第33殺 裏切り者
アルピナとステラの銃撃戦が引き分けに終わり、双方が死亡することになる数分ほど前。
カレンとメルセデスは対面していた。良好な関係ではなく、お互いに武器を握りしめて。
「メルセデス、『ジェネシス』の情報を『アビス・オブ・アビス』に流してたのはお前なんだな?」
カレンが怒ったような言葉でメルセデスに問いかける。カレンもメルセデスも、お互いにもうボロボロだった。
カレンは左肩と右手が傷ついており、脇腹にはバイブルの折れた刀が柄ごと刺さっていた。そして、メルセデスは腹をローランの光魔法である『ストレイキャット』に穿たれたのを氷で補完していた。
「違う、俺様じゃない。情報なんか流して、何のためになんだよ!」
「アナタにも利益があったはずじゃないんですか?」
「それで、疑う理由は?俺様がカレンより後に入ったからって理由か?」
「違う。しっかりと理由がある。メルセデス。お前は、最終決戦以外で『アビス・オブ・アビス』の誰かを殺したか?」
「───」
カレンの問いかけ。それに、メルセデスは答えられない。何故なら、答えは「NO」なのだから。
まず、『アビス・オブ・アビス』との最初の邂逅───バイブルとの戦いだ。あの時は、カレンとメルセデスの2人が一方的に攻めたものの、残り1撃というところで保安隊がやってきて逃げざるを得なかった。
そして、次にメルセデスが『アビス・オブ・アビス』との戦うことになったのは森の小屋の前でのパンダくんとの戦い。その時は、途中で怪我をした───という理由で戦線を離脱した。
その際に、パンダくんとアルピナを氷の密室に捕まえただけであり、持っていたチェンソーを凍らせればよかったのにも関わらず、そんなことをしていなかったのだ。
「メルセデスは、1度も『アビス・オブ・アビス』を殺していない。違うか?」
「違わないけどよ...それが、俺様が『アビス・オブ・アビス』に協力してるって理由になんのか?それなら、インフェルノを殺す依頼を断ったアルピナだって、仕事を全くしてないシトロンだって、全てを一人で決定しているボスだって怪しいんじゃないのか?」
メルセデスは、自分が「裏切り者である」ということを認めなかった。カレンも、これ以上疑う理由を知らなかったし、突きつける根拠というものもなかった。
「はっきり言える。俺様は、情報なんか流してねぇ。信じてくれよ、カレン」
「───わかったわ。私も疑ってしまってごめんなさい。アルピナが先にいるわ。急ぎましょう」
「あぁ、わかったぜ」
そして、カレンとメルセデスは先に進むことを選択する。その時だった。
「【極より冷えた謙虚なる弾丸を呈す永劫の魔法よ、顕現せよ!
『ブラックホワイト』】」
「───ッ!」
直後、メルセデスが魔法の詠唱を開始する。カレンは、すぐに振り向き傷ついているその体で防御を展開した。カレンの目に写ったのは、いつものメルセデスとは姿形は同じだが、どこか違う───まるで、誰かが入り込んでいるかのようなメルセデスであった。
「やっぱり!」
カレンは、メルセデスが裏切り者であると断定した。そして、すぐに弓矢を取り出してそれを構える。
そして、用意された小粒の氷塊と弓矢でお互いに睨み合うことになった。
「メルセデス、今ならまだ赦してあげるわ。その氷塊を全部消しなさい」
「───何言ってんだ?そんなことするわけ無いだろ?」
「この裏切り者めッ!」
カレンは、目の前にいるメルセデスを「裏切り者」と罵ったが、厳密にそれは不正解であった。
正確には、『ジェネシス』のメンバーに裏切り者なんてものはいなかった。
そう、メルセデスはただ結果的に裏切りになっただけなのだ。
自分では、裏切っているつもりがない───要するに、メルセデスの中での常識が改変されてその行動は「当たり前」のものにされているのだ。
そして、今回もメルセデスは誰かに操られてカレンに攻撃を加えているのであった。
メルセデスが、これまで『アビス・オブ・アビス』のメンバーを殺さなかったのは、意図があったわけじゃない。意思が奪われていたのだ。
『アビス・オブ・アビス』のメンバーをできる限り生かすように選択するよう操られていたのだ。
だから、パンダくんとの戦いでアルピナが死亡してパンダくんが勝利する可能性だって十分にあったのだ。
メルセデスは、裏切り者ではなく「裏切るよう洗脳された」と表現するのが正しいだろうか。
だから、メルセデスは裏切ろうと思って裏切っている訳ではないのだ。だから、メルセデスは心からの裏切り者ではない。
───『ジェネシス』に裏切り者なんか存在していないのだ。
「メルセデス...私は...残念だけどメルセデスを殺せる気がしない...」
「そうか、俺様もお前を殺せるとは思えないし殺そうとも思わねぇよ」
言行不一致。
メルセデスは、言葉では「殺そうと思わない」と言っているのに、カレンに向かって小粒の氷塊を発射していた。これも、操られている影響だ。
きっと、メルセデスは、自分が魔法の詠唱をして氷塊をカレンに向けているなんて思っていないのだろう。
メルセデスを操っている人物───この人物を倒さない限りはメルセデスは操られたままだろう。
だが、カレンはメルセデスが操られていることに気付いていない。
───それにより、『ジェネシス』カレン・マクローレンvs『ジェネシス』メルセデス・カルガンの悲しき戦いが、始まる。




