7.立ち去る男
この作品はフィクションです。
「なんでだ。」
「ん?」
「なんであんたは、奴らに襲われないんだ。」
「ゴブリンたちのことか?」
「疑問はまだある。なんであんたはゴブリンの言葉がわかるんだ?」
「あ〜…。」
「いや、違う。あんたがゴブリンの言葉をわかるんじゃない。俺もだ。なんで俺はゴブリンの言葉がわかるんだ?」
魔物に言葉という文明があるかどうかは知らない。知らないが、何故か、さっきの、あのゴブリンたちが言っている言葉は、理解ができた。
いや、違う。理解できた、じゃない。人間の言葉として聞こえてきた、だ。奴らは、はっきりと、人間の言葉を喋っていた。
「なんだ?このうどんとやらには、魔物のうめき声を人間の言葉に翻訳する効果でもあるのか?向こうの大陸の人間たちは、皆魔物と喋ることができるのか?襲われないのもうどんの効力か?」
「おいおい…少し落ち着け。別にうどんにはそんな効果はねぇよ。ただの料理だ。」
「じゃあなんでだ。」
「知ってどうする。」
「どうする…、…?」
「例えば、だ。俺が、この屋台に、魔物の言葉を翻訳する魔力が込められているからだ、って言ったら、信じるか?」
「………。」
「お前の中に秘められた、魔物の言葉を理解する才能が開花したからだ、って言ったら?」
「………。」
「それとも、全部お前の空耳だ、って言った方が納得できるか?」
「…いや、もういい。」
この男に、本当のことを語るつもりはないらしい。
言われてみれば、確かにそうだ。どんな理由を語られたとしても、それが本当か嘘かを確かめる術は無いし、知ったところで、意味はないのかもしれない。
「ただ、わからないことを、わならないままにしておきたくなかっただけだ。」
「…なるほどな。」
「だが、確かにそうだな。知ったところで、だ。」
屋台に銀貨を1枚置く。
「一食の飯代にしては奮発してくれたな。」
「命を救ってくれた分も併せれば、これでも安いくらいだ。」
「そういや、そうだったな。すっかり忘れてたぜ。」
「………。」
屋台を離れ、歩き出す。
「世話になった。」
「はいよ。」
共に洞窟に挑んだ仲間たちは、皆死んだ。
そんな中で、自分は命を拾われた。
死んだ仲間のためにも、などと、くさいことを言うつもりはないが、
「外へ戻るのか。」
「…あぁ。」
偶然だろうと気まぐれだろうと、まだ生きている。それなら、生きてやろう。
うまい飯を食べたおかげか、そう思えた。
「それがいい。」
俺は屋台のある広間を後にして、地上へと歩き出した。
「松明が切れて道がわからん。帰るときに同行させてもらっても構わないか?」
「おいおい…。」
次回から、異なるシチュエーション、「2日目」に入ります。