6.接触(上)
自由を知らなければ、不自由に悩むことはない
目に映るものが、世界の全てとは限らないとして。
——さて、君の正義は何処に在る?
赤兎の本部へ戻ってすぐに連れて行かれたのは、宮城さんと初めて対面したあの部屋だった。
通された部屋の明るさに、思わず顔を背けて目をきつく閉じた。
深夜に関わらず、天井に埋め込まれたいくつもの電球は真っ白な光を放ち、容赦なく部屋を照らす。
まぶたを閉じていてもわかる眩しさにいつまで経っても目が慣れず、瞬きを繰り返した。
強い光があちらの世界との繋がりを遮断する。
闇の介入を許さない。この部屋からはそんな意図がありありと感じられた。
宮城さんは最初に会った時と同じソファに座っていた。
気怠そうに姿勢を崩し、半眼でこちらを睨む彼はとても眠そうだ。
「……聞いてねえぞ」
不機嫌に呟いた彼に向かいのソファに座るよう指示された。
大人しく従い、宮城さんと対面する形でソファに腰掛ける。
前回と同じく、穂高さんと柊さんがわたしの後ろに立った。
前回と違うのは、さらにこの部屋にふたりの人間が増えたこと。
わたしが祓い屋だと思っていた二人組は、部屋の入り口近くで控えるようにして室内の様子を窺っていた。
宮城さんは勢いをつけて上半身を起こし、体を前のめりにして両肘を膝に付いた。
不機嫌な顔に覗き込まれて、反射的に背筋が伸びる。
緊張で何も言えないわたしをしばらくじっと観察し、彼はさらに顔を歪めて舌打ちをした。
「偏りだけで済んでねえのかよ。そういうことはどうして先に報告しねえんだ」
どうして、と言われても……。
というか、宮城さんの口調が……。
動揺するわたしに構わず、宮城さんは半眼で顎をしゃくった。
「お前の身内はそいつらのことを知ってんのか?」
「……そいつら、とは?」
「お前に偏執的な情を寄せて取り憑いている連中だ」
どくん、と。心臓が跳ねる。
やっぱり、さっきの穂高さんもそうだけど。あの二人組といい、宮城さんも。
赤兎班の人たちは、闇の世界のことを知っている。
「驚いてないで答えろ。奥園の当主は、お前のことをどれだけ把握しているんだ」
「……いいえ。義父には何も、言ってません」
その答えに宮城さんは脱力して首を垂れ、大きなため息を吐く。
「だろうな。知っていればこんな簡単に捨て駒に使うはずがない」
やはり、義父にとってわたしは都合のいい駒でしかないのか。
わかってはいたけど、はっきりと言われてしまうと心に刺さる。
「まあいい。深淵の連中と奥園の件は別問題だ。お前は大人しくうちの監視下に置かれてろ。二度と脱走なんざ企てるな」
「深淵、とは。わたしの知っている、闇の世界のことですか?」
わたしの問いかけに、宮城さんは顔を上げた。
「赤兎班と闇に生きるみんなは、何か繋がりがあるのでしょうか。鳳の赤兎班は皇を脅かすものを取り締まるためにあって……、だったら、義父は……」
言いかけて、咄嗟に口を閉じる。
正面にいる宮城さんだけじゃない。背後の穂高さんや柊さん、それに少し離れた場所にいるあの二人組も。
全員から底冷えのする威圧感が向けられ、続きの言葉を飲み込んだ。
——これ以上は、言ってはいけない。
「人質が余計な詮索すんじゃねえ。奥園に有益になり得る情報を俺たちが教えるはずがねえだろ」
宮城さんは苛立ちを隠そうともせず、刺々しい口調でさらに続けた。
「いいから黙って大人しくうちに従ってろ。後ろに誰の加護があろうが関係ない。お前は奥園家の人間としてここにいるんだろ」
「……奥園」
——奥園 、朔。
そうだった。それがわたしだ。
望んでいない、望まれてもいない家名だけど、わたしは奥園家の一員としてここにいるんだ。
「地上で、人として生きる選択をしたのはお前だろ。だったら俺たち地上のやり方にごちゃごちゃ文句を抜かすな」
「……どうして、それを……」
……あなたが知っているの?
言葉は最後まで続かない。
驚き目を見開くわたしに興味をなくした宮城さんは、視線を穂高さんたちへと移す。
「明日から、穂高と柊は外に出てる奴らの援護に回れ。こいつの世話は東郷と雪根に引き継がせる」
「承知しました」
背後で、穂高さんと柊さんが頭を下げる気配があった。
「じきに他の班員もここに戻れる。そうなると少しは動きやすくなるだろう」
混乱するわたしを置いて、話は進んでいく。
「お前もとっとと寝ろ。まったく、こんな時間に起こしやがって」
大きく口を開いてあくびをひとつ。
宮城さんは煩わしそうに、しっしと小動物を追い払う仕草をした。
そんな彼を残して、皆が部屋を退出する。
ドアを潜る際、視界の端で宮城さんがソファに横になっていた。
こんな明るい場所で、彼は眠りにつけるのだろうか。
暗い廊下に出た途端、静けさの中に闇の気配を感じられてほっと胸を撫でおろす。
深い闇の存在感に、わたし以外の人たちが緊張を強めた。
穂高さんが苦笑して肩をすくめる。
「ふたりは彼女を部屋まで送り届けて。その後は事務室へ。明日からの話をしよう」
「はい」
アキが応じる。
柊さんは変わらず無言でわたしに強い視線を向けていた。
「行くぞ」
二人組に続き、部屋へ戻るため歩き出す。
小さな足音が廊下に響く。
そんな微かな音に紛れて、——くくっ……と。誰かが笑った気がした。
咄嗟に後ろを振り向く。
「どうしたの?」
「……いえ」
穂高さんと柊さんに怪訝そうな顔をされてしまった。
さっきの人を馬鹿にしたような強烈な愉悦心の正体は、彼らではない。
這い上がってくる不快感から逃れるように、二人組に付いて足早に廊下を進む。
人の感情でも、こんなにはっきりと伝わってきたのは初めてだった。一体誰のものだろう?
わたしの後ろにいたのは、穂高さんと柊さんだけ。
部屋の中にいる宮城さんの感情がここまで届いたのだろうか……。
わからない。
わからないけど、あれは良くないものな気がした。
誰かが口を開くこともなく、わたしに当てがわれた部屋の前に付いた。
「待って。そんなに時間は取らせないから」
気まずい空気から逃れるため部屋に入ろうとしたわたしを止めたのは、先ほど妖に止を刺した、彼だった。
細身の彼は、少し困ったように首を微かに傾げる。
穏やかな口調、ぱっちりとした瞳の、愛嬌のある容姿。親しみを覚えやすい空気をしている人だけど、彼も赤兎班の班員であることに変わりはない。
「はじめまして、じゃないか。改めまして、だね。鳳・赤兎班所属の雪根律です。それでこっちは」
「……東郷明将」
振られてもうひとりがぞんざいに名乗る。
雪根さんよりも握り拳ひとつ分背が高い彼は高圧的にわたしを見下ろしてきた。
目つきの鋭さは柊さんに通じるところがある。
ふたりに対しては、最初の出会いが奥園とは全く関係のないところだったため、少しだけ気が強くなってしまう。
「奥園朔です」
挑むように名乗り、頭を下げる。
そんなわたしに雪根さんは微笑み、軽く頷いた。
「うん。明日からよろしく」
「お前が奥園とか、……なんの因果だよ」
それを言いたいのはこっちよ。
出かけた文句は喉の奥で押し留めた。
彼らに見届けられて部屋に入る。
ひとりになると、どっと体から力が抜けた。
玄関でしゃがみ込んで、頭を抱えて泣くのを耐えた。
「……っ、ごめんねっ」
救えなかった闇の子の悲鳴が何度も繰り返し脳裏を巡る。
無力がこんなにも腹立たしいものだと知らなかった。
闇から落ち、妖に捕食された迷い子のこと。
奥園のこと。
赤兎班のこと。
いろんなことが一度に起こりすぎて、考えが追いつかない。
自分がどうするのが正解なのか、答えもろくに見つからないまま——。
眠れない夜が明けた。
*
翌朝からわたしの監視は、東郷さんと雪根さんの担当になった。
たとえ人が変わっても、わたしの毎日に変化はない。
いつものように赤兎の本部から学校へ行き、授業が終われば戻ってくる。それだけだ。
もしかしたら、学校にも赤兎班の関係者が紛れ込んでいて、こちらの動向に目を光らせている可能性はあった。
わたしは基本的にいつもひとりでいて、学校で人と話すことがほとんどないから、彼らの望む情報は手に入らないと思う。
だけど常に誰かに見られているかもしれないという疑心暗鬼は、想像した以上に精神を削った。
気の抜けない状態で授業が進む。
昼休みが始まると、人目を避けて外に出る。
とにかく誰もいないところで一人になりたかった。
体育館の裏で壁にもたれて腰を下ろし、お弁当を広げる。
花歩さんの作ったお弁当はいつも美味しそうで、この時だけは肩の力が抜けた。
「おや、朔ちゃんは今からお弁当かな」
近くで聞こえた声にハッとする。
ここに来た時は確かに誰もいなかったはず。
それなのに、いつの間にかわたしのすぐ隣。体育館の外壁の出っ張りにもたれて、男子生徒が座っていた。
「ごめんごめん。驚かせちゃったね」
彼のことは知っている。
留美香と親しい人。それも最近は、留美香の隣にいることが多い。
警戒心が一気に膨れ上がった。
彼は日に焼けた健康的な肌に、がっちりとした筋肉質な体つきをした人だった。何か、運動競技をしているのだろうか。
彫の深い顔立ち。目つきは猛禽類のように鋭いのに、笑うと途端に無邪気さがでて親しみが生まれる。
なぜだか根拠もなく彼に心を許しかけた自分に待ったをかけて、気を引き締め直した。
持っていた箸を箸箱へと片付ける。
留美香の関係者と親しくするのは今後のためにならない。
「すみません。お邪魔しました」
「いいよ。そこでゆっくりしてなよ」
「いえ、お気になさらず」
お弁当の蓋を閉じ、場所を移動するため荷物をまとめる。
そんなわたしを眺めながら、彼は口角を釣り上げた。
たったそれだけ。先ほど感じた親近感が消し飛ぶ。
直後、心臓を鷲掴みにされたような恐怖が全身を駆け巡る。
息をするのも忘れて硬直したわたしに、彼は無邪気に破顔した。
「ごめんね、気を使わせてしまったかな。やっぱり、囚われのお姫様が安らげる、貴重な時間は邪魔しちゃだめだよね」
ゆっくりと、彼に顔を向ける。
驚きで言葉を無くしたわたしに、彼はねえ? とおどけた。
……この人は、何を知っているというの。
「ごめんって。そんなに驚くとは思ってなかったんだ。怖がらせちゃったね」
混乱を隠しきれないわたしに彼は明るく言って、穏やかな雰囲気に切り替えた。
「奥園氏のことが知りたいなら、ちょっとだけ話をさせてよ。これについては君にも知る権利がある」
「……なぜ」
「うん? どうして俺が奥園氏と赤い兎さんのことを知っているかって?」
それもある。
「それとも、どうして俺が朔ちゃんに、みんなが隠す重要な情報を教えてあげるのか、気になるのかい?」
まるでわたしの心を見透かしたように、彼は核心をついてきた。
「学校に兎さんの見張りはいない。だから肩の力を抜いても大丈夫だよ。と言っても、話して間もない奴の言葉なんて信用ならないだろうけど」
彼は体育館の壁に背中を預け、ぼんやりと空を見上げる。
立ち上がってこの場を離れようとしていたわたしは、荷物を足元に下ろし、座り直した。
「いい子だね」
警戒しながらも話を聞く姿勢になったわたしに、彼は朗らかに笑った。
*
昼の体育館裏に冷たい風が吹く。
五月になって日差しはだんだんと暖かくなってきたけれど、日影はまだまだ肌寒い。
体育館の周囲には桜の木が等間隔に植えられている。
その青々としげる木の葉を眺めながら、わたしの隣に座った彼は話し出した。
「奥園氏とは、彼の仕事の関係で知り合ってね。日の元じゃ俺と気の合う人間は奥園氏以外と会えたためしがないから、彼には特別良くしてもらっているよ」
義父の仕事。
ということは、彼の両親は外つ国との貿易に携わっているのだろうか。
だけど、さっきの言い方だと義父と関係があるのは彼本人ってことにならないか。
「娘の留美香も面白いしね。奥園氏はこの学校に通うにあたっていろいろと融通を利かせてくれた。そういったとこから、俺は氏に借りがあるんだ」
今一度、彼の容姿を観察する。
制服の印象もあるだろうけど、年齢はわたしとそう変わらないはず。
あどけなさを僅かに残す、成熟しきっていない高校生そのものだ。なのに……。
「あなたは、いったい……」
どうしてこれまで気づけなかったのか。
学生だという固定観念を捨てて、ひとりの人だと意識して向き合えば、違和感は一目瞭然だった。
探れば探るほど、視覚の認識と感じる気配が一致しない。
彼が本当に人間なのかも怪しくなってきた。
最近会った人でいうと、宮城さんに近い何かを感じる。
こちらの動揺に気づいているのか、いないのか。
彼の瞳に、わたしが映される。
「一応、須藤、雷也っていうこの国の名前もあるけど。朔ちゃんには特別に教えてあげよう。俺は外の国に縁のある、奥園氏の同志だ」
須藤、と名乗った彼の告白に緊張が走る。
「……あなたの出自は」
「日の元じゃないよ。俺は大陸から渡って来た者だ」
断言されて、思わず須藤さんを凝視した。
顔をこわばらせるわたしとは対照的に、彼はどこまでも自然体だった。
どうしたらいいの。
こんなの、わたしひとりで対処できる問題じゃない。
日の元は特例を除いて他国の人間の入国を認めていない。
外つ国の人間が日の元の土地に踏み入れる際は、奥園家だけでなく皇家の許可が必須となる。
須藤さんは義父の同志だと言った。
義父は、赤兎班から疑われていて……。
そうなると、彼は密入国者である可能性が高い。
これは日の元の民として鳳……いや、赤兎班に報告すべき事案だ。
でも、宮城さんたちはわたしの話を信じてくれるだろうか。
そもそも義父の不利になることを、わたしがしていいの……?
判断に迷うわたしの心境を読んだのか、須藤さんは急に真剣な顔つきになる。
「俺は外から来た者だからね。君たちよりも日の元について、多くを知っている。国の中にいては絶対にわからない部分も、ね」
「そんなの……」
詭弁でなんとでも言える。
「奥園氏はただ、この国の在り方に疑問を抱いただけだ。日の元の政治機関、皇のやり方は間違っているかもしれないと。それを発言することすら許されない、この国の異常さに」
それが本当に義父の思想だという、根拠はない。
こんなの、簡単に信じていい話ではない。
「許すも何も、皇の政策に間違いなんて」
「その考えがそもそもおかしいと思わないの? 間違いを犯さない絶対的な正しさが、この世界に本当にあると思っているの?」
……ある。と、答えるのが正しいはずだ。
それが今日まで日の元を導き続けた、皇という組織ではないのか。
「日の元の民は幼い頃から、教育という名の洗脳を受けて育っている。皇をはじめとしたこの国の上層部に疑問を抱かないよう、徹底的に」
「……そんな、の……」
「残念ながら嘘じゃないよ。朔ちゃん、君が今、赤兎によって不当に自由を奪われている自身の状況を思い返してごらん。君は自分の不自由を、赤兎が言うなら仕方がないと、抵抗なく受け入れているよね。それはなぜだい?」
なぜ……、と聞かれても。
わたしがこうなったのは、義父が赤兎班に罪の疑惑を持たれたからで。
鳳の赤兎班という、国の機関の決定に従っているだけで……。
何も言えなくなったわたしを哀れみ、須藤さんは目を伏せる。
「奥園家は代々、外つ国の技術や製品を日の元へ輸入する事業を任されてきた一族だ。そういった理由から他の国民よりも、国の外への見識が深い。だから奥園氏は日の元のおかしな点に、疑問を持つことができた」
須藤さんは人差し指で、わたしの胸元を指し示す。
「ブレザー」
彼の指はそのまま少し下へ。
「スカート」
そして今度は、彼自身の足元を指差す。
「ローファー、パンツ。これらは外の国からもたらされた技術によって作られている。今となっては皆が当たり前に使っているけど、全て代々の奥園家が日の元にもたらした功績だ」
須藤さんはあちこちに視線を走らせ、最後はわたしへと首を傾げた。
「そこら辺を少し見渡しただけでも、外つ国由来のものは沢山あるよね」
それは、確かにそう。
外つ国の文化が、日の元の生活に豊かさをもたらしているのは事実だ。
「これだけ大陸の恩恵を受けながら、日の元は大陸の国に何の貢献もしていないというのは、フェアじゃないと思わない?」
「……フェア?」
「平等じゃないってこと。貰えるものは貰っていくのに、こっちからは何も与えない。外の国々からしたら、日の元はとても傲慢で閉塞的な国家なんだよ」
言い切られてムッとするも、わたしには反論するための知識がなかった。
日の元において外つ国は、皇の特定の部署や奥園の上層部ぐらいしか、関わる機会がない。
それがわたしたちの常識で、彼らが外つ国とどのような取り引きを行っているかなんて、庶民には一切教えられていない。
そもそもわたしたち日の元の民は、外つ国にそんなに関心がなかった。
……須藤さんの言い分だと、関心を示さないように教育されてきた、ということ?
足元が揺らぐ。
今まで自分を支えてきた絶対的な正しさが、脆い柱のように思えてきた。
須藤さんの言葉が全て真実という保障もないのに、わたしは彼の話を頭ごなしに否定できない。
「奥園氏は日の元と諸外国の関係をより親密なものにするために、外の国々で日の元がどんな役に立つのかを知りたがっている。そのためには、直接現地へ赴いて調査するのが一番良い」
「それは、そうかもしれないけど……」
日の元の国民は特別な場合を除き、外つ国への渡航が許されていない。
法律でそう決められている。
「奥園氏は何年も前から皇に渡航の申請を出してきたが、未だに許可は下りていない。その間に皇の関係者は何人も、外つ国へ渡っている事実があるにも関わらずだ。おかしいとは思わないかい?」
須藤さんはさらに続けた。
外つ国の貿易船は年に二回、安定期に日の元の港に寄港できる。しかし外つ国の船員は、日の元の土地を踏むことを許されていない。
外つ国の者を日の元へ迎えるには、検疫や手続きで非常に時間がかかる。
そうしているうちに安定期は終わり、日の元の周辺海域は再び荒れて船が出港できなくなってしまう。
安全のために必要な措置だと皇はもっともらしい理由を挙げているが、本当にそれだけなのか。
日の元の民と外つ国の人間の接触を、徹底して避ける仕組みが、この国には出来上がっている。
どうして皇以外の日の元の民は、海の外に出られないのか?
外つ国の民が日の元への入国を許されていないのはなぜか?
「答えは至極簡単。国の外で余計な知識をつけられたら困る奴が、権力者の中にいるからだ」
……そんなの、考えたこともなかった。