学園に通っていますが、毎日眠たくて大変です!!
ムーメイア学園。
それは、この世界の膨大な大陸にいる色々な種族の人達が通うと言われている超有名学園のことだ。森に囲まれた立派な校舎で全寮制の寄宿学校でもある。毎年の試験倍率は非常に高い。
しかし、この学園に入るには条件がある。
この学園ではまずは、ヴァンパイアが優遇される。
彼らは非常に優れていて魔法も使え、容姿も整っている。彼らは一目見て誰が自分達と同じヴァンパイアかどうか分かるらしい。ヴァンパイアの中でも血筋による序列があるんだとか。
その次が獣人である。獣人とは、人間の姿をしているが、動物の耳などが生えた人達のことだ。彼らは身体能力が高くて強い。
そして、人間。
人間の中でも魔法が使える人は獣人の次に優遇される。あとは、学力次第かお金次第で入学できる。
つまり、学園での階級を序列化すると、ヴァンパイア>獣人>魔法が使える人間>普通の人間、ということになるのである。
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「見て見て!あっちの方向。今日もあの3人は、かっこいい!!」
「そうねえ。サーシャは好きよね…」
「勿論だよ。特にヴィクトル様!!今日も一段と素敵…やっぱりあの中で1番大人っぽいと思わない?ねえアリサ」
「そうかしら。でもアベラール様よりはマシかもしれないわね。」
「それは言えてる!!フラヴィーもそう思うでしょ?!……って、フラヴィー??!!寝てないで私達の話を聞いてよ!!起きろ〜!」
サーシャの叫び声に、はっと目を覚ました。
やばい。
眠ってたらしい。うとうとしていたらいつのまに…。気持ちよかったな。
まだ眠いけど…。
「…な、んの、話…?」
寝起きで口が回らなかった。眠たい。
「…眠そうだね。私達の話聞いてなかったよね?」
「うん…」
「フラヴィーはいつも眠そうだから仕方ないわよ」
「そうだけどー、私の話をフラヴィーにも聞いて欲しかったんだよ!」
「なん、の話してたの?」
ふわぁと欠伸をしながら2人に問いかける。
「あの3人の話だよ!やっぱり1番はヴィクトル様だよ!ねえ、フラヴィーもそう思うでしょ?!あんなにかっこいいのに」
「…そうかな。興味ない」
ちらっと視線をあちらに持っていく。あの3人を中心をしてあちらは人が多い。
「フラヴィーは興味なさそうよ。サーシャはモノ好きね」
「アリサには言われたくない!ヴィクトル様は輝いていてかっこいいんだから。ほら!」
サーシャは指を刺した。
ヴィクトル様と呼ばれた人は、赤い髪に琥珀色の瞳を持つ美貌が際立つヴァンパイアだ。身長も高く色気が溢れているように感じるので大人っぽくみえる。彼はいつも、アベラール様とドニー様と一緒にいる。この2人もヴァンパイアだ。アベラール様は銀髪に青い瞳をした人で、ドニー様は背が低く、くるくるした金髪に金色の瞳をしている。どちらも美貌が際立っている。アベラール様は性格に多少難があるらしいが…。
あの3人はヴァンパイアの中でも名家出身らしく階級的にも上である。その中でもアベラール様が1番らしい。
「…そうかな」
ぽつりとフラヴィーはあちらを見て呟く。
「フラヴィーは興味ないの?!あんなにかっこいいのに…」
「でもフラヴィーの気持ち何となく分かる。私の趣味じゃないしね」
「アリサまでそんなこと言うなんて…」
「だって知ってるでしょう、私の好み。私はリアム様がいいのよ」
「さすが、獣人はやっぱり違う!同じ種族がいいんだね」
「まぁねー」
アリサは獣人だ。
猫耳が生えている。たまに動いているのがかわいい。
リアム様と呼ばれた人も獣人である。
彼もまた人気らしい。
リアム様は狼の獣人である。彼は茶髪に緑色の瞳をしていて耳が生えている。彼を見た時に純粋な心の持ち主だとフラヴィーは勝手に思ったことがある。
また、彼は強い者を慕う傾向があるらしい。なので、ヴァンパイアな3人ともよく仲良くしているのを見かける。
「でもフラヴィーは勿体ない!フラヴィーも人間にしては容姿も整ってて魔法も使えるのに!フラヴィーなら玉の輿狙えるよ」
「確かにそうねえ。勿体ないわね」
「…興味ないからいいの」
「えー。一緒に狙いに行こうよ玉の輿」
「…サーシャは商家だからお金持ちでしょ」
「そうだけどさ。ああ、ヴィクトル様…」
「サーシャはヴィクトル様好きよね。ヴィクトル様は良いけれど、アベラール様には気をつけるのよ2人とも。女好きらしいし、とっかえひっかえっていう感じらしいわよ」
「はーい」
「…私は関係ないからね」
「もうフラヴィーったら!」
「本当だよ!フラヴィー」
文句を言われてしまった。それよりも眠たいな。うとうと…。
「フラヴィー!!行くぞ」
うとうとしていたら、がしっと腕を掴まれて立たされる。眠い…。
「あ、おい。寝るな」
「フラヴィー起きなさーい!」
「そうよ。オスカー様が迎えに来てくれたのに…まったくフラヴィーは」
声が聞こえたので、眠たかったが頑張って目を開けた。
目を開けたらオスカーがいた。
オスカーは人間であり、王子様らしい。そして魔法が使える。
オスカーとは授業で知り合った。
魔法を使う授業で偶然ペアが同じになった時に、途中で倒れてしまったのだ。その時に彼が保健室まで運んでくれた。それからは仲良くしている。正義感は強い時は強いが、わりと自由な人だとフラヴィーは思っている。
オスカーは、黒髪に灰色の瞳をした人だ。一緒の授業の前にいつも迎えにきてくれる。
「…オ、スカー?」
口が回らない。今日はいつにもまして眠たい。
「授業、行くぞ!」
腕を掴まれたまま連行される。
「頑張ってフラヴィー!!」
「頑張りなさい」
サーシャとアリサが笑顔で手を振っているのが視界の端に見えた。
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「ふわあ…」
「寝るなよ、隣で見張っててやるから眠るなよ」
「…えー、眠い」
「おい」
「…眠い授業する先生が悪いと思う」
「それは確かにな…」
フラヴィーは、只管欠伸をしながら授業を受けた。
授業中にフラヴィーが、うとうとし始めると、オスカーに起こされる。そして、再びうとうとする。それで起こされる。その繰り返しだった。彼は意外に面倒見が良いらしい。
仕方ないので眠くならないように、こそこそと魔法に関する話をオスカーとしていた。
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授業も全て終わって寮に戻ろうとして1人で歩いていたフラヴィー。
「なぁ、お前…俺の女にならねーか?」
(…誰に向かって言ってるのかな?…私の後ろの人?)
フラヴィーは振り返った。振り返ったが、誰も居なかった…。
「お前に言ってんだよ!気付けよ。人間にしては容姿もそこら辺のやつよりも優れているから俺の女にならねーか?」
「…なりません。興味ないので」
「はぁ!お前誰に向かって言ってるか分かってるのかよ。俺はアベラールだ」
「…だから何ですか?」
「俺は偉いんだ」
「そうですか」
フラヴィーはまたしても眠たくなってきた。眠い。非常に眠い。
(…帰って良いかな?)
フラヴィーは帰ることに決めた。
「待てよ!後悔しても知らないからな。お前は俺の女にふさわしいから俺の女になれよ」
アベラールは叫んでいた。
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「見てあの子だよ!アベラール様からの誘いを断った子!」
「え、信じられない。断る人がいるなんて」
「だよねー、あんなにかっこいいのに」
「素敵だし」
「そうよね」
「うんうん」
周囲の人達は、ひそひそと誰かの話をしているらしい。
「…眠たい。よく眠れなかった」
フラヴィーのその発言を聞いたサーシャとアリサが顔を見合わせた。
「まったくフラヴィーは噂話にも動じないから相変わらずね」
「だよね…でもフラヴィーのこうゆうところが好き」
「分かるわ」
「…ねえ、誰の噂話してるの?あの人達」
フラヴィーは気になった。
こちらを一瞬向いてからひそひそと話している人達が一体何の話をしているのか気になった。
「あなたの話よ」
「そうだよ!アベラール様からの断ったんだって?!すごいよ」
「でも怖いわね」
「なんか起こりそうだよね」
「ええ。心配だわ」
「同じく……ってフラヴィー??人の話ちゃーんと聞いてた?!」
やばい。うとうとしかけていた。
「…聞いてたよ。たぶん」
聞いてなかった。
全く聞いてなかった。
質問した直後から眠くなったから記憶があやふやである。
「…聞いてなかったわね」
「私達にはお見通しだよ」
「…なんで分かったの?」
「「なんとなく」」
「それで何の話?」
「…だからー、あの噂話はフラヴィーのこと言ってるんだよ!昨日のアベラール様の誘い断った話!」
「…へえ。そういえば、後悔しても知らないからなって言われた」
「…それは事件の香りがするわ」
「だよね…なんか起こりそう。フラヴィー気を付けて」
「サーシャの言う通りよ。あ、オスカー様に守ってもらうのはどう??」
「良いねー名案だから採用!オスカー様ー!!」
サーシャがオスカーの名前を叫んだ。
そしたらやってきた。
「呼んだ?」
「うん!噂話の件でフラヴィーのことよろしくね」
「ああ」
勝手に話が進んでいっている。
当事者であるフラヴィーはそう思った。
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「あはは、かわいそう」
「本当ね」
「見てあれ」
「うわぁ」
「自業自得でしょ」
フラヴィーは、あれから度々嫌がらせを受けた。
泥水をかけられたり、物を盗まれたり、ぶつかられたり、ひそひそ話を近くでされたりなど色々…。その内、学園中の人達にも同じことをされるようになった。
「フラヴィー大丈夫?」
「大丈夫なの?」
「これで拭けよ」
「…ありがとう」
オスカーからタオルを受け取った。サーシャとアリサからも心配されているのを感じた。
「しかし、学園中の人達から嫌がらせされるってあり得ないな。そう思うだろオスカー」
「ああ。その通りだよリアム。誰かが何かしているのか?」
リアム様もいる。オスカーと仲が良いようだ。
「…原因はアベラール様だよ」
「…フラヴィー?」
全ての原因はアベラールだ。アベラールが魔法で人を操っている。
「ようフラヴィー。そろそろ俺の女になる気になったか?」
アベラール達がやってきた。
「…なりません」
「おい、今なんて言った?なるだろ」
「なりません」
「お前は俺の女になるんだよ」
「嫌です」
「なるだろ。俺の誘いを断る奴なんていないんだ」
話通じないのかなこの人。
「…アベラール、今回はやりすぎだよ。周りを巻き込みすぎてる」
「僕もヴィクトルに賛成ー。これは流石にやりすぎだよ。大勢を魔法で操りすぎてるよ」
アベラールのそばにいたヴィクトルとドニーがアベラールを咎める。咎めるが…
「いいんだよ。俺がいいって言うんだからいいんだ。あと、なんで俺の女にならないんだよ!!少しは喜べよ!!お前!!」
次の瞬間、アベラールから魔法が放たれた。威力がとても凄まじい。
とても強い魔法だった。
それは色んな方向に飛んでいった。
「うわっ」
「きゃっ」
サーシャとアリサの声が聞こえてきた。
オスカーは魔法を魔法で相殺している。しているが、間に合わない。
「…アベラールの奴、完全に魔法が暴走してる」
「僕達じゃ止められないよ、あれは。アベラールよりも上位の人じゃないと無理だね。どうしよう…」
ヴィクトルとドニーの会話が聞こえてきた。アベラールの魔法が暴走しているらしい。
「うわ、無理だ…魔法が間に合わない」
「俺も無理」
オスカーとリアムの声が聞こえて来る。
間に合わないらしい。アベラールから放たれた強い威力の魔法はフラヴィーの方向に向かっている。
「フラヴィー!!…」
オスカーが手を伸ばしたが間に合わなかった。アベラールから放たれた強い威力の魔法はフラヴィーに突撃した。
「「フラヴィー!!」」
サーシャとアリサが叫んだ。
「鎮まりなさい」
凛とした声が響き渡る。
そして、眩しいほどの光が周囲に反射する。
声そのものはフラヴィーだが、いつもの眠そうな声ではなかった。
その透き通る声が響き渡ったと同時にフラヴィーに向かってきた魔法と、アベラールの魔法暴走は消え、アベラールの魔法にかかっていた人は意識を失って倒れ込んだ。アベラールも倒れた。
「フラヴィー…瞳の色が!!」
「本当だわ、フラヴィーの瞳の色が!それに髪の長さも…」
フラヴィーの瞳の色が変わっていた。
茶色が多いヘーゼル色の瞳だったのに、そこに青や緑、黄色が加わったヘーゼル色の瞳になっていた。
それに、髪の長さも変化していた。フラヴィーの肩までのふわふわな金髪が、より伸びていたのである。
「…まさか」
ドニーがフラヴィーを見て驚く。
「そのまさかだよ」
ドニーにそう告げたのはヴィクトルだった。
「ヴィクトルの言う通りよ。せっかく隠していたのに…隠すのも大変。魔法の反動で眠たくなるし」
「え?!フラヴィー??」
「どういうこと??!!」
困惑するサーシャ達。オスカーとリアムも固まっている。
みんながフラヴィーの方を見ていた。
「こういうこと。実はヴァンパイアなの。隠していてごめんね」
それを聞いて驚くサーシャ達。
叫ばれた。
ある程度理解したのか、こんなことをサーシャに聞かれた。
「じゃあ、もしかしてフラヴィーってアベラール様よりも上位のヴァンパイアなの?勝ってたし」
「そうだよ」
「なんで隠してたのよ?」
アリサにも聞かれた。
「普通に生きてみたくて。でも意外に大変だったな。魔法で気配を押さえ込んで少し認識阻害してって感じで…ねえヴィクトル」
「…俺の方がひやひやしてたよ」
「ごめん」
ヴィクトルが呆れ気味になっていた。
「ヴィクトルって知り合いなの?」
ドニーがヴィクトルに聞く。
「従兄弟なの」
フラヴィーが代わりに答えた。そしたら、それも驚かれた。
「従姉妹っていっても遠い親戚だけどね」
ヴィクトルが付け加える。
「…でも普通に過ごすのも良かったな。サーシャとアリサに出会えたし。オスカーにも出会えたしね」
フラヴィーはそう言ってふわりと微笑んだ。
「…俺がフラヴィーの面倒みないとだからな」
「そうかな」
「ああ」
「もう眠くならないから大丈夫」
「そんなことないだろ」
「ある!」
「ないな」
「あるよ!」
「ない!」
そんなフラヴィーとオスカーの会話を周囲は微笑ましく見守っていた。
そして、フラヴィーとオスカーの会話は続いた…。
「ヴィクトル様、サインください!!」
「サイン?なんでサイン?」
「握手でもいいです」
「握手しておくの?いいよ。君は確かサーシャだよね。フラヴィーがいつも迷惑かけてごめんね」
「そんなことないです」
こちらはこちらで盛り上がっていた。
「あの!リアム様…」
「猫耳かわいいな」
「ありがとうございます!私、アリサって言います」
「よろしくな」
「はい!」
こちらも負けずに盛り上がっていた。
一方で、ドニーは…
「みんな、この倒れている人達どうするか忘れてるよね?まあ、僕もよく分かんないし、放っておこうかな。後始末するの嫌だし…僕は何も知らない…」
ちらっと視線をそちらに合わせて、そっと呟いた。
これで完結です。ありがとうございました。