6.旨い食事と一杯のお代
この作品はフィクションです。
「……………。」
うどん。
食べ慣れない味ではあった。だが、旨いと感じられる料理だった。
スープは魚介の風味が凝縮されており、味が濃いのに喉越しはさっぱりしている。
そして、そのスープの味が染みた太い麺は、舌ざわりが良く、なおかつ、食べ応えがある。
シンプルに味の良し悪しが反映される、ごまかしの効かない料理。そんな印象だろうか。
「好みに合ったようで、なによりだ。」
空になった器を片付けながら、男が声をかけてくる。
「少しばかり、食べるのにコツがいるけどな。」
確かに。
普段食べている麺料理と同じように食べようとしても、麺が太いためにフォークに巻き付けられないし、スープに浸かっているせいで、上手く捉えられない。
結局、フォークで麺を刺して、スプーンで落ちないようにフォローしながら口まで運ぶ、という、あまり格好の良くない食べ方に終止することになった。
…味は確かに旨いが、向こうの大陸の人間は、毎食こんな苦労をしているのだろうか。
「ま、向こうにはこいつを食うに適した食器があるって言うからな。フォークじゃ食いづらいのも当然だ。」
「………。」
言えよ。そういうことは先に。
「なら、その適した食器も用意しておくべきなんじゃないのか?」
「あいにく聞きかじった知識で作ってるんでな。実際にどんな食器が使われているかは知らん。だから用意もできん。」
「………。」
聞きかじった知識だけで、これだけ旨いものを作れるものなのか?
熟練の料理人ならば、可能なことなのだろうか…。
「………まぁ、いい。世話になったな。アルジ、だったか?」
「あぁ。」
「いくらだ?」
「好きなだけ払ってくれ。」
「………は?」
「細かい飯代とか決めてねぇんだ、面倒だから。だから、好きなだけ払ってくれ。」
「………商売人がそんな適当なことで生きていけるのか?。」
「別に商売人になったつもりもねぇからなぁ。」
なんなんだ、この男。
好きなだけ払え、とは、あまりに挑発的に聞こえる。
料理の腕は確かなようだし、命を助けてくれたあたり、人は良いのだと思うが、魔物相手にも商売をしていたり、金に無頓着だったり。やはりどこかおかしい…。
「ゴブリンやオークのやつらなんかは、金貨1枚置いてくけどな。」
「…は!?」
「ま、あいつらに貨幣価値なんて概念は無いからな。金貨1枚よりうどん一杯、ってとこか。」
「………。」
それはそうだろう。ゴブリンやオークの社会に、貨幣が流通しているなどという話、聞いたことがない。奴らの価値基準はもっと単純だ。欲しいものがあれば力ずくで奪う。奴らにはそれしか脳が無いのだから。
…そう考えたら、余計に気になり始めた。
何故、この男は魔物に襲われないのか。
コメディを絡めていくのが難しい…