第44話 屈しない男たち
第4章から新出メンバーが多くなります。
コイツ誰? と思われたら、お手数ですが47話の後の「第4章の登場人物」をご覧ください。
「ほほほ。やっぱりアロイスちゃんは天才でちゅね〜」
ギルベルタ様が上機嫌だ。ジェラルド様とジゼッラ様もめろめろである。なぜなら、
「にょきにょき〜」
アロイス様はこの一言で、庭の植物を全て完璧に再生してしまった。彼は俺や両親が当たり前のように魔術スキルを使うのを見て、すぐに真似をしたがる。そして常識とか固定観念がない分、普通大人なら「無理だろ」ってことを平気で成し遂げてしまう。彼の使ったスキル「再生」は植物魔法レベル3だけど、俺たちの認識では、庭の植物を全部一気に復活させるようなものではなかった。せいぜい捥いだ果実をもう一度実らせるとか、折れた枝を修復するとか、そのくらいの使い方をしていたのだが。
そしてきっと、現時点での最大MPも凄まじい。まだ洗礼を受けていないのでステータスの詳細は鑑定できないが、多分農村で暮らしていた時の俺以上だと思う。怪物だ。もしかしたら、俺たちの中で最強火力はアロイス様かもしれない。
そういえばもう一つ。アロイス様は生まれて初めて隣国にやって来たのに、どうやら隣国語を難なく理解しているようだ。これは幼いゆえに言語の吸収が速いせいか、それとも非言語コミュニケーション(表情や目線やジェスチャー)が主だからか。もしかしたら、言語理解スキルとか持ってても不思議じゃない。なんせ両親が天才だし。そして一方俺だ。鑑定のレベルが上がったからか、それともアカシックレコードスキルのせいか。よく分からないが、知らない間に言語理解スキルが生えていた。
「今更ですの?!」
「ははっ。クラウスからは、もう何が出て来てもおかしくないよ☆」
驚かれるの、そっち?
青天井で株を上げ続ける2歳児の一方で、ストップ安を記録した30歳児と58歳児。彼らは『ごめんなさい』『もうしません』と書かれた木の板を首から提げて、床の上で正座させられている。
「ギザギザの板と重石がないのが残念ですわ」
ディートリント様、石抱の刑は結構な拷問ですよ。時代劇はフィクションですから。しかし彼女がこれだけ苛烈な(?)仕置きに走ったのには、意味がある。
「お父様。お母様と仲直りしたかったのでしょう?どうして馬鹿な真似を」
「うおおん…いいとこ見せたら格好いいかなって思ったんじゃあ…」
あんたバカァ?…いや、もとい。ディートヘルム様、女心が分からな過ぎ問題。まあ中身は小学生というより未就学児みたいなオッサンだもんなぁ。ここでギルベルタ様に彼の処遇を任せると、ひたすらシカトで終わってしまいそうだ。だからディートリント様が苛烈なお仕置きを課して、「反省してます」っていうポーズを取らせ、間接的に仲立ちされたかったわけなんだけど。
しかし、闇が深いのはベルント様の方だった。
「我々忍びは、いかなる拷問にも屈しない」
「誰が忍びよ!」
さっき庭を派手に焼け野原にした男が、一体何を忍んでいたというのか。ベルント・バッハシュタイン30歳。当初バッハシュタイン男爵家の次男として領地経営に携わる予定だった男。その後、寄り親のアルブレヒト侯爵家の三男が飛び級を重ねたため、急遽従者として送り込まれた男。その後主人のアレクシスが魔法省に入省して頭角を表すと、成り行きで補佐官に。そのまま片腕として邁進してきた。
特別な才能を持たず、地味で目立たない男。影の薄い男。周囲の評価は得てしてそんなものだった。しかし彼は、コツコツと努力を重ねる堅実な男だ。兄のスペアだとか天才魔術師の添え物のような扱いを受けても一切の不満を漏らさず、縁の下の力持ちであることを厭わなかった。そんな信頼厚い彼が、生まれてこの方初めてどっぷりとハマったのが、異世界のコンテンツ。少年漫画、アニメ、そして特撮や時代劇などが、彼のハートを鷲掴んでしまった。
遅れて来た厨二病。しかもかなり重篤な。
「私は……不滅だァァァァァァ!!」
「ははっ、最近のベルントはずっとこの調子だね☆」
「もうっ、父上と母上の仲直り計画が台無しですわ!」
「ぬうッ、ベルントめ。その意気や良し!」
いやダメだから。厨二病は罹患するのが遅ければ遅いほどダメージが深刻化する。これはもうダメかも分からない。
「———まあ、今更ですわよリンダ。この男はこういう男です」
「…お母様も丸くなられましたわね…」
ディートリント様がげっそりと疲れ果てている。彼女の苦労は空回りしたが、報われたようだ。男どもに打つ手がないなら、匙を投げる他ない。母娘して悟りの境地である。
「それはそれとしてリンダ。あなたも随分と腕を上げましたのね」
「ええ、それはまあ」
彼女は元々、貴族学園を大学院まで進んで主席で卒業し、宮廷魔術師団で非常勤の研究者を務めている。さらにその後、暇さえあればちょくちょくレベル上げをして全属性を上げてきた。彼女も貴重な転移陣要員だからだ。まあ要員というより、好きな時に1LDKに足を運んでダラダラするために、積極的に習得された部分が大きいが。
なお、彼女は漫画から海外ドラマまで幅広く網羅し、今やお気に入りの部屋着を何着も拵えている。この動きには全タブレット解禁済みのディアナ王妃とエデルガルト公爵夫人も賛同していて、それぞれ婦人服ブランドを立ち上げるに至った。ディートリント様は女性ながら宮廷魔術師団のエリートということで、出来る女性的な路線。ディアナ様はディートリント様より年上だが、父親譲りの濃い金髪碧眼で可愛らしい感じのお顔立ちなので、キュート路線。そしてエデルガルト様は勇猛果敢な辺境伯出身のワイルド路線で、スポーティーかつアクティブに。
ちなみに、ドラマに出て来る化粧品なんかはことごとく錬金させられた。錬金で作れちゃうのもチートだが、それを政治利用しちゃう彼女らはもっと強かだ。さすが一流貴族の子女、ビジネスセンス半端ない。そして名だたる貴族の中でも屈指の商売上手なガルヴァーニ。ギルベルタ様が食いつかないわけがないのだ。
「なるほど、全属性ですの。上げるしかありませんわね!」
「まさかお母様、今から?!」
「あら、アロイスちゃんに出来て、私に出来ないことはなくてよ?」
それはそうかもしれないけど。しかも、
「クラウス。お祖母様にも錬金を教えてくれるわね?」
まるで薔薇のような華やかな笑み。だけど目が獰猛に光っている。これはアレだ。お爺様やドワーフの親方と同じ目つき。なんだ、彼らは似たもの夫婦じゃないか。
なお、似たもの夫婦の片割れことお爺様とベルント様のその後だが、正座くらいでは意地でも屈しなかった。しかし、「晩酌抜き」の一言であえなく陥落。帝国は国土が広く、グルメなガルヴァーニ家には世界中の美酒や肴が揃う。ここへ来てご相伴に与れないなら、何のためにはるばる足を運んだのか。慌てて立ち上がろうとした両氏は、足の痺れによりしばらく転がって悶絶する羽目になった。ディートヘルム株にベルント株は下落の一方である。




