第41殺 感情
生神が用意した死体の傀儡は、非常に細い糸が付いていあることがバレてしまったためにすぐにその糸を切られて使い物にならなくなってしまった。
本来ならば、もっと苦戦するような相手だったのかもしれないが、楽々と攻略できそうだった。
「これだけ強かった『アビス・オブ・アビス』との最後の戦いが───猛者ばかりであった俺の暗殺者人生の最後の相手がお前なのか?かなり萎えるぜ」
「僕だって、こんなに早く対応されるとは思わなかったよ」
シトロンは、糸がついていることをカレンに言われる前から薄々理解していた。その理由としては、死神と戦っている際に、糸を付けられていないと説明付かないような挙動を、自分自身で行っていたからだ。
その際は、地面を転げるようにして着地をしたので糸が切れて、逃げ道を無くして殺されることはなかったのだろう。そして、糸に気付かなかったことからも知らず知らずのうちにメルセデスが操られていたことも納得いく。
「私も、こんなに弱いとは拍子抜けね。まだ、切り札を残しているんじゃないかしら?」
「残念だけど、あの髑髏傀儡は君達が壊したんだ。アレを作るのは、一苦労なんだぞ?肉を沿いで綺麗に洗浄して、形付けして糸を付ける。それだけ作るのが大変なものを君達は見るも無惨に破壊したんだ。全く、酷いよね」
「もう1体いる可能性はねぇのか?」
「ないよ。僕があの中に入れたのは広い肋骨があったからだ。肋骨の中に入れなければ、僕はあれほどまで精密に動かせない」
「へぇ...それじゃあ、降伏したらどうかしら?」
「うん、僕は諦めて白旗を揚げるよ。どうか、生きて返してくれないかな?」
そう言って、正座をするようにして生神はその場にへたり込む。そして、銃を突き付けられた時のように両手を挙げた。
「おいおい、全ての黒幕が生きて返してもらえると思ってるのか?生きてる者は全て死ぬんだよ。生神を名乗るお前は、必ず死ぬんだ」
「そうよ。ボスを、アルピナを...メルセデスを殺した『アビス・オブ・アビス』との戦闘の黒幕を助けることなんてできないわ。それだけの死体を集めていたなら、私達の戦いを見ていたんでしょう?それならば、私が敵に非常なことくらい知っているわよね?」
「───助けて...助けて...」
そう言って、土下座するようなポーズを取る生神。だが、そんなことを気にせずにカレンは土下座する幼き少年である生神の首筋に矢を突き刺す───
「───ッ!」
ことはなかった。
カレンは、自分の体を動かそうとするのだがそれが上手く行かないのだ。体を動かそうとしても上手く行かないのだ。
「ふふふ、残念だね、2人共。僕の本職は傀儡師じゃない。支配者だよ。僕は、君達のことを支配した。言い換えるならば、洗脳だよ、洗脳。メルセデスを洗脳したのと同じように君達を洗脳したんだ。感情と肉体の両方を操り、思考を奪って君達を殺す。条件は揃ってるから、もう君達のことはいつだって殺せるんだよ」
「へぇ...そうなの。それは大変ね」
「さぁ、殺し合いを見せてくれ。『ジェネシス』の生き残りさん達」
生神がそう言うと、カレンに迫ってくるのは身も心も生神に洗脳されてしまっているシトロンであった。
今度は糸も付いていないし、体の中に誰かが潜んでいるわけでもない。メルセデスと同じように操られているのであった。
「───うぅ、ぐ」
何も考えず攻撃してくるシトロンに、カレンはトンファーで何度も殴られる。動きが鈍いのだ。これも、洗脳の影響だろうか。
───と、この時にカレンは考える。
「どうして、自分は思考の自由を奪われていないのか」と。
カレンは現在、「考える」という行為自体を考えている。洗脳されているのであれば、シトロンのように獣のようにして操られているはずだった。
そして、カレンは先程の生神の言葉を思い出す。それはこんな言葉であった。
「感情と肉体の両方を操り、思考を奪って君達を殺す」
この言葉が意味していること。それは───
「───感情と肉体の両方が操られなければ思考は奪われない」
メルセデスも、自分の行動を疑わずに裏切り行為をしていたように、両方とも100%で操らなければ、獣のように暴走しないはずなのだ。ならば、現在は感情と肉体の両方が100%───言葉を変えると完全に操られている状態であるはずだ。
───では、何故カレンは思考できているのか。
カレンは思案する。そして、自分のことを思い出した。シトロンとカレン自身の違い。それは───
「───私は、人造人間だ」
そう、カレンは人造人間であった。そして、シトロンの人造人間の説明にあったのは「感情が薄かった」というものだ。
もし、感情が「薄い」のではなく「不完全」と考えることにするのならば。そもそも、カレンが持ち合わせる感情が100%でないとするのであれば。もしくは、何者にも操ることのできないような機械的な感情だとするのであるならば。
カレンが完全に操られていないことに───言い換えれば、思考が奪われていないことにも納得することができるだろう。
ここに来て、何度目かのカレンが「人造人間である」ことの利点が出てきたのだ。
「───面白いわね」
そうは思いつつも、生神を相手取るには獣のように攻撃してくるシトロンをどうにかして倒さなければならない。きっと、シトロンが失神しようと死ぬまでカレンに襲いかかってくるだろう。だから、今回の「倒す」はほとんど「殺害する」と同義であった。
───が、カレン自身を除いた『ジェネシス』唯一の生き残りであるシトロンを殺害するには、カレンも胸が痛む。カレンは、感情が薄いが感情が無いわけでは無いのだ。
味方には同情をするし、嫌いな相手には軽蔑を向ける。だからこそ、カレンは考える。メルセデスを殺さずに、生神だけを倒す方法を。
───そして、カレンは思いつく。
ほぼ全ての戦闘を目の当たりにしていた生神だからこそ、通用する策を。
「実行する他ないわね。タイトル、52の話」
すると、カレンは話を始める。これまで紡いできた鎮魂歌を振り返るようにして。これまで、戦ってきた相手を思い出すようにして。カレンは、シトロンの猛攻を動きの鈍い体で避けながら、生神に聴こえるような声でこう言い放った。
「───この世には、知ってはならない52の話があるらしい。
その話の内、8つでも知ってしまえば自分の身に不幸が起こるというのだ。
それが、『死』なのか、『虚無』なのか。
その52の話。それは、いつだって4行らしい。」
次回、最終話?




