第37殺 鎌
「お前はッ!」
シトロンの目の前に現れたのは、黒いローブを着てアノニマスのような仮面を被った、巨大な鎌を持った人物───死神だった。
シトロンは、一度この人物にあったことがある。それは、今から4年前の任務の時。カリファを殺害して、シトロンを怠惰に堕とした張本人である人物であった。
「名乗るほどでも無いですが、勿体ぶるほどでもありません。まぁ、名乗る名を持っていないのですが」
前回出会ったときと一言一句変わらない説明。声は、酷く無機質なものでそこに「生」というものは感じられなかった。まさに、死神のようである。
「人呼んで『戦争屋』。人呼んで『私刑執行人』。人呼んで───」
「死神だろ、お前のことは知ってんだよ。黙れや、このクソ野郎が」
全盛期に前にして、攻撃を自ら避けることもできなかったほどの強敵。
アルピナが強者であり、彼女と戦ったステラが猛者であるとするのであれば、目の前にいる死神は名の通り、人間を超越したような───まさに神のような力を有するであろう存在だった。
「おっと、私のことを知っているんですか?噂を広める生き残りを作っていた時期ですから...私に『無断天災』と言う仇名が付く前の話ですから...3年より前に会いましたかね?」
死神は問う。きっと、シトロンのことを覚えていないのだろう。
これを感じ取るに、自分で殺したカリファのことも覚えていないだろう。
「ぶち殺してやるよ...お前...」
「残念ですが、死んでいるのでこれ以上死ねません」
4年前と同じジョークを、死神は披露する。そして、シトロンは直感的に気が付いた。
「───お前、メルセデスを操っていたのか?」
メルセデスは自分から裏切ったのではなく、何者かによって気付かぬ間に裏切らされていたことに。
「半分正解で半分不正解です。仲間を操られて嬉しい───いや、悔しいですか?」
「口を慎め。お前を殺す」
直後、シトロンが動き始める。この4年間、アジトのソファでダラダラしていたとは思えない程の身の軽さに、シトロン自身若干驚きつつも死神に迫った。
───そして、このまま『ジェネシス』シトロンvs死神の勝負が、始まる。
初動は、先程も述べたようにシトロンだった。シトロンは、己の持つトンファーを振るう。死神は、持ち前の巨大な鎌でそれを受け止めた。
若干カーブしている鎌は、シトロンの攻撃を受け流してシトロンを数歩退かせる。そして───
「クソ...」
シトロンがそう呟くと同時、死神はシトロンの腹部を真っ二つにするように鎌を振るった。その鎌を避けるために、シトロンはバク宙しながら攻撃を避ける。
死神が鎌を振り終えるのと、シトロンが地面に着地するのは同時。お互いにお互いの方を向いて、シトロンはトンファーを。死神は鎌を振って攻撃する。
再度、鎌はトンファーとぶつかり動きを止められる。だが、シトロンは動きを止めない。そのまま、死神に迫りトンファーを持ち、鎌を受け止めていない左腕を振るった。
死神は、体をリンボーダンスのように後ろに倒すことに寄って、トンファーのスイングを避ける。そして、鎌を再度シトロンの腹を横一文字に斬るようにして鎌を振るった。
「うぐっ!」
金属音が響くと同時にシトロンの表情が一瞬歪む。死神が、鎌に全体重を乗せたのであった。鎌を受け止めていたトンファーから、直でその重みを感じて顔を歪めたのであろう。
だが、まだ血は流れていないし大きな打撲もない。まだ、両者ノーダメージに等しかった。
重い一撃を耐えきったシトロンには、攻撃のチャンスがやってくる。鎌を受け止めている右腕のトンファーは動かせないが、左腕は自由であった。
シトロンは、再度、左腕に持たれているトンファーで死神への攻撃を画策する。そして、トンファーを振るって死神の顎に一撃を食らわせた。トンファーの持ち手で回転させて、死神の顎にぶつけたのであった。
鉄の棒で顎を打たれて、視界が揺れ動いたのか死神はその場から数歩離れる。シトロンは、それを見て追撃をすることはやめておいた。
「───いやぁ、悲しいことに随分私も衰えましたね...いや、あなたにとっては嬉しいことでしょうが」
「お前...何人殺したんだよ」
「持論なんですが、人間とシャーペンの芯って似てますよね。要するに、そういうことです」
「───死ね」
すぐに折れて使い物にならなくなるが、替えなんていくらでもいる───。
シトロンは、再度死神に迫る。死神は、その感情を読み取ることのできない仮面からクスクスと笑い声を漏らす。そして、鎌を両手で振るい上げ───
”パンッ”
「───ッ!」
直後、死神の腹から銃弾が飛び出してくる。死神が後ろから撃たれたのか───違う。
腹に銃を隠していたのか、それが放たれたのであった。
「───ッ!」
シトロンは、予想外に飛んでくる銃弾を避けることはできず、そのまま銃弾に突っ込んでしまう。
「───がっ!」
シトロンの下腹部に銃弾が直撃し、シトロンはうめき声をあげる。だが、シトロンは死神への接近をやめない。そのまま、迫ってきたシトロンに死神は若干驚きつつも、振り上げていた鎌を、勢いよく下げる。
金属音が響き、鎌とシトロンの両手のトンファーがぶつかる。シトロンのトンファーは縦に2本伸びるようにして受け止められていた。
”パンッ”
銃弾が再度、死神の腹から放たれると同時。シトロンは、鎌に己の体重を乗せて空中に浮かびあがった。そして、そのままシトロンは空中で天地が逆になるような体勢を取り───。
「───ッ!」
シトロンの右手に持たれるトンファーは、死神の仮面にぶつかり、ヒビが入った。




