覚醒
nt〜19のせかい〜
19歳の女性は無敵だ!
そして、めちゃくちゃかわいい!
そんな19歳の女の子しか愛せない、ロリコンとも変態とも言われかねないある男の話である。
スラリとしながらも均整のとれた体。
着痩せする体は、それはそれで損するが、そこまでのダメージはない。
所作も落ち着いているし、話し方も優しく、物腰もやわらかい。
普段から余計なことはあまりしゃべらないし、友達からも信頼されている。
よく周りをみていて気遣いもある。
そんな一見普通で、問題ないように見える彼だが、こと、ある点に関してはリミットブレイクする。
彼の名は、九十九レン。
彼は19歳の女の子にしか興味がないのだ。
街中のある喫茶店。
カランカランと心地よい音を鳴らしながらお客が入ってくる。
「いらっしゃいませ」と、いい声が店内に響く。
「おーい、レンちゃん!遊びにきたよー!」と明るい声がその響きをかき消す。
「ハルか、どうした」とレンのいい声がまた広がる。
「どうした?お客様に対してそれは失礼じゃない?レンちゃん」といいながら、頬を膨らませている。
ハル‥レンの同級生で、高校まで同じだった。レンが大学に行かなかったため、ハルのレンと同じ日々はそこで終わった。
しかし、レンがこの喫茶店で働いているとわかると、毎日のように行くようになった。
そう、ハルはレンのことが大好きなのだ。
「今日はここで待ち合わせしてるんだ!」と元気いっぱいのハル。
「何人なんだ?」と優しい声でハルに聞くレン。
ハルは、指を3本にしてレンの目の前に突き出す。
「そうか、ならこっちがいいかな」と案内してくれた。
喫茶店の奥にある個室風のスペースで6人掛けのテーブルだ。
この場所はグループの人たちに人気なのだが、今日は空いていた。
「あれ?今日は空いてるんだね!いいの?」とハルの元気な声が響く。
「んー、ここはさ、オレらが特別に案内しない限り使えないんだよ」とレンが淡々と話す。
ハルはレンの気遣いに感謝の意味を込めて背中をパンっ!と叩いた。
小声で「ありがとね!レンちゃん」といいながら席に向かっていった。
店内は忙しく、レンは案内してくれた後しばらく顔をみせることはなかった。
ハルも友達が到着し、違う店員が案内してくれて見事合流していた。
注文も決まったのでチャイムを押すとレンがきた。
「ご注文をお伺い‥」そういいレンの動きが止まった。
「ハル、その子‥」
そう言われてハルはハッとした。
あわてて、レンがその子と言った子に聞く。
「みどり!何歳?」ハルは内心焦っていた。
やってしまったと‥
「え?今月で19歳になります!」みどりと呼ばれた子の答えを聞いて、ハルは愕然とした。
恐る恐るレンをみると‥
「あ、もう遅かった‥マンツーマンマークされてる‥」
ハルがそう言うように、レンがみどりに近づき色々話していた。
ハルが19歳の時、レンから聞いた。
「ハルも19歳か、やっぱり19歳の女の子は違うな」
いつもと違うレンの視線。
ハルは動揺した。
レンと出会って、その全てに惹かれた。だけど告白できない。
今の関係がものすごく心地いいからだ。
「なにが違うのよ!一つ歳とっただけじゃない」と誤魔化すのが精一杯だった。
「歳をとる?ちがうよ、19歳になろうとしている子と19歳になった子だけは、違うんだよ。何かを纏ってるみたいなさ」
レンの眼差しが真剣だ。ハルのドキドキが加速していく。
「あ、あたしにはわからないけど、何か纏ってる?」と冗談混じりに聞いたハル。
「うん、ヤバいくらい」というレンの目が真剣だ。
そんなレンの目をみて、内心キュンキュンしているハルがいた。
(あたしは自分じゃわかないもん!そんなにちがうのかな?)
ハルとレンの距離がどんどん縮まる。
「ハル、ボクのこと好きだよね?」
レンは真剣になると、自分のことをボクという。
「す、すきぃ⁉︎」慌てふためくハル。
「そ、そりゃあ、好きだよ!嫌いだっ‥」といいかけた瞬間には、レンはハルをハグしていた。
「レン⁈」
ハッと我にかえるハル。昔の記憶から現在の喫茶店に戻ってきた。
(いけない!みどりがハグされちゃう!)慌てるハル。
「レンちゃん!」
「なんだいハル。どうした?」前屈みになったハルの目の前にレンの顔がある。
さっきまで、みどりの、19になるみどりの前にいたはずだ。
「レ、レンちゃん、大丈夫?」と直球で聞くハル。
「ん?オレ?いやいやオレよりハルだろ?大丈夫か?」
ハルは一瞬思考回路が止まった。
(あれ?ハグしなかった‥仕事中だからかな‥)
すぐ回路が復帰する。
「ん?あたし?あたしは大丈夫だよぉー!」とレンをみるハル。
「そっか、ならよかった。ゆっくり楽しんでな」そう言ってハルの肩をポンとたたいて仕事に戻っていった。
ハルはありがとうと言ってから友達と話し出す。
「みどり、ごめんね!びっくりした?」
「あ、はい。でも、ハルさんの友達のレンさん、いい人ですね!」とみどりがニコニコしながら話す。
「いい人?」ハルは思わず言ってしまった。
「わたしもそう思うなぁー」そう続いたのは、みどりとは別のハルの友達の一之瀬蘭20歳だ。
「蘭までそんなこといって、さっきみどりにマンツーしてたのみたでょ?」とハルが心配そうにいう。
「うん、みてたよ!だってハルのお友達のレンさん、みどりの背中のボタンが外れてるから後にたって隠しながら教えてくれたんだよ?」と蘭がなんだか嬉しそうに話している。
「そ、そうなんです!最初びっくりしちゃったんですが、優しい方だなぁって」とみどりが照れて話している。
(やらしい方だと思うんだけど‥)と心の中で思っても堪えたハル。
(欲より気遣いを選んだ?‥まさかね)
確かに、みどりの今日の服は、背中が大胆にも見える服で、さらにボタンで止まっている。
ボタンが外れるということは、背中もさらに見えて、ブラも見えてしまうということになる。
「黙ってれば見られるのにねー!」と蘭はニコニコしながら話す。
途端にみどりの顔が紅くなる。
「蘭ちゃん、意地悪だよー」そういいながら、蘭をポカポカ叩くみどり。
「みどり、きをつけなさいよ!男はレンちゃんみたいなのばかりじゃないからね!」とハルが釘を指す。
(あれ?おかしいな、レンがいい人みたいじゃん、これじゃ‥)
「ハル大丈夫か?」19になったあたしにレンは優しかった。
いや、さらに優しかったが正しいだろう。
なんでそんなに優しいの?と聞いたらこうこたえた。
「19歳だから」
「え?」とあたしは思わず言ってしまった。
「ごめんごめん、19歳だからってのは嘘ではないんだけど、それは、ハルのことが特別だからだよ」と、さらりというレン。
途端にハルの顔が染まる。
(特別?それはあたしが19だから?それとも‥)
首を横に振るハル。
「ハル、大丈夫か?」と、レンが頭に手を乗せてきた。
「うん、大丈夫。心配してくれてありがと!レンちゃん」
あの時と変わらない、変わってないレンだと、ハルは思った。
喫茶店でのレンの対応はまさにそれだった。
喫茶店を出て家に帰るまで、色々考えてしまった。
家の玄関前に着いた時にハルは立ち止まり、天を仰いで、玄関をみてこう言った。
「あたしはあたし、レンちゃんはレンちゃん」
軽く頬を叩く音が、閑静な住宅街に響いた気がした。