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ダークバトル・オブ・バック  作者: キハ&花浅葱
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第10殺 鉄扇

 

 カレンとアルピナの目の前に現れた茶髪を首の後ろで切っていて、クリクリとした桃色の瞳でこちらをジッと見ている背の小さな少女───タイソン・バイソンは、『アビス・オブ・アビス』に所属しているれっきとした暗殺者だ。


 それなのに、正々堂々正面突破で宣戦布告してきたタイソン。

 その行動は、バイブルを襲撃した際のカレンとメルセデスの行動を踏襲したものなのか、バイブルを致命傷にまで追い込み、インフェルノを殺された恨みから私情を優先して怨み節を伝える為にわざわざ姿を現したのであろうか。もしかしたら、そんな深い理由などなくただ彼女の幼さ故に出てきてしまったのかもしれない。


 彼女の武器は暗殺に不適な鉄扇であることが判明したし、いつも殺しの対象の前に姿を現しているのかもしれない。


 ───と、どんな理由でタイソンがカレンとアルピナの前に姿を現したのかはわからないが、それによりカレンとアルピナの2人が戦闘が開始することに遅れを取らなかったのは事実だ。


「アンタ達は、アチシに勝てるかな?」

 そう挑発するようにして、カレンとアルピナのことを交互に見るタイソン。


 アルピナは銃を、カレンは弓を構えていた。

「先手必勝という言葉がありますけれど...ワタクシの先手は全く通用しませんでしたわ。銃弾をも切れる鉄扇なんて、ワタクシ聴いたことがありませんわ」

「それに関しては全くの同意見です。銃弾を切れる鉄扇どころか、そもそも鉄扇を武器にする人なんて初めて見ました」


「まぁ、アチシの武器は珍しいからね!アンタ達が知らなくても当然だよ!あひゃひゃひゃひゃひゃ!」

 タイソンは笑うと同時に、アルピナの方へと迫っていく。


「───」


 ”パンッ”


 アルピナは、動いたタイソンを機微に察知し、移動先を予測して発砲する。


「アチシの動きを見切るなんて、流石だね!」

 そう言いながら、邁進する銃弾を鉄扇で細切れにするタイソン。そして、鉄扇を大きく振って───


「カレンさん!」

「───はい!」


 アルピナは、カレンの名前を呼び、カレンもそれに呼応する。そして、2人は今立っている位置から離れるようにして横に飛んだ。


 ───タイソンは何をしたのか。


 簡単に言葉で説明するとするのならば、タイソンは、アルピナの撃った銃弾を鉄扇で石の(つぶて)程度の大きさにまで小さく切った。そして、その礫を鉄扇を振るうことで風の力で跳ね返したのだ。


 石の礫ほどの大きさでも、元は銃弾だ。当たれば、それなりの威力があるために2人は避けたのであった。


「───あんな礫を放たれてしまっては、矢で狙えません...」

「そうですわね。銃なら照準を合わせれば放てますけれど、弓矢は構えて引いて放つ───と、動作が多いですから。メリケンサックに攻撃手段を変えたらどうですか?」

「───それもいいけれど...鉄扇だと接近戦には向いていないような気もします...」


「それもそうですわね」


 ”パンッ”


 会話しつつ、チラリとタイソンの方を見てアルピナは銃弾を1発放つ。そして、銃に弾を詰めた。

 銃弾は、もちろんタイソンに真っ二つにされてどこかに飛んでいった。


「幸い、辺りに人はいないようですし、少しは時間をかけても大丈夫かもしれませんわ。辺鄙な土地でラッキーとでも言えばいいでしょうかね?」

 アルピナは金髪をなびかせて動き始める。時間をかけても大丈夫だと言っていたのに、早速行動に出ている。


 アルピナの言行不一致な行動は気にせず、カレンは弓を構える。


「アンタ達、2人がかりでアチシに勝てないだとか、弱すぎじゃないの?まだアチシ、9歳なんだよ?将来有望すぎでしょ!」

「ワタクシ達は弱い者いじめが嫌いですので、手加減させて頂いておりますわ。ワタクシ達の強さも見極められないだとか、まだまだ幼いですわね。ほら、ママの乳房を吸いに帰りなさい」


 ”パンッ”


 ”パンッ”


 ”シュルシュル”


 ”パンッ”


「───ッ!」

 放たれる3発の銃弾と、1本の矢。銃弾と矢が飛んでくる方向は全くの逆だ。


「避け───ッ!」


 暗殺を家業とする者は、頭のネジが外れている人が多い。




 ───それは、齢9歳のタイソン・バイソンにも当てはまることだった。



「なん───っ」

 タイソンはその場で急転回し、後ろにいたカレンの方へ突っ込んでくる。タイソンが体の向きを変えた為、前に矢が1本、後ろに銃弾が3発であった。


 タイソンは、その全てを無視してカレンの方へ迫っていった。

 タイソンの左の肋骨と鎖骨の間に矢が刺さり、首と右腹に銃弾を掠めて尚、カレンの方へ向かっていく。


 もちろん、命辛辛特攻してくることは想定していた。だが、銃弾と矢の全てを避けないことは予想していなかった。普通、人間ならば守ると思うはずだ。


 一つでも急所に入れば死ぬくらいの怪我にはなるのだから。


「なん───」

「あひゃひゃひゃひゃひゃ!アチシのこと、ガキだと思ってたでしょ?」


 タイソンの真一文字の一閃。鉄扇を横に振るい、インフェルノとの戦いでできた胸の傷を再度開くようにしてカレンの胸に赤い一本線が浮かび上がった。


「正解!アチシは怖いもの知らずのガキだよ!あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」

 カレンはその場に倒れて、タイソンに馬乗りにされる。そして───


「コイツが殺されたくなければ、アルピナだっけか?も、抵抗はやめることだよ!」

「残念ながら、断りますわ」


「───」

 直後、アルピナが動く。また、銃を撃ったのか?



 ───答えは、否。



 アルピナは、一瞬にしてタイソンの後ろにまで移動し、カレンに馬乗りになっていたタイソンを背負投で後ろに放り投げたのであった。


「武道も...できたのかっ」

 タイソンの驚いたような声に、アルピナはこう返す。




「武道を習得することなど、ノブレス・オブリージュですわ」

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