第14殺 着ぐるみ
メルセデスには両手に氷魔法『フロストブレード』で作り出した剣を。パンダくんは、右手にチェンソーを、そして左手に巨木を。
2人共二刀流として───いや、パンダくんは刀も剣も持っていないので二刀流は少し違うかも知れない。2人共、両手に何か武器を持っていた。
「───」
ただ無言で、パンダくんは左手に抱え込んだ巨木を大きく振りかぶる。狙いはもちろん、メルセデスであった。
後方から2人の戦いをしげしげと見ているのはアルピナ。彼女が2人の戦いに参戦しない理由は、持っている武器が銃一丁だけだからであった。
銃一つで、巨木やチェンソーが振り回される戦場に入っても身を守る物がない。故に、アルピナは遠くからパンダくんへの攻撃チャンスを今か今かと待っているのだ。
「オラッ!」
メルセデスに迫っていく巨木。それを、メルセデスは両手に持たれる氷の剣を「X」のような形にして、受け止める。
そして、巨木を跳ね返すと手元にある巨木を武器として機能させないようにしようと氷の剣を巨木に向けて振るう。
「───」
無口で、これまで沈黙を貫いていたパンダくんは、何も言葉を発さずに右手にあったチェンソーを静かにメルセデスの首に向ける。
「───ッ!」
メルセデスは、左手にある氷の剣でギリギリチェンソーを受け止める。メルセデスの体は、その重圧に揺れて一瞬転びそうになるも、すぐに踏ん張った。氷の剣は、ジリジリと削れてきているが、メルセデスは詠唱を全て行ったので削れていく場所は自動で直っていく。
「───こっちもか!」
メルセデスは、パンダくんが動くよりもほんの刹那早く察する。そして、メルセデスが右手に持っている氷の剣をあげて、パンダくんがメルセデスを圧殺させようと振るった巨木の動きを止めた。
「ぐっ!」
メルセデスは、左右両方からやってくるパンダくんの攻撃をギリギリで耐えている状態だ。
ハサミの刃の両方を抑えているような、そんな状態。刃が閉じられてしまえば、そこにいる人は切られてしまうように、メルセデスも少しでも気を緩めれば、チェンソーと巨木に挟まれ死んでしまうだろう。
「死んでたまるかよッ」
そう言うと、メルセデスの氷の剣を持つ両手がパキパキと凍っていく。体を覆うようにして、どんどんメルセデスの体の周りを氷を纏う。
「───」
メルセデスの体は、完全に氷に包まれた。チェンソーの刃と巨木を固定して。
「もう、お前は動けねぇよ!」
そう言って、まるでセミが抜け殻から出てくるかのように氷から出てくるのはメルセデス。
「【極より冷えた謙虚なる弾丸を呈す永劫の魔法よ、顕現せよ!
『ブラックホワイト』】」
メルセデスの放つ、即席の氷魔法。パンダくんは、抵抗することもできずに、それがパンダくんの顔面に───正確には、パンダくんの被り物に激突する。
「───ィよしッ!」
メルセデスは、嬉しそうにガッツポーズをする。チェンソーは、まだ荒れ狂う嵐のような音を立てているが、氷で固定されてほとんど動いていない。
───そして、パンダくんの着ぐるみの首の部分がボトリと地面に落下した。
「暗殺完了───」
「じゃないですよ!メルセデス、気を抜かないでください!」
先程まで、静かに見物していたアルピナの声が響く。そして、彼女は銃をメルセデスに───否、メルセデスの後ろに現れた短躯の人物に向けていた。
「安堵とは───、大敵だ」
「───かはっ」
”パンッ”
一瞬、アルピナの発砲が遅れる。その短躯の人物に銃弾が当たらなければ、メルセデスに当たるかもしれない───と心配してしまったからだ。
だが、その刹那の心配が命取りだった。メルセデスの背中は十文字にかっ切られた。
直後、アルピナが遅れて発砲するももう遅い。
短躯の人物は、既に銃の軌道上には存在していなかった。
メルセデスが、後ろに現れた人物の攻撃を避けようとして体を捻り、銃弾が当たらなかったことは、不幸中の幸いだろう。
「くそ...背中が...」
その場に、メルセデスは倒れる。背中を斬られてしまっては、戦いに参加するどころか立つことさえも厳しいだろう。
「メルセデス、無理はしないで。後はワタクシに任せてください」
アルピナの数メートル先に姿を現した短躯の人物───それは、頭の中心から円形に禿げていて、白い髭を生やした、少し猫背の老人だった。その見た目からは強さなどは微塵も感じられない。これが、パンダくんの中身だと言われてしまうと、子供の夢が壊れてしまうだろう。
そして、その小柄な老人が手に持っているのは平らな爪状のクナイのような武器であった。
どうやら、その武器でメルセデスの背中を掻っ捌いたらしい。
”パンッ”
”パンッ”
何も言うことなく、アルピナは銃弾を老人に放つ。
名前がわからないので便宜上「老人」と呼称しているが、元は「パンダくん」であるため「パンダくん」と呼称してもいいのかもしれない。もっとも、現在はパンダの着ぐるみなんか着ていないが。
パンダくんは、放たれた銃弾を軽々と避けた。
「ちょこまかと...このまま撃ち続けていても当たりしないでしょう...さて、どうしましょう...」
アルピナは思案する。すると───
「【白魔の封印されし迷宮に誘え
『ホワイトラビリンス』】」
撃たれてその場に倒れていたメルセデスが、魔法を使用する。
その魔法は『ホワイトラビリンス』というもので、簡単に説明すれば氷の密室を作り出すというものであった。
───その氷の密室に閉じ込められたのは、アルピナとパンダくんの2人であった。
密室は、20m四方の立方体の形をしており、真ん中にはこの密室を支える大きな柱があった。現在、その柱を中心に丁度反対の位置にアルピナとパンダくんがいると言った図になるだろう。
「このまま逃げられても、カレンさんやボスに見せる顔がありませんでしたわ。2人で捕らえてくれたことに関しては、後でメルセデスに感謝することにしますか」
アルピナはそう言って、銃に再度弾を込め直す。
アルピナを閉じ込める氷には、合わせ鏡のように色々な方向で色々な角度からのアルピナが映っていた。




