8.「2箇所目」逃げる魔物と追う女
この作品はフィクションです。
「まぁーーーてぇーーーこぉーーーらぁぁぁぁーーっ!!!」
高音の怒鳴り声が周囲に反響する。
彼女は、怒っていた。怒りながら通路を激走していた。
抜き身のショートソードを右手。革製のスモールシールドを左手に構え、戦闘態勢で走り続けている。全身を軽量な革装備で包んだその姿は、典型的な、若手の冒険者、といったところ。
「どぉこ行きやがったぁぁぁぁぁーーーっ!!!」
先の見えない一直線の通路を、一切速度を落とす事なく、少女は走り続けている。
誰かを追っているようだが、その通路には、人や魔物はおろか、小さな羽虫の姿すら見当たらない。
不気味なまでの静寂。不自然なまでの整然。ただただ、真っ直ぐに伸びる通路。
聞こえるのは、少女の怒鳴り声ばかり。
「隠れてんじゃねぇぞぉぉぉぉこらぁぁぁっっっ!!!」
………ぷっ
少しは疑ったりしないのかな?この状況。明らかに不自然だと思うんだけど。
「うぉぉぉぉぉぉーーーーーーっっっっ!!!」
ま、そんなところが、……………ね。
「ねぇねぇ、」
「ぬああああーーー………あ!?」
「何してんの?」
「るっせーーーー話しかけんなっ!気が散るっ!!」
「なんでなんで?」
「捜してんだよ!!」
「なにをなにを?」
「根性ひん曲がった魔物をだよっっっ!!!」
「ふぅ〜ん。それってどんな奴?」
「見た目は人間で!」
「ふんふん。」
「肌は青白くて!」
「はいはい。」
「貴族みたいな、いけすかないカッコして!」
「へぇへぇ。」
「人を小馬鹿にするのが趣味の腐れ野郎だっ!!」
「それってこんな見た目の?」
「そう!まさにそんな見た目の」
……………………………………………………
「てんめぇぇぇぇぇぇーーーーーーーっっっっ!!!!」
「きゃははははははははははは!」
こんなところで横を並走してくる相手なんて、明らかに不審なんだから立ち止まると思いきや、正面に回り込んで姿を見せるまで気づかないとは。
「恋は盲目とはよく言ったもんだねぇ。」
「誰が鯉の頭目だコラァぁぁぁぁぁっっ!!!!」
「何その聞き間違い。ウケる〜。」
「るせぇぇっっっ!!」
っていうか、鯉の頭目ってなに?この子の村では鯉に序列でもあるのか?
と、そんな会話を楽しみつつ。
憤怒の形相で追いかけてくる少女と、一定の距離を保って逃げながら、目的の場所へと誘導する。
そろそろお腹が空いたからね。
一直線な少女と、からかい好きな魔物の光景。