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スキルが生えてくる異世界に転生したっぽい話  作者: 明和里苳


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今回も、読んでくださってありがとうございます。

 アレクシス様に言い渡されたレポートが書けない。いや、どこまで詳細に書いていいのか分からない。ともかくプレゼン資料のレジュメみたいに書いたらいいだろうか。細かいところまでまとめようとして、ソースは?とか突っ込まれるのは御免こうむりたい。まずは大まかな流れを作って、あとは聞かれたら答えるようにしようそうしよう。


 例の温浴による健康効果についてのレポート、下書きをしようとして、「どんな効果があったかな」と思い出しながら、マインドマップのように一人ブレーンストーミングしていたら、アレクシス様が目に留めた。


「なんと分かりやすい…!」


 アレクシス様が震えていた。いや、普通のブレーンストーミングなんですけど。これを後でちょっと体裁を整えて、パワポ風に加工して提出しようと思ったのだが、資料って大体こうして組み立てて行くもんなんじゃないの。


 彼らの間で交わされる文書とは、ほとんどが散文的、良くて箇条書きなんだそうな。美しく詩的な文章を、美麗な字で綴るのも貴族の教養の一つであるから、出来る貴族ほど美術的な文書を提出してくるそうだ。本人が苦手でも、高位の貴族なら、装飾的な文章、字の得意な文官を専門で雇うことができる。


 俺はたまたま、羊皮紙もペンもインクも好きなだけ使って良いと言われて、大胆にアイデアを縦横無尽に書き込み、丸で囲んだり矢印で結んだり、ちょっとしたイラストを書き込んでみたりしたが、そういうの無かったんだって。


 そういえば俺も、ノート術や思考整理術をかじる前は、良くて板書の丸写し、もしくは箇条書きだった気がする。そもそも識字率が低く、紙やペンを手にすることができる人間の絶対数が少ないのだ。言われてみるまで気づかないのも、分からないでもない。




 彼らが毎日格闘している山のような文書とは、カリグラフィーのような美しい文字で、飾り枠に彩られ、時候の挨拶、王族への忠誠やうんざりするほどの美辞麗句に満ちた、額に入れて飾っておきたいような逸品である。それでいて、中身は「回答もうちょっと待って」だけだったりする。そしてこちらからもまた、同じように美しい文字で、まるで詩のような盛り盛りの文章で「なる早で」と答えなければならない。それってもう、時候の挨拶とかテンプレにしちゃって、木版にでもして、最初から印刷しちゃったらいいんじゃないだろうか。


 ということを話すと、早速執事を呼んで、木版技師を確保するように命じていた。長期間王都を空けていて、書類仕事に忙殺されているアレクシス様、補佐官のベルント様、ちょっと目が血走っている。お疲れ様である。




 夕飯後、お楽しみのお風呂タイムとなった。アレクシス様もベルント様もお風呂に入るというので、お湯を用意してあげた。最近お風呂のお湯を用意するのは俺の役割だ。もとから魔力量が多いのかそれとも伸びてるのか、風呂のお湯を満たしたくらいでは、魔力が尽きる感じがしない。使用人にもお風呂を勧めたら、ものすごく喜ばれた。なお以前にも触れたが、ベルント様は、俺の魔力量は尋常じゃなく多いから、なるべく隠すようにと注意したのだが、その時点でやしきの風呂は俺が全部沸かしていた。時既に遅し。


 排水も問題ない。水魔法のレベルが上がって、水を生み出すだけでなく、水を取り除くスキル「ウォータードレイン」を覚えた。これが、いろんなものを乾かすのに超便利なのだが、うっかり生花に掛けたところ、一瞬でえげつないほどカラッカラになってしまった。きっと生物に使ったらものすごくヤバい。とりあえず、当面は風呂の水を抜く時だけに使おう。


 なお、インベントリでも水を収納することはできるが、インベントリとウィンドウの機能は、他の人には備わっていないようだから、人前では使わない。アレクシス様とベルント様にも言っていない。いつか打ち明ける時が来るかもしれないが。


 最初は何だかんだブツブツ言っていたベルント様も、風呂の魔力には勝てない。風呂の健康効果についても、あれだけ面白くなさそうにしていたのに、レポートを見てからは明らかに長風呂をするようになった。それ見たことか。ぬるま湯に半身浴は、疲労回復に最強なのだ。




 とはいえ、彼らの気持ちもわかる。やしきに帰ってくるのは数日に一度、その間は職場で仮眠を取りつつ、仕事に忙殺されているようだ。目のクマなんかがすさまじい。そうだ、こんな時こそ、旅の間におぼえたリフレッシュのスキルが役に立つのではないだろうか。特に、眼精疲労にはツボやリンパ流し、蒸しタオルなんかも効くに違いない。良い暮らしをさせてもらってるし、日頃の恩返しを込めて、ちょっとマッサージしてあげよう。


 もう就寝時間だというのに、アレクシス様とベルント様は、執務室で話し合っていた。部屋着になってまで仕事に取り組む、その意気は良いが、ちゃんと休まないと作業効率が落ちてしまう。そう説得して、まずアレクシス様からリフレッシュしてもらうことにした。


 ソファに深く掛け、頭は後ろに預けてもらう。目の上に蒸しタオルを乗せ、頭頂部のツボを押しながら、リフレッシュを掛けつつ、リンパを流して行く。すると、アレクシス様が痙攣を始めた。


「あがっ…あがががっ…!」


「アレクシス様!」


 ベルント様が咄嗟に割って入って止めようとするが、


「やめろベルント!止めてはならん!これは、この世の天国だ!」


 気を取り直して再開。アレクシス様はだらしなく口元を半開きにして、漏らしてはいけない声を漏らし、体をしならせてビクンビクンしている。


「エヘッ、エヘヘ…これ、これはらめらぁぁ…あっが…!」


 端正な顔立ちの、美形の〇〇顔、破壊力が半端ない。ベルント様は、お通夜のようないたたまれない表情をしている。きっと俺も同じ表情をしているのだろう。これは見てはいけないものだ。


 やがて首回りまでほぐし終わった頃、アレクシス様は気絶していた。蒸しタオルを取ったところ、幸せそうに白目を剥いている。手でそっとまぶたを閉じ、合掌した。なお、このしめやかな空気感とは対照的に、彼の肌はツヤッツヤである。


 ベルント様はそっとアレクシス様を抱き上げ、執務室の隣の寝室に運んだ。彼の背中が、「このことは口外してはならない」と告げている。俺は敬礼して彼らを見送った。




 なお、その後ベルント様に、同じ施術を頼まれた。ベルント様の寝室でひっそりと施術した後、俺は自室に戻った。俺はこのリフレッシュとマッサージを組み合わせたものを「脳汁のうじる」と名づけたが、なんと「脳汁」の名前でスキル登録された。俺が新しいスキルを創造した歴史的瞬間である。


 余談ではあるが、ベルント様の方が、いろいろ凄かった。

自分で書いててなんなんですが、スキル名が英語っぽいのに、人名はドイツ語っぽいの選んじゃった。

ちゃんとした作品では、名前がドイツ語っぽかったら、技名も「ロート」とか「メッサー」とかになってますよね。

なら私もちゃんと「ホイヤー」とか「ヴァッサー」とかに直さんとイカンかなぁ…と思ってたんですが、そういえば「柔道」や「忍術」も出したし、今回「脳汁」が加わったんで、諦めました。


今回も、読んでくださってありがとうございます。

評価、ブックマーク、いいね、とても励みになります。

温かい応援、心から感謝いたします。

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