2.目覚めた人間とアルジの屋台
この作品はフィクションです。
「ごっつぉさんだぜアルジ!今日のうどんもうまかった!人間ぶち殺して金奪っといてよかったんだぜ!」
「次はもっと金集めて、天ぷら全乗せうどんを食ってやるんだぜ!楽しみにしとけ!」
「楽しみにしてるのはそっちだろ?毎度どうもな。気をつけて帰れよ。」
「おう!!」
「………そういや、」
人間の五感の中で、一番敏感なのはどこだろうか。
触覚か、視覚か、あるいは嗅覚か。
俺は、嗅覚だと思う。
「………、……」
俺の意識を再び引き戻してくれたのは、その匂いだった。
鼻孔で感じる、辛味と酸味。しっとり落ち着いた森の香りと、鼻の奥へと突き抜ける爽やかさ。そして、息苦しさ。
「………っ!…ん、んっ…ぐ…っ!」
気が動転して、口で呼吸することを忘れていた。どうやら、両方の鼻の穴に、何かが詰め込まれているらしい。
深呼吸をしながら、息苦しさの原因を取り除く。
「………、」
まだ体の感覚は鈍い。どうにか腕を動かして、鼻に詰め込まれていたそれを抜き取ると、息苦しさから解放された。同時に、迷宮の淀んだ空気が鼻に入り込んでくる。
自分の鼻に入っていた、小指よりも少し細いくらいのそれは、どうやら、お香の類を固めて作ったものらしい。ほのかに温かみを感じる。
息苦しくはあったが不快ではなかったのは、そのためか。
「お、気が付いたか。」
人の声。声の雰囲気からして、初老の男。
声の方に首を傾けると、その声の主であろう男と、迷宮の深部には似つかわしくない、木製の物体が目に入った。
「………?」
意識が途切れる前には、こんなものはなかったはずだが…。
なぜ、こんな迷宮の奥深くに、屋台が?
「生きてるか死んでるか微妙だったから、とりあえず自然治癒力を活性化させといたが、うまいこといったみたいだな。」
自然治癒力を活性化。おそらく、鼻に詰め込まれていたお香の効果のことだろう。
ということは、この男は、俺の命の恩人、ということか。
「まだ香り出てるだろ、それ。もうしばらく鼻に詰めとけ。そのうち起き上がれるくらいには回復するだろ。」
「………、」
もう一度詰めた。
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