続・夏の天道虫
圧倒的な物理による力は
最上の道徳心、倫理観に合わせて
清廉潔白であった者でも
簡単に終わらせることができる
全くの別の武器なのだ
しかも
相性が頗る悪い
では、何の為に道徳心や倫理観を
作ったのだろう
弱者が無様に死ぬことを
軽くする為である
強い道徳心や倫理観
所謂、綺麗なものの為に
散っていった者が居ると
残された人は
まるで人間としてそう生きるべきだと
道を示されているように感じる
それを胸に暫く生きられる
弱者が弱者に渡す武器なのだ
しかも
他の道を選ばせない
強く願うようになる
追い求める
正義であるように感じる
という補正付きである
だが
人間が
そのように生きなければならないとは
全く決まっていない
人が法律で縛られている理由でもある
弱者側が繋いできた
道徳心や倫理観は
世の中が荒れることで
意味のないものへと一瞬だけ変わる
戦争で
流行り病で
クーデターで
自身の不幸で
見るも無惨に変質する
圧倒的な物理による力の前では
意味が無いことに気づくのである
あの補正が消えることで
力の世界に急激に引き寄せられ
ある者は武器を手にし
ある者は徒党を組み
ある者は身体を使い強者に取り入る
そんな中で
強い道徳心、倫理観を持つ者が
一種の象徴となる
弱者は自らを省みるようになるが
強い道徳心、倫理観を持つ者が
耐え忍びながら亡くなれば
弱者は死ぬことが最大の武器だと
勘違いをする
自分達に必要な正義を引き継ぐという
どうでもいい意思で
後から後から消えていく
それが正義というものである
全てを救えるような正義とは
繋げられた時間に対してしか使えない
人に対して使える正義は無いのだ
その繋げられた時間の中に
人が居るというだけでもある
間接的であり直接的ではない
弱者の為に用意された
道徳心や倫理観は
強い道徳心、倫理観を持つ者を針として
弱者の頭に打ち込まれるモルヒネである
狂ったように行動でき
場合によっては死ぬこともできる
託すという形を一種の力として見て
強い正しさを信仰するのだ
我武者羅に命を使っているように見え
世が荒れると変わらず作用する
世が落ちつけば
能力主義へと変わる
他人に媚びることで
使える人間だと理解されることが
弱者にとって
物理による力に近いものだと
認識されるからだろう
他人に作用できる人間が
重宝されるのだ
その重宝された人間が
たまたま持っていた道徳心、倫理観が
新しい弱者のものとして広がる
それの繰り返しの途中に
僕等は住んでいるだけである




