浮気って到底許されることではありませんよね?
とっっっっても短いので2、3分程度で読めます。
「はじめまして、美しきご令嬢。私はアルノール・フォルランと申します。どうか、私にあなたの名を教えていただけませんか?そして願わくば私とお付き合いしてくださいませんか?」
「お久しぶりです、アルノール様。どうか私との婚約を解消していただけませんか?そして願わくば二度と私の前に現れないでくださいませんか?」
私、リディアーナ・フィールレンはとても有名である。悪い意味で。陰険令嬢、と裏も表でも様々な悪口を言われている。そして、その元凶が私の婚約者であるアルノール・フォルランである。彼がない事ないこと、言いふらすおかげで、私は今日も孤立している。
だが、そんな私にも、数は少ないが友達がいる。
「リディ、おはよう。あなたが貸してくれた小説面白かったわ。」
「おはよう、シア。そうでしょ、私のお気に入りなの。」
シアンナ・リーゼン。数少ない友達の一人だ。彼女とは本好きであることから、よく一緒に買い物に行ったりもしている。
「リディ、おはよう。シア、」
「おはよう、レイ。」
レイナルド・リーゼン。彼も私の友達だ。シアの双子の兄で、成績優秀、品行方正の優等生である。
「もうすぐ卒業パーティーね。」
「ええ、これでやっとあの婚約者とおさらばできるわ。」
私の婚約者アルノール・フォルランは私の一つ上の学年である。そのため私より一年先に学園に通っていたが、女好きだったこともあり、今では令嬢を取っかえ引っ変えして遊んでいる。もともと、私のことを地味だの不細工だの言っていたのでこうなることは目に見えていたが。
「にしても、あいつはリディに婚約破棄される可能性を考えないのかしら。」
「本当だよねぇ。学力もあまりいいとは言えないし、仕事はどうするつもりなんだろうね。」
「私に全部任せて遊び呆けるつもりだったんじゃない?まぁ、もうそれは無理だけどね。」
私は今回の卒業パーティーが終わったあと、アルノールに婚約の解消を申し出るつもりでいる。今回の卒業パーティーはアルノールのご両親、私の両親も来る予定なのでその後に時間を貰っている。
「やっと婚約破棄できるのね。リディも当日はオシャレするんでしょう?」
「ええ、やっぱり彼を最後に見返したいから。」
「リディだってかわいいのに、どうして浮気なんてするんだか。思う存分見返してきなよ。」
「レイ、ありがとう。頑張るね。」
そして、あっという間に日はすぎて、卒業パーティーの日がやってきた。卒業式もつつがなく終わり、やがて卒業パーティーが始まった。
「なんなの、あの男。卒業パーティーだというのに、婚約者以外をエスコートするとか、本当にありえないわ。」
「まぁまぁ、でも、さすがにパーティーの直前に連絡が来たときはさすがに非常識だなとは思ったわ。」
そう、実はあの男、アルノール様はパーティーの直前になって「他の令嬢をエスコートするから、お前のエスコートはできない」と連絡をよこしてきたのだ。
「ねぇリディ、あの男に一泡吹かせてあげない?」
「どういうこと?」
「あいつ、いかにも汚れが目立ちそうな服着てるでしょ?だから、つまづいた振りでもして、ジュースぶっかけて来なさいよ。で、嫌味のひとつやふたつ言って来なさい。」
確かに、婚約を解消するだけじゃ、ちょっと物足りないなって思ってたし、シアの言う通り、あの高そうな服にジュースでもかけて少し嫌味を言うのもいいかもしれない。
「そうね、少し面白そうだわ。人としてはあまり褒められた行動では無いけれど。」
「それなら浮気の方が褒められた行動ではないから、悪行ではなくて善行だと思いなさい。」
「ふふっ、それじゃあシアは私の勇姿でも見てってね。」
それが、、、どうしてこんなことになるのかしら?
今、彼は膝まづいていて、その前に私が立っている状況だ。どうしてこのような状況に陥ったかというと、
私が作戦を実行しようと思い、給仕にジュースを貰って彼に近づくと、彼は私に気づいたようで私に近寄ってきた。「これは作戦失敗かな?」と思い、諦めて挨拶をしようとしたら、彼は突然膝まづいて、
「はじめまして、美しきご令嬢。私はアルノール・フォルランと申します。どうか、私にあなたの名前を教えていただけませんか?そして願わくば私とお付き合いしていただけませんか?」
なんて言い出したのだ。正直、私は今とても戸惑っている。だって、私にあんなにぞんざいな態度だった婚約者が突然告白をしてきたのだ。誰だってどういうことかと思うだろう。私のことを美しきご令嬢だと言って、さらに名前を教えて欲しいと言ってきたのだ。正直すごくムカついている。少しメイクをしただけで、私だと気づいてない様子だ。なんだか考えると余計イライラしてきた。長年一緒にいたというのに全く気づかない。今だって、自分に酔っているように「どうだ、俺かっこいいだろ」的な目線でこっちを見てきている。
「本っ当に、ありえない」ボソッ
「お久しぶりです、アルノール様。どうか、私との婚約を解消していただけませんか?そして願わくば二度と私の前に現れないでくださいませんか?」
「えっ?」
あぁ、本当に憎らしい。どうしてこんな男と婚約し続けれたのか不思議でならないわ。
「アルノール様、私のこと散々馬鹿にして、コケにしておいて、今更求婚でもしてくるおつもりですか?自分のこと、かっこいいとでも思っておられるんですか?勘違いも甚だしいですね。大体、浮気するような人を誰が好きになるんでしょうか?どうせ、遊びだけの関係なのですよ。自分は特別、自分だけは見捨てられないといった、その考え方、直された方がよろしいのでは。」
アルノール様は私がここまで言うと思っていなかったらしい。口を開けて固まっている。私もどうやら鬱憤が溜まっていたらしい。「婚約者がいるのに。こんなに人が沢山いるところで密会ですか。」ぐらいにしておこうと思っていたのに、言うはずのないことを言ってしまった。
「何事ですか。」
想像以上の騒ぎになってしまったらしい。先生がやってきて、周りには野次馬が集まっている。
「フォルラン様が先程から固まってしまいまして、休憩室で休まれた方がよろしいのではないかと思います。お騒がせしてしまい申し訳ありません。」
「そうか、分かった。だったら私が休憩室に連れて行っておく。」
「ありがとうございます。」
「ちょ、ちょっと待て。」
どうやら、放心状態から抜け出したらしい。
「何か?」
「な、名前を教えてくれないか?」
どうやらこの男、本当に馬鹿ならしい。ここまで言ったのに気付かないなど、有り得るのだろうか。
「先生、フォルラン様はどうやらご乱心のご様子でして。早く休憩室に連れて行かれた方がよろしいかと。」
「あ、あぁ。」
そうして、アルノール様は休憩室に連れて行かれた。本当に、二度と会いたくないのだけれど。
それから、しばらくして私とアルノール様の婚約は解消された。どうやらアルノール様は黙って家の金を使い、賭博などもしていたらしくご両親にはこっぴどく叱られ、勘当を言い渡されたらしい。さらに、私の家には慰謝料という名の臨時収入が入った。
「無事婚約を解消できて何よりだよ。」
「えぇ、本当に。おめでとう、リディ。」
「ありがとう二人とも。」
「にしても、リディはすごいね。あそこまで徹底的に調べあげるとは。」
「そんなことないよ。」
浮気はバレなければいいという訳でもないし、人として最低な行為だから。浮気されれば誰だって悲しいし傷ついてしまう。それで自分に自信を失う人もいれば、これまではなんだったのかと嘆く人もいる。私だって、やっぱり知ったときは悲しかった。私がオシャレに興味がなく疎遠にしてきたせいで、彼が浮気したんだと思った。でも、きっと私が何をしても彼は浮気していたと思う。結局、浮気をする人は何があっても浮気するのだ。だったら、私が徹底的に潰してあげないと。だって、浮気って到底許されるものではないでしょう?