90 えほんがおしえてくれました
誤字脱字報告ありがとうございます!
驚くような間違いもあって、本当に助かっています。
これからもよろしくお願いします。
『お手伝いします!!』と目をキラキラさせている。
―――どうやらサンドイッチを作っていたことも完全に頭から無くなってしまったらしい。
―――仕方ない。
サンドイッチを作っていたはずの料理人さんに、大鍋に入っていた作り置きのトマトソースを鍋に半分いれてもらった。
味見をさせてもらったら、にんにくや玉ねぎ、スパイスなども入っていて十分美味しい。
これなら美味しく出来るだろう。
トマトソースに砂糖を足して、弱めの中火で煮詰めてもらうことにした。
―――トマトソースを煮詰めて作ろうとしているのは、トマトケチャップだ。
最初から作るとものすごく手間がかかるけど、トマトソースの作り置きがあるのを見て、これなら簡単に出来ると、思いついたのだ。
だから、今日これから作るものはトマトケチャップの美味しさを堪能出来るものにする。
そしてそれとは別だけど、ファイランさんにパンケーキの用意をしてもらう。
もちろん、パンケーキも食べたいのだ。
それと同じ材料で、もうひとつ用意してもらった。こちらは水分を半分にしたものだ。
パンケーキの材料と油といったら、前世で大好きだったものが作れる。
そこで、なんか作りたそうにしていたリンクさんにやってもらうことにした。
「アーシェ。なに作るんだ?」
「あれ(パンケーキの材料)、おいるであげると、おいちいの」
「よし。わかった」
さっき、初めて食べた揚げ料理が美味しかったので、リンクさんの瞳が期待でキラキラした。
料理長のマルトさんにソーセージを持ってきてもらって、ソーセージに木の串を刺してもらった。
竹串みたいに細いので、2本。1本より安定して持てるだろう。
全部で10本。もちろん、今後作るであろう料理人さん達の分もだ。
長いグラスにパンケーキの材料を混ぜ合わせたタネを入れて、そこにソーセージをつけ、衣をたっぷり纏わせる。
「これを揚げるんだな?」
「あい。おいるあちゅいから、きをちゅけて」
「ああ。わかった」
リンクさんが木の串部分を持って熱い油の中に投入すると、ジュワーっといい音が辺りに広がった。
やがて衣がベーキングパウダーの力で膨らんで、楕円形に近い、懐かしい形になっていく。
―――そう。これは私が前世で大好きだったアメリカンドッグだ。
屋台やコンビニ、スーパーの総菜コーナーにあると必ず買ったものだ。
ちょっと甘い衣と、ソーセージの塩味と旨味のコントラストが素晴らしい。
そこに、トマトケチャップをたっぷりつけるのが私のお気に入りの食べ方だ。
それに少し大き目のソーセージだったので、食べ応えも十分だろう。
「はああ。面白い料理ですね~~」
マルト料理長はリンクさんの隣に陣取り、きつね色にこんがりと揚がっていくアメリカンドッグに感心しきりだ。
「ソーセージは焼くかボイルするかしかやったことはなかったのですが、こんな使い方もあったのですね」
「これはなんて料理なんだ?」
「あめりかんどっぐ!」
「そんな名前なのか?」
「おうきゅうの、としょかんのえほんでみた!!」
そう。私は倒れてから二日ほどは王宮にいた。
そして昨日、王宮で朝ごはんを食べた後、デイン家に戻ったのだ。
意識を飛ばして倒れてしまった、私の体調を心配したアーネストおじい様やレイチェルおばあ様の勧めがあって、もう一泊して来たためだ。
レイチェルおばあ様が、私の為に図書館からたくさん絵本を借りて来てくれて、その中にアメリカンドッグの話が載った絵本があった。
王宮の図書館は膨大な蔵書量で、この国でこれまで発行された本はジャンルを問わず、全部といっていい程保管されているそうだ。
また、他の国で発行されたものもたくさん蔵書に加えられているとのこと。
―――私はこの国の文字や久遠大陸の文字は読めるけど、その他の言語はまだまだだ。
レイチェルおばあ様は本が大好きで、本を読むためにいろいろな言語を覚えたのだそうだ。
素直にすごい人だと思う。
アーネストおじい様も、クリステーア公爵家が外交に携わる家なので、小さい頃からいろんな言語を教え込まれたのだそうだ。
『せっかく王宮に来たのだから』と、ふたりでこの国で出回っていない絵本をたくさん読み聞かせしてくれた。
その中に、可愛い絵本があったのだ。
―――直感で『日本の感覚がある』と思った。
その本は別の大陸の絵本だったけど、私のように転生して前世の記憶を持った人が描いたのだろうと思わずにいられない内容だった。
その古い絵本は、100年以上前に作られたという。
可愛いぞうさんがいろんな場所に行って、いろいろな食べ物を探して歩く話だった。
その中には、懐かしい食べ物がたくさん描かれていた。
その中のひとつがこれ。アメリカンドッグだったのだ。
「まあ。あの絵本に出ていたものなのね」
ローズ母様も一緒に読んでいたので覚えている。
「ソーセージを甘い衣で包んだもの、だったわよね。確かに、茶色くて棒が刺さっていたわね」
「ということは、他の国の料理なんですね」
「見たことのない文字だったから、たぶんとても遠い大陸の絵本なのだと思うわ」
ローズ母様も、外交官の夫と行動を共にする可能性があるので、何カ国もの言語を勉強していたとのことだ。
その母様が近隣の国の言語で見たことがないと言うので、遠い大陸のものなのだろう。
「名前の由来は分かりませんが、これはアメリカンドッグという食べ物なのですね」
マルト料理長が言うと、ファイランさんが。
「小麦粉のことをメリケン粉という国もあるそうですよ。それにホットドッグに心なしか形が似ていますよね」
「確かに。そのふたつを足してみれば、なんとなく想像がつくな」
マルト料理長もファイランさんも、なんだか自分たちなりに想像して納得してくれたみたいだ。
確かに日本人はアメリカ産の小麦粉を『メリケン粉』といっていた時代がある。昔の日本人が聞き間違えて『アメリカ(ケ)ン』から『ア』を抜いてしまったからだと聞いたことがある。
それにホットドッグもこっちの世界にあるのだ。ソーセージが胴の長い『犬』のようだという名前の由来もよく似ていた。
まあ単純に日本人がアメリカで食べられていたコーンドッグを真似て作って、アメリカンドッグってつけただけなんだけど。
絵本のおかげで、すんなりと皆納得してくれてよかった。
一から説明しろと言われても難しいのだ。
「アーシェラ様。こっちのトマトソースが煮詰まりましたよ」
と、料理人さんが呼んだので見てみると、煮詰まって元の半量くらいになっていた。
味見をしてみると、ちゃんとトマトケチャップになっていた。
「かんしぇい。ありがと」
「いいえ。でも、こんなに味を濃くしてどうするんですか?」
うふふ。それはね。
「あとのおたのちみでしゅ」
にっこり笑ってごまかす。やっぱりみんなで一緒にびっくりしてもらいたい。
「…………かわいい」
つぶやきが聞こえてるよ。ありがとう。
ちょうどいいタイミングでトマトケチャップが出来上がったので、みんなで食べよう。
ケチャップとマスタードを皿に用意して、揚がったアメリカンドッグを大皿に盛って厨房隣の使用人用の食堂に移動。
パンケーキの衣に含まれている砂糖が揚げられたことで、甘くて良いかおりが厨房と食堂にただよっていた。
「すごい、いい匂いがするわ」
マリアおば様が目を瞑ってあまい香りを感じている。
「ええ。あまい香りね」
ローズ母様も頷いている。
「とまとそーすちゅけて。あと、ますたーどすきなぶんちゅけてたべりゅ」
「「わかった」」
皿にアメリカンドッグを一本取り、トマトケチャップをかけて少しスプーンでのばし、マスタードをほんのちょっとつけた。
その私の行動を真似てみんなでトマトケチャップとマスタードをつける。
みんな準備は出来たね? では。
「いただきましゅ」
「「「「いただきます」」」」
続いて料理人さん達も。
「「「「「いただきます」」」」」
ケチャップがついたアメリカンドッグを一口。
サクッとした食感。
―――ああ。懐かしい味だ。甘くて美味しい。
二口目でソーセージに到達。
「「「美味しい!!」」」
「なんだ、これ! うっま!!」
二口目でソーセージに到達した私よりも、一口でソーセージに到達した大人たちが、私よりも早く歓声を上げた。
「サクサクして美味しい!!」
「この衣がほんのり甘くて、ソーセージの塩味と旨味がすっごく合ってます!!」
「このトマトソースが、すっごく合いますね!! 煮詰めて凝縮させた意味が分かりました!!」
「たしかに。普通のトマトソースじゃ合わないな。味も薄いし、垂れるし」
「美味い~! アメリカンドッグも、トマトソースも美味い~~」
「マスタードもいいアクセントですね!!」
「「「絶品です!!!」」」
どうやら全員に受け入れられたみたいだ。
ふふ。アメリカンドッグは私の好物なのだ。美味しいよね。
「揚げ物って美味いんだな。今まで知らなくて損をした気分だ」
「本当ね。サクサク、熱々でとっても美味しいわ」
リンクさんもマリアおば様も満足そうだ。
ローズ母様もディークひいおじい様もニコニコしているので美味しかったのだろう。
「アーシェラ様。次は何をお作りになられるんですか?」
すでにマルト料理長をはじめ、料理人さん達が立ち上がってスタンバイしている。
料理人さんたちは新しい料理に貪欲だよね。
―――ならば遠慮なくみんなに手伝ってもらおう。
お読みいただきありがとうございます。




