、レンは、偶然とはいえ繋がっているのである。
レンが壬生を尊敬しているのも納得できるのではないだろうか。
レンが、ストバスに行ったのは、日本の型にはめる指導が嫌だったからだろう。
西小でも、助っ人以来バスケはしなかった。
壬生と出会い、さらに成長したレンだが、力の差ゆえの孤立が生じた。
のちにレンは、壬生の店でバイトをするようになり、現在に至るわけである。
壬生が教えたことがあるとしても、同じニオイがするとは‥
壬生は、つい口元が緩んだ。
「ミブさん!なにニヤニヤしてるの?」とエリーは首を傾げてる。
「すみません。ところでエリー、フローラは一緒じゃないんですか?」
そう聞いたら、エリーが小さい手でこっちに来てと呼ぶようなジェスチャーをする。
「どうしました?」と壬生がエリーの顔の近くで小声でいう。
「ママ、さっきからおそとのあそこにいるんだよ」と教えてくれた方をみる。
店の外、街灯が何本かあるのだが、その一つに隠れるようにしながら、こちらをみていた。
「相変わらずですか」そういい壬生は笑った。
そのあと、フローラを交え、懐かしい話も含めて楽しいひと時を送ったのであった。
レン9歳、レンのこの歳は引っ越しが続いた。
よくグレなかったと付け加えておこう。
レンは、フローラと結婚するのだと、よく言っていたらしい。
フローラはその度に、しっかりと対応していた。
(レンがわたしくらいなら‥)
いつもそう思ってしまった。
逆に、レンもフローラは何もかもが素敵なんだ!と思っていた。
それは、初恋とも知らず。
フローラの記事、出ている雑誌は全て揃えていた。
お隣なので、会いたい時には会いに行けた。
フローラは嫌な顔ひとつしない。
フローラもレンが好きだった。
9歳の男の子としてより、人として好きだった。
(わたし、10年後までまてるかな?笑)と、ひとりごとを言ってたりした。
そんな2人が、対談という形で後に会うことになるとは、この時は考えもしなかっただろう。
喫茶店
「こんにちは!」そう言って入ってきたのは、フローラだった。
かなえが出迎える。
「いらっしゃいませ!こんにちは!フローラさん、オーナーね?」といいながら、右手で奥に誘導している。
この日は、壬生とフローラが2人で色々話すために時間をとった。
「センセー、今日はありがとうございます!」と、フローラが切り出す。
「大丈夫ですよ!わたしは基本、暇人ですから笑」
壬生のその言葉に、フローラも緊張が解けたようだ。
「センセー、わたし‥」
スッと手を出す壬生。
「九十九くんのことですね、大丈夫です。フローラもいいんですよ」
そう壬生に言われて、目から涙が溢れてくるフローラ。
「センセー、やっぱり、すごいです」
泣きながらフローラは、そういい壬生をみる。
「誰にでも、好きになる資格はありますから‥」そういいニコリと笑う壬生が、眩しく見えた。