97 なつかしいあまみ
私事で申し訳ないのですが、大事な家族が天に召されましたので、数日更新をお休みさせていただきます。
あまり間をおかずに更新したいと思います。
これからもよろしくお願いします。
「じゃあ、まず金時豆を煮た煮豆から」
ガラスの器に盛られた金時豆はふっくらと煮あがり、砂糖でツヤが出ていた。
みんなで『いただきます』をして、パクリ。
ああ。懐かしい。金時豆にお砂糖の甘みが溶け込んだほっとする甘さだ。
日本人の味覚を持つ私にはたまらない。
時折すこし煮崩れた豆のとろっとした部分がたまらなく美味しい。
「美味しいわ!」
「本当だ。これは『菓子』だな。―――逆になぜ今まで砂糖を入れて煮てみなかったのか」
「豆は『食事』で、スープとサラダに入れることしか考えてなかったですからね」
ツリービーンズ親子は豆の新しい食べ方を発見して驚いていた。
「ふむ。なかなか美味い。豆の溶けたところがいい感じだな」
「今までにないデザートね。甘くてとっても美味しいわ~」
ディークひいおじい様とマリアおば様にも好評だ。
「こっちの小豆は、小さいからほとんど形がなくなったけど、それが良い感じだな。すごく美味い」
「ええ。小豆の甘煮もとっても美味しいわね」
ほとんど形がない小豆も、『渋みが抜けて美味い!』とツリービーンズ親子が驚いていた。
「豆はデザートになるのだな」
「試しに器に入れて売ろうかしら」
「いいね。甘煮を販売して、あと、素材の乾燥豆も陳列して別売りしたらどうかな。いろんな豆を知ってもらって、需要が少ないとら豆やうずら豆も売れるかも知れません」
あれ? とら豆やうずら豆あんまり人気ないの? 美味しいのに。
「いろんなまめのあまに。ぱうんどけーきにいれるとおいちい」
「そうね!! やってみるわ!」
「いいな、それ! 豆が産地のツリービーンズ菓子店ならではの商品になるな。明日さっそくやってみよう!」
乾燥豆を水戻ししなければならないので、すぐには出来ない。
後日完成したパウンドケーキをご馳走してくれると約束してくれた。楽しみだ!
「この小豆も美味しいな」
「つきたてのおもちにちゅけてたべるとおいちい」
「そうなのね! 次にお餅をついたら試してみるわ」
「じゃあ、そのうち家でも餅つきをするか」
ディークひいおじい様がそう提案した。
「そうですわね。お餅はすぐに固くなってしまいますから」
「余ったらバター餅にすればいいしな」
どうやら、バーティア家でも餡子を作ることになりそうだ。
「この小豆融通してくれるか?」
「もちろんですよ。バーティア先生」
そして、小豆と言えば。私の中で外せないメニューがある。
「めいやおばしゃま。ぱんとばたーほちいでしゅ」
「うん? お腹空いたの?」
メイヤさんが首を傾げた。
「いや、この小豆の違う食べ方があるんだよな? アーシェ」
リンクさんが補足してくれる。ありがたい。
「あい!」
用意してくれたのはコッペパンのような細長いパン。
物が挟めるように真ん中にスリットが入っている。
うん、これなら入れやすい。
「かあしゃま。ほちがきにいれるみたいに、ばたーきってほちい」
「ええ。わかったわ。それをパンに挟むのね?」
「あい。にたあずきも、いっちょにはしゃむ」
パンに甘いあんこと、バター。
前世でよく食べた、あんことバターをサンドしたパンだ。
あんパンを買って、家でバターをたっぷり付けて食べるくらい好きだった食べ方だ。
もれなくお腹まわりがあやしくなる食べ方だけど。
それにこの国には乳製品がたくさんあり、バターやヨーグルト、チーズなどは安価なのだ。
「そうか! 小豆も干し柿も甘い。それなら塩気とコクのあるバターと一緒にすれば絶対に美味いな!」
リンクさんは干し柿のバターサンドが大好物だ。
甘いものとバターの黄金タッグ。その美味しさの想像がついたようで、にんまりと笑った。
「干し柿って何??」
「柿ってそのまま食べるんじゃないの?」
ふむ。まだまだ干し柿は浸透していないようだ。
確かに、干し柿はまだバーティア領とカレン神官長の実家周辺でしか作られていないからね。
リンクさんが干し柿のくだりを説明している間に、ローズ母様がみんなの分もあんバターパンを作り、半分にカットしていく。パンは5個。半分にカットしてみんなが食べれるようにした。
もちろん、見習い職人さんたちの分も取っておく。
「いただきましゅ」
はむ。―――ああ。やっぱり美味しい。
最初に粒あんの甘さがきて、甘さの中にバターのコクと塩気が舌の上で絶妙に混じり合う。
「「「うわ! 美味い!!」」」
マークシスさんや、マルクスさん。そして、味の想像がついていたはずのリンクさんが声を揃えた。
「小豆の甘さに、バターの旨味と塩気が口の中で絶妙に絡み合うわ! とっても美味しいわ!!」
「甘いものとバターって相性がいいんだな。今までパンに塗るか、食材として中に練り込むことしかしてこなかったが」
「バターをこんなに厚く切ったのを直接食べたのは初めてですが、小豆の甘さに絶妙にマッチしていますね。すっごく美味しいです!」
「「ほんとうに美味しいわね」」
マリアおば様とローズ母様も好きな味なようだ。
「うむ。これはいいな」
ディークひいおじい様は甘いあんこが大丈夫そうだ。
甘いものが苦手だとこれはちょっと甘すぎるだろうから。
「柿もバターと一緒にしたら美味かったからな。これもバターを一緒にするとなかなかに旨い」
「この食べ方いいな!」
「甘くて、しょっぱくて絶妙だわ!」
「小豆がこんなにスイーツになるとは意外でした」
菓子職人に太鼓判を押してもらえた。よかった。
うむ。甘煮をずっと食べていて口がすっかり甘くなってしまった。
よし。口直しにあれを作ろう。ちょっとさっぱりするだろう。
「よーぐるとくだしゃい」
「はーい!」
メイヤさんは素直に冷蔵庫からヨーグルトを持ってきてくれた。
大きな容器に入ったヨーグルトを小さな器に入れてもらい、粒あんを添える。
粒あんをかき混ぜずに、ヨーグルトと一緒に粒あんを掬って食べる。
これは私が大好きな食べ方だ。
無糖のヨーグルトの酸味と、あんこの甘みととろっと感が絶妙なのだ。
「おいちい」
うん。久しぶりのベストマッチ感。本当に美味しい。
「ホントだ。美味い」
「へええ。これはいいな。ヨーグルトのスッキリ感と、コクのある甘煮がすごく合う」
「これは金時豆の甘煮より、小豆の甘煮の方が合うな」
おや、マークシスさん。すでに両方試したみたいだ。
私はあんこをヨーグルトにいれるのが好きなのだ。
一見ミスマッチのように思えるけど、びっくりするくらいハマる食べ方なのだ。
ただ、ぐるぐるかき混ぜてしまうとあんこの美味しさが感じられなくなるので、かき混ぜないのが美味しく食べられるコツだ。
「ほんとうに全部美味しいわ!」
「今までずっと豆を食べてきたのにな。初めて食べるものばかりだったな」
「明日パウンドケーキ試してみますね!」
「豆のスイーツをいろいろ打ち出してみます。他の菓子店とも違う特色が出せるだろうし」
「まずはパウンドケーキを明日作ってみますね」
うん、菓子職人さんならすぐにいろいろやれるだろう。
それに、パンじゃなくてもさっきのあんバターを再現できる方法がある。
こっちの方が菓子店に合うかも。
「ちっちゃくて、あんまりあまくないぱんけーきふたちゅに、ばたーとあじゅきのあまに、はしゃむ」
そう、これはバターが入ったどら焼きだ。
「それはいいわね! パンを仕入れなくても済むわ」
「あじゅきのあまにだけでもいい」
「それぞれお客様にも好みがあるからな。よし、二種類作ろう。バター入りと、バター無し」
「しょれと。ぱんけーきのころもに、あずきのあまにをいれて、あげるとおいちい」
「よし! 作ろう!!」
瞳を輝かせて立ち上がったのは、店主のマークシスさんだ。
あれ? すっくと立ったけど、腰は大丈夫?
お読みいただきありがとうございます。




