4.食らう小鬼と歩き出す男
この作品はフィクションです。
「いただきまーーすっ!」
巨大な器が床に置かれるやいなや、勢いよく群がるゴブリン達。
何かをすするような音と汚い咀嚼音が、断続的に聞こえてくる。どうやら、あの器の中身は食物らしい。
その光景を見て、当然の疑問が浮かんだ。
………何故、人間がゴブリンに食事を与えている?
人間にとって魔物は敵であり、魔物にとって人間は敵である。殺しあい、奪いあうのが常識。間違っても、魔物に食事を与える、などということをする人間はいない。有り得ない。
その、有り得ないこと、が、今、起こっている。
「相変わらず慌ただしい奴らだな。飯はもっとゆっくり食うもんだ。」
「なんでだ?」
「うまいもの、ゆっくりくってたら、ほかのやつらにとられる!」
「うまいものくえない、かなしい。」
「うまいもの、はやいものがち!だから、いそいでくう!」
…………。
人間と魔物が、同じ空間で、争うことなく共存する光景。そんな光景を前に、頭の中は、様々な考えと推察が巡っていた。
「ごちそーさまでした!!」
「おぅ。…今日も綺麗に完食だな。汁一滴も残ってやしねぇ。」
「うまいもの、ぜんぶたべつくす!あたりまえ!」
「アルジのうどん、うまい。のこす、ぜったいだめ。もったいない。」
「そいつはどうも。」
「アルジ!いつものキラキラ!うどんとこーかん!」
「はい毎度。気をつけて帰れよ。」
「じゃーな!!」
「……………。」
「…お、」
「……………。」
「歩けるくらいには回復したか。」
その時の俺は、どんな顔をしていたのだろう。
多分、相当険しい表情をしていたんだと思う。
あの男のお香の効果はかなり高いようだ。ゴブリン達が食事を食べ終わるまで、それほど時間はかかっていない。その短時間で、ゆっくりでも歩けるくらいには回復した。
…だが、その感謝とは、別。
「…聞きたいことがある。」
「だろうな。」
一歩ずつ、ゆっくり男の屋台に近付く俺を、男は横目でちらりと見ただけで視線を外し、器を布で研いていた。
俺に対しては、いや、対しても、か。
なんの警戒心も抱いていないらしい。
そして、俺が抱いている疑問についても、察しがついているらしい。
なら、話が早い。
「うどんとは何だ。」
「そっちかよ。」
人間も魔物も、旨いものが好きなことに変わりなし。