91 しあわせのあかいメッセージ
誤字脱字報告ありがとうございます。
これからもよろしくお願いします!
せっかくトマトケチャップを作ったので、それをたっぷり使う料理にしよう。
玉ねぎをみじん切りにし、ベーコンと一緒に炒め、そこに残ったご飯をいれ、塩コショウ、ケチャップを入れてケチャップライスを作る。
料理人さん達は、フライパンにご飯を入れる時や、ケチャップを入れる時も、一瞬ためらっていた。
この国でご飯を食べるようになったのは、昨年の秋バーティア領で米を作ってからだ。
つまり、まだ4ヶ月程しか経っていない。
なのでご飯料理のレパートリーはほとんど無いに等しい。
具材にご飯を入れて炒めるのも、そこにケチャップを入れるのも初めてなのだ。
なんとなく腰が引けている料理人さん達。
ご飯ものって結構レパートリーあるんだよ?
チャーハンとかどんぶりものとか、数えだしたらきりがない。
―――いつか別のものも作ってみよう。
でも今は、せっかくトマトケチャップが出来たのだから、オムライスが食べたい!!
それに美味しかったら料理人さん達もこれからも作ってくれるよね。
なにしろ、私はまだまだ身体が小さいので、フライパンを駆使するには体力が足りないのだ。
誕生日プレゼントにもらった魔法付与されたフライパンは小さめなので、オムレツは作れるけど、大量のケチャップライスは作れない。なので、量の多い料理は料理人さん達に作ってもらうに限る。
そう思いながら出来上がったケチャップライスを小さい楕円形のお皿に詰め、別の平皿をかぶせてひっくり返す。そうすると簡単に綺麗な形が出来上がった。
そして綺麗な形に成形されたケチャップライスの上に、とろっとろに作ってもらったオムレツを上にのせた。
―――昔懐かしい、オムライスの完成だ!
私はケチャップライスを卵で包むより、とろとろな卵と一緒に食べるのが好きなのだ。
ひとつ盛り付けの例を見せると、さすがは料理のプロたち。
数分後には人数分が用意されて、使用人用の食堂に全て並べられた。
「んーと。かじゃりちゅけしゅるから、ちょっとまって」
「「「かざりつけ?」」」
みんなが首を傾げた。
―――オムライスといえば、絶対にこれをやらなくては始まらない。
ケチャップライスの上の乗せられたオムレツにナイフで一筋切込みを入れると、オムレツが真ん中から割れて、トロトロした卵がふわりとケチャップライスを覆った。
うん。オムレツは完璧な仕上がりだ。さすがプロ。
「まあ。卵があざやかで美味しそうね!」
マリアおば様が感動の声を上げた。
そういえばオムレツは今までフォークで食べられる固さのもので、こんなに柔らかいのはなかったかもしれない。
マルト料理長がオムレツにもっと火を通そうとしたのを、念を押して柔らかく仕上げてもらったのは、ケチャップライスがとろとろの卵のドレスを着るようにしたかったからだ。
そして、黄色いドレスのような卵の上に、鮮やかな赤いケチャップで、ディークひいおじい様の名前の頭文字を描いた。
ここにはやわらかい素材のケチャップボトルはないので、スプーンを使って。
やっぱりちょっと難しかったけど。
「ひいおじいしゃま。あい、どうじょ」
一番最初は、ディークひいおじい様に。
「―――これは、私のイニシャルか……」
トマトケチャップで描いたイニシャルはちょっと歪だったけど、ディークひいおじい様は目を細めて柔らかく微笑んだ。
「ありがとう。嬉しいものだな」
オムライスにはトマトケチャップで名前かメッセージを描きいれる。
これが前世での私の定番だった。
家族分作る時には、名前を描いて。
食が細くなった家族にはたくさん食べて欲しくて、『元気!』とメッセージを描いたことを思い出した。
オムライスは家族のコミュニケーションツールだった。
次は大好きなローズ母様に。
「確かにこれは嬉しいですわね。ありがとうアーシェ」
そしてもちろん、マリアおば様やリンクさんにも。
「うふふ。本当ね、これは嬉しいわね」
「ああ。まるでプレゼントをもらった気分だな」
こんな簡単なことだけど、みんな笑顔になる。
そして、料理人さん達のオムライスは大きめの皿でみんなで食べてもらうことになっていたので。大きくハートマークを。
「「「「「ありがとうございます」」」」」
嬉しそうにみんなの瞳が細まった。
では冷めないうちにいただきましょう!
いつものお約束で『いただきます』をみんなで一緒にしてから、パクリ。
「おいちい!」
想像した通りのオムライスだ!!
懐かしい~~!
「うわ、美味い!」
リンクさんの簡潔な感想に、ディークひいおじい様が頷く。
「うむ。本当に旨い。とろとろの卵とトマト色のライスの組み合わせは抜群だ」
「ほんとうに美味しいわ……」
「とろとろの卵と、トマトのライスとの相性が抜群ね」
ローズ母様もマリアおば様も、オムライスを気に入ってくれたようだ。
「このトマトソース本当に美味いな! 煮詰めた分旨味が凝縮してる!」
リンクさんがトマトケチャップを追いがけすると。
「デイン家にもレシピを貰いましょう。もちろん、今日のお料理全部よ」
マリアおば様も同様にトマトケチャップを追いがけしつつ、そう言った。
トマトソースのレシピと言っても大したことはしてないけど。
完成したトマトソースに調味料足して煮詰めただけだよ?
「「これ、美味しいです!!」」
料理人さん達はひとつの皿を皆でつついていたので、我先にと、スプーンを口に運んでいた。
なんだか必死で、一口でも多く食べたいという気持ちが見えて、ちょっと可笑しい。
「「「「「美味しかったです!!」」」」」
お皿の上のオムライスがきれいに無くなってから、みんなで声を揃えて言った。息ピッタリだよね。
「うわあぁ。もっと食べたい~」
「とろとろした卵がトマトソースのライスと絡み合って絶品だった」
「トマトソースを煮詰めるとこんなに美味しくなるんだな~」
料理人さんたちは、トマトケチャップが入った器を持って、感心して見ていた。
ちなみに、『トマトケチャップ』という名前はすんなりと受け入れられた。
『ケチャップ』とは『魚介やキノコ、野菜を材料にした調味料』という意味を持つので、トマトを材料にした調味料として認識されたみたいだ。
そして、『レシピを貰いたい』と言ったマリアおば様の言葉にマルト料理長がにこやかに応えた。
「もちろんでございます。実は、デイン家別邸のクラン料理長からいただいたレシピの『調味料の適量事件』がありましたので、レシピは最初から書き留めておりました。だいたいの調味料の量もきちんと書き入れております」
あれ? いつの間に。
というか、バーティア家別邸でも、デイン家のクラン料理長のレシピには首を傾げたらしい。
リンクさんもマリアおば様も、デイン家本邸でクラン料理長が本邸の料理人さん達に小言を言われていたことを知っていたらしい。
『確かに』と笑っていた。
『オムライス』という料理名についても、すんなりと受け入れられた。
実はこれも、王宮で見た絵本に描かれていたので、それを言うとローズ母様が説明を補足してくれた。
「赤い食べ物に、オムレツが乗っていたの。オムライスと言うのよね。描かれていた赤い食べ物はケチャップライスだったのね」
それを聞いて。
『卵料理のオムレツとトマトケチャップを使ったライスの組み合わせなんだな』と、すんなりと納得してくれた。
あの絵本に載っていた昔懐かしい食べ物はまだまだあるけれど、またいつか作ろうと思う。
―――あの絵本は本当に郷愁を誘う。
ところどころに昔ながらの日本の風景が描かれていたのだ。
日本人なら誰でも知っている富士山。
大好きだった桜の花。他にもいろいろ。
思わず涙が出そうになった。
絵本の最後のページに書かれている作者の名前が、その国では有名な人で本名だというから、転生者なのだろうと想像がついた。
作者に会ってみたいけれど、絵本自体が100年以上前のものなので、おそらくその人はもうすでに転生の輪に戻っているだろう。
そんなことを思っていたら。
―――ふと、料理人さんの一人が厨房に戻って行くのが見えた。
そうだった! もうひとつお願いしていたものがあったのだった。
お読みいただきありがとうございます。




