第23殺 悪い話
───メルセデスが、ローランと魔法を使用した激しい戦いを繰り広げているのとほぼ同時刻。
カレンとアルピナは、スクラップ同然───正確には、スクラップを勝手にアジトにしているので突き進んでいるのはスクラップだ。スクラップの中にある『アビス・オブ・アビス』のアジトの中を進む。
「ゴミの中にまた、誰かいるかもしれません。カレンさんもお気をつけて」
「わかっています。警戒は怠りません」
アルピナの言葉に、カレンも応える。スクラップの中は、『ジェネシス』の2人の走る足音だけが響いている。
早朝だということもあるが、かなり静かだった。自分のアジトに敵が進軍してきたのなら、もっと焦ってもいいはずなのに。
───非常に、冷静だった。
「───ッ!」
直後、カレンとアルピナが同時に足を止めてすぐに後ろに下がった。すると、その刹那───
”ドゴォォン”
カレンとアルピナの2人の立つ右側にあるゴミの山が、弾けるようにして先程まで2人がいたところに飛び出してきたのであった。
雪崩のように上から崩れるようにして落下してきたのではなく、まるでだるま落としのように、どこからか力が与えられて吹き飛んできたといった感じだった。
「誰かいますね」
『避けられたか...』
「バイブルです」
カレンは、聞き覚えのある別言語を使用する茶髪の目鼻立ちがよく白皙の男性───バイブルであった。
カレンとバイブルは、一度街中で対面していた。カレン達が後1歩のところまでバイブルを追い込むも、街の治安を守る保安隊がやって来たために逃げざるをえなかったのだが、やっと対面できた。バイブルの茶色の前髪の下に包帯が視認できるが、その傷を付けたのもカレンの弓矢であった。
「彼が、逃したと噂のバイブルさんですか?」
カレンと違い、バイブルと対面したことはないアルピナがカレンに問うた。
「そうです。彼が、確かにバイブルです」
「ワタクシも知らない言語で話しますわ。カレンさん、通訳をお願いします」
「わかりました」
カレンも、バイブルの使用している言語は初めて聞いた。だが、バイブルの声を聞くと頭の中で自動で翻訳されるのだ。まるで、脳みそに翻訳機能が付属されているようだった。
『あの節はお世話になったよ。カレン』
『あの時に殺せていれば話は早かったのかもしれないわね』
自動で脳内で翻訳されるのと同じように、カレンの口は自由自在にバイブルと同じ言語を話すことができた。
カレン自身、その理由というものはわからなかった。アルピナは、カレンがバイブルと同じ言語を理解し話すことができることを疑問に思わないようだった。
『───ここで再会したのも何かの怨嗟で何かの縁だ。2つ選択肢を与えてやるよ。悪い話と、もっと悪い話───どっちから聞きたい?』
『───』
「カレンさん、彼はなんと?」
「邂逅したのも何かの縁だし、悪い話ともっと悪い話のどっちから聞きたいか───ですって」
「そんなことを言っているのですか...では、悪い話から聞きましょう」
『悪い話で』
カレンはアルピナの指示に従い悪い話から聴くことにした。もしかしたら、バイブルの戯言かもしれないがそんな疑念は耳を傾けない理由にはならない。
『これは悪い話だ。このアジトの最奥にいるのは───正確には、これより奥にいるのはステラ・クルセイダーだけだ』
「───これより奥にいるのはステラ・クルセイダーだけだそうです」
バイブルの言葉を、カレンはすぐに皆の共通言語に合わせて翻訳する。
「ステラ・クルセイダーですか...」
アルピナは、その名前を口に出す。アルピナが知っている情報としては、森の中にあった『アビス・オブ・アビス』の保有する小屋の中にあった資料であった。
そこのステラ・クルセイダーの資料に映っていたのは全てを飲み込んでしまいそうな深淵より黒い瞳を持ち、緑髪の男性であった。その男性は、酷く根暗な印象を受けたのを覚えている。
そして、初期段階で情報を隠されていたことからも彼がリーダーと考えて違いないだろう。
『それじゃ、もっと悪い話ってのは?』
『教えてやるよ』
そして、バイブルの口から出てきたのは驚きの内容だった。それは───
『───お前らのアジトにアルファ・ロメオとトワイライト・アルカディアが向かっている』
「んなっ!」
「カレンさん?彼はなんと?」
カレンの驚く声だけを聞き、アルピナはすぐに情報の伝達をさせようとする。すぐにカレンはアルピナに伝えた。カレンも、焦ってはいたが冷静さを欠いているわけではなかった。
「私達『ジェネシス』のアジトにアルファ・ロメオとトワイライト・アルカディアの2人が襲撃しに行っているらしいです!このままじゃボスは!」
「入れ違いになってしまいましたか...」
前日の夜、『アビス・オブ・アビス』のジェヘナが『ジェネシス』のアジトに攻めてきた。その時に、『ジェネシス』のアジトの住所がバレたのだろう。『ジェネシス』のメンバーが早く襲撃してくることを予想し、それと同タイミングで襲撃を行おうと判断したのであろう。
「アルピナ、早く戻らないとボス達が!」
カレンが、早急に退陣しアジトに戻ることを提案する。
「いえ、カレンさん。アジトには戻りません。ワタクシ達は『アビス・オブ・アビス』への侵攻を止めにはしません」
「───んなっ...」
「シトロンさんも言ってたでしょう、{仲間を見捨てるのは、別に悪いことじゃねぇ}って」
「ですが...」
カレンは、ボスに多大な恩がある。ボスの命は、自分の命と変えてでも守ろうと思っているのだ。
「大丈夫です。アジトにはシトロンさんもいますから」
「───」
カレンはシトロンの実力を全くと言っても知らなかった。シトロンは、いつだってアジトのソファでダラダラと怠けていたはずだ。彼が隠れて修行をしている───だなんて思うことはできないし、実際していない。
「カレンさんは、バイブルさんの相手をシてください。ワタクシは先を急ぎ、ステラ・クルセイダーを暗殺します。いいですか?」
「───わかりました」
カレンは、アルピナの命令に渋々ながらも従うことを選択した。そして、アルピナは散らかったゴミを華麗に避けながら先へ進んでいった。
『さて、再戦と行こうじゃないか。お喋りはもう、させないぜ?』
『アジトが心配ですが、それがお前から逃げる理由にはならない。だから、今度こそ殺してあげるわ』
───『ジェネシス』カレン・マクローレンvs『アビス・オブ・アビス』バイブルの戦いが、始まる。




