世界の始まり 【月夜譚No.222】
卵が孵化する瞬間を目の当たりにしたようだった。硬い殻を破り捨て、暗闇の中から眩い光の下へと飛び出る。
少女の瞳は、正に広い世界を知った雛のような輝きを宿していた。
しかし、知らぬ世界に出たばかりでは不安も多いだろう。一人で歩いていくには、まだ大きな勇気が必要である。生まれてこの方、一歩も地下から出されることなく、奴隷として働かされ続けたのだ。
青年がそっと手を差し出すと、少女は傷だらけの掌をそこに重ねた。
今暫くは、青年の許で生活をすることになるだろう。だがそう遠くない未来、少女は笑顔で外の世界を自由に駆け回れるようになる。そんな確信めいた希望が、青年の心に灯る。
さて、まずは少女の着ている襤褸からどうにかせねばなるまい。
少女と同じくらい楽しそうに、青年は町への道を歩き出した。