第25殺 刀
───『アビス・オブ・アビス』のアジトにてカレンとバイブルは睨み合っていた。
『そっちから来てもらってもいいのよ』
『そうか、なら遠慮なく!』
バイブルが、その場で大きく一文字に一閃を振るう。すると、バイブルの持つ刀から斬撃が───否、強すぎるが故に辺りの塵が舞い視認できるようになった剣圧が飛んできた。
「───ッ!」
カレンが片目を瞑って、剣圧を耐え抜く。剣圧にものを斬るような強さはないが、動きを止めたり何かを飛ばすには最適だった。
バイブルが登場する際に置かれていたゴミ溜まりを吹き飛ばしたのも、この剣圧だろう。
『威嚇のつもりかしら?弱い犬ほどよく吠えるって言うものね』
『随分と煽ることに必死そうだな、仔猫ちゃん』
直後、カレンの視界の中からバイブルが消える。カレンは、すぐに背中に背負ってあった弓と矢を手に取りどこへでも放てるようにすぐに構えた。
『───残念だな』
「───っぐ」
カレンは、声がした方向を向かずに避けることに集中した。ここから、カウンターは期待できないと察したからだ。バイブルの声がした方向は、カレンの真上。
バイブルは、跳躍してカレンの真上までやってきていたのだ。カレンは、転がるようにしてバイブルの持つ刀を避けるも、完璧には避けきれずに左肩に一筋の赤い線が浮かび上がってしまった。
別に、左腕が使えないといった傷ではないが、戦闘の最初から傷を付けられるとはどことなく不吉だ。
『流石ね、避けることしかできなかったわ』
『俺を殺す寸前まで追い込んだのは、数の差があったからだったのか?正直、ガッカリだぜ』
カレンの言葉に、バイブルは返す。別に、バイブルは通常カレンが使っている言語も聞き取り理解することはできるのだが、カレンはバイブルと同じ言語を使用している。
『───それじゃ、こちらから行くわよ』
メリケンサックを着用した右手で弓を構える。狙うはもちろん、目の前にいるバイブル。
「───行くわよ」
カレンは、いつも使っている言語でそう述べる。
”シュルシュル”
弦音が聴こえて、その直後バイブルは矢の道程に刀を用意する。バイブルの身体を穿つはずだった矢は、刀によって妨害される。そして、そのまま地に落ちた。
『そんなのろい飛び道具なんざ、俺には当たらない』
『あら、そう。それは残念ね...刀相手に近接攻撃は向いていないというのに...』
そして、あからさまに困ったような表情を浮かべるカレン。そして、弓矢を背中に背負った弓入れにしまった後にメリケンサックを握りしめてバイブルにへと迫った。
『刀相手に近接攻撃は向いていなかったんじゃなかったのかッ!』
『訂正するわ。刀を持つ人物を殺すのに、近接攻撃は向いていなかったわ。刀を壊すのに、近接攻撃は最適だったわよ』
カレンは、自分の中で既に作戦を変更していたのだ。バイブルを殺す───という作戦から、バイブルの持つ刀を壊しバイブルを無力化する───という作戦に。
カレンは、攻撃を受け止めようとする刀の棟にメリケンサックをぶつける。
『───ッ!』
バイブルは驚いたような、うめき声のような声をあげる。
『もう1発よ』
再度、カレンはバイブルの持つ刀に鉄でできたメリケンサックをぶつける。その威力からか、ぶつかった時には耳が痛くなるほどの金属音が鳴っていた。
『あら、武器が無くなっちゃうわよ?』
『───さぁ、どうかな』
3発目で、ついに刀はポッキリと折れる。刀は、刃長の半分ほどの長さで歪な形で折れていた。その歪な断面が、メリケンサックの残虐性と粗暴性を物語っている。地面に落ちた刀の刃は、軽快な音を鳴らして地面に落ち着いた。
『さぁ、アナタを守る武器は無くなった。これで終わり───ッ?!』
カレンが、メリケンサックでバイブルを殴ろうとした刹那、カレンの脇腹に鈍い痛みがやってくる。
「───あ...が」
カレンの口から漏れる空気。カレンの、バイブルを攻撃する手は止めて痛みから解放されようと意味もなく藻掻いた。
『切れ味ってのは無くなったが、それでもまだ突き刺すことはできんだよ』
カレンの脇腹を見てみると、黒ひげ危機一発の樽のように刀が刺さっていた。そこからは、クリムゾンレッドの血が重力に沿って下へ下へと垂れていた。
『先程までの強がりは終わったみたいだな』
バイブルは、カレンの腹に刺した刀の柄から手を離す。カレンは、傷を庇うようにして1歩ずつゆっくりと後ろに下がった。
「クソ、このくらい...」
カレンは、いつもと同じ言語で言葉を紡ぐ。まだ、死んでいないし失神もしていない。腹に刺さった刀さえ抜かなければ、無駄な流血は避けれるのだ。
「柄が長いから動きにくいが、鍔があるからこれ以上刺さりはしない...大丈夫、まだ戦える」
カレンは、自分を鼓舞するような言葉を口にする。そして、再度弓矢を取り出してそれを荒い息の中必死に構えた。
『諦めはしねぇのな。ま、俺も暗殺者だ。しっかり、働いてやるよ』
そう言って、バイブルは地面に落ちた刀の先を拾う。そこに柄や鍔はないが、しっかりと右手で握りしめていた。
彼の右手の手の平からは血が流れている。刃先で手が切れているのだろう。
お互いが、刀により傷を負った中でカレンとバイブルの戦いは更に熱を上げていくのであった。




