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ダークバトル・オブ・バック  作者: キハ&花浅葱
11/42

第11殺 タイソン・バイソン

 

 アルピナが武道もできることを明かしたことで、カレンはタイソンから解放された。

「足手まといとなってしまって...申し訳ございません」

「弱者を助けるのもまた、強者の義務ですわ。ですので、問題有りませんわよ」

「弱者ですか...」

 カレンはそう言って、アルピナの言葉を飲み込む。


「ここはワタクシに任せてメルセデスでも呼びにアジトに戻ってと言ったらそうしてくれるかしら?」

「それは...私が不必要だからですか?」

「メルセデスの方が憎たらしいけど、メルセデスの方がカレンより強いのも事実と言えるわね。でも、その胸の傷がこのまま開いてしまっては死んでしまうわ」

「───わかりました」


「あひゃひゃひゃひゃひゃ!まさか、アチシがカレンのことをおいそれと見逃すとでも思ってるの?」

 タイソンは動き出す。刀のようにバッサバッサと人を切れる鉄扇を開き、カレンへと迫っていく。


「アルピナ。私は弱い。だけど、やっぱり逃げようとは思わないわ」

「なら、弱者の弱さを見せてくださいな。ワタクシは強者の強さを見せますので」

「わかりました」


 カレンは、自らのポケットからメリケンサックを取り出してそれを指に装着する。

「そんな、メリケンサック一個でアチシは倒せないわよ!」


 タイソンの鉄扇と、カレンのメリケンサックがぶつかる。きっと、これが剣と剣の戦いであれば火花が散るような激戦だったのだろう。だけど、ぶつかっているのは鉄扇とメリケンサック。


 金属音が響くだけで、火花が散ることもお互いが拮抗することもない。

「あひゃひゃひゃひゃひゃ!その手指を切り取ってやる!弓どころか、箸だって持てない体にしてあげるわ!」

 タイソンの声が3人のいる森に響く。2人は、そのまま後ろに下がり距離を取った。


「ねぇ、タイソン。ピンチはチャンスって言葉があるじゃない?」

「えぇ、あるわね?」

「じゃあ、最弱は最強になるかもしれない───ってことよね?」

「拡大解釈と幼稚なのが見え隠れしてるよ!って、アチシの方が年下なんだった!」


「最弱が最強だなんて...ワタクシもその突飛な考えは賛同しかねますわ。でも、ピンチはチャンスって言葉があるのは事実」

 そして、アルピナは動き出す。彼女は、タイソンの後ろに回った。


 タイソンの目の前にはカレン。そして、後ろにはアルピナ。


「二兎追う者は一兎も得ず?たわけ。一兎しか追わぬ者は一兎しか得れないですわ。ならばワタクシは、リスクを犯してでも二兎追わせて頂きます。二兎追わなければ、二兎得れませんから」


 ”パンッ”


 ”パンッ”


 ”パンッ”


「あひゃひゃひゃひゃひゃ!3発撃ったね!アチシの勝ちだ!」

 タイソンは、アルピナの方へ動き出す。


 タイソンは覚えていたのだ。アルピナの銃に入る弾は6発であることを。

 そして、前回弾を込め直すのを見てから今に至るまでで合計6発の弾を撃っていた。


 ならば、今は銃の弾が入っていない───


 ”パンッ”


「───ぇ」

 タイソンの右足を穿つのは、1発の銃弾。アルピナの銃筒には入っていないはずの銃弾。


「もしかして、3発しか入っていないと思いましたか?それは残念です」

「何故───」

「冥土の土産に教えてあげますわ。新しく6発詰め直した。ただ、それだけですわ」



 そう。アルピナは、弾を3発撃った後残った3発を抜いて、新しく6発詰め直したのであった。

 残った3発は自分の懐にしまったので、タイソンは気付かなかったという訳だ。


 単純だが、それ故に見極めにくいトリック。


「ほぉら、ピンチがチャンスになりましたわ。もう、覆りませんの」

 アルピナは、タイソンの額に向けて正確無比に銃を放つ。


「チャンスがピンチになっちゃった...なら、ピンチをチャンスにするしか無いなぁ!」

「───ッ!」

「アルピナ!」


 アルピナの放った銃弾は、タイソンの鉄扇で跳ね返されてアルピナの方へ推進力を保って───いや、それどころか推進力を増した状態で進んでいく。


「アチシの足を撃ったのが間違いだったね。アチシが動けていれば、普通に避けていたものを」

 跳ね返された銃弾は、アルピナの右腹を掠めていく。アルピナは、右腹を抑えその場にへたり込む。


「あひゃひゃひゃひゃひゃ!アチシの勝ちだ───」

「あらら、こっちをピンチにしたらまたオセロのようにチャンスにひっくり返されるのがわからないのかしら?小さい子にはまだ、難しかったみたいね」

「───」


 タイソンの後ろから迫るのは、両腕を後ろに隠して走ってくるカレンであった。

「胸の傷が開くのに、アチシに抵抗するつもりなの?」

「胸の傷が開く前に、アナタに抵抗するつもりなのよ」


 タイソンは、両腕を隠しながら走ってくるカレンを不審に思っていた。何かに例えるならば、タイソンは蛇であろう。その疑いを持った目でカレンを見る。そして、その疑いは正解だった。


「くらいなさい!」

 カレンが、殴るようにして突き出したのは利き手でありメリケンサックを先程まで付けていた右手───





 ───ではなく左手だった。


 左手には、メリケンサックがつけており、反対側を防御しようとするであろうタイソンの虚を突くような攻撃。



 ───だが、タイソンは見極めていた。


「あひゃひゃひゃひゃひゃ!残念だね、両手を後ろにするなんて怪しすぎるわ!」

 そう言うと、タイソンはメリケンサックに触れないようにしつつ両腕でカレンの右腕を受け止めた。


「左手にメリケンサックを付ければ騙せると思った?アチシみたいなお子ちゃまでもわかるようなの、猿にも通用しな───」



 直後、タイソンの脳をかき混ぜたのは、カレンの右手に持たれていた矢であった。

「子供騙しで大人気ないとは思うけど、赦して頂戴ね」


 これもまた、簡単な話だ。

 右腕で矢を持ち、左腕にメリケンサックを付ける。そして、両方背中で隠していた。


 それだけの単純な話だった。だが、やはり両方見極めることは難しいトリック。


 それが、タイソンの頭の中をかき混ぜる。タイソンの頭に刺さった矢が、タイソンの脳をスクランブルエッグに───いや、スクランブルブレインに変えたのであった。


「───ぁ...ヵ゛...」

「よく眠れるよう子守唄を───と言うにはいささか詩的になるけど、内緒のお話をしようじゃない。タイトルは...そうね幽霊なんてのはどうかしら」


 そう言うと、カレンはインフェルノを殺した時のように話を始める。それは、勝者の特権だろうか。


「その人間は、生まれたのに流産と断定されて碌に育ててもらえなかった。

 誰かにも無視され続けた。その人間が、自分を認識できるのは鏡や写真でだけ。

 鏡では、無視していた人たちも無視するのをやめる。

 そんな無視される人間が、この世には一定数いて、その総称を『幽霊』と言う。」


 カレンはそう言うと、口を噤む。そして、タイソンの武器である鉄扇でバサリとタイソンの首を斬り落とした。


「これが、弱者の弱さよ。弱さってのは誇るものではないけれど、隠し通すものでもないわ」


 ───『ジェネシス』カレン・マクローレン&アルピナ・フェニーvs『アビス・オブ・アビス』タイソン・バイソンの戦いが、ここに終結する。


 ───勝者、『ジェネシス』カレン・マクローレン&アルピナ・フェニー

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