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89 もちはもちでもいものもち

本日二話目です。

よろしくお願いします。



「餅ってもち米じゃなきゃ作れないんじゃなかったか?」

 リンクさんが餅を作る時の説明書を思い出しながら言う。


 たしかに『餅』はもち米でなくては作れない。

 前世では、稲作の生産技術が発展していない時代に餅をつくる際、もち米の代わりに、じゃがいもやかぼちゃを使ったのが、いも餅やかぼちゃ餅の由来らしい。

 たしかに『いも餅』の食感はどこか『餅』に似ているのだ。

 でもそれをうまく説明できないので、簡潔に。


「んーと。もちごめとちがうけど。もちもちちた、おいものもちににゃる」

「へえ。これも餅みたいになるのか」

 リンクさんは私の言うことを疑わずに納得している。母様も同様だ。

「そうなのね。それでこれをどうするの?」

「ふらいぱんで、たっぷりのおいるでやく」

「たっぷり?」

 ローズ母様が首を傾げた。

 オイルをたっぷり使う料理は作ったことがないのだ。

「おいものもちがかくれるくらい」

「まあ、ずいぶん多いのね」

「かくれると、かりかりちておいちい」


 実は、いままで、この世界で揚げ物をまだ食べたことがない。

 もしかしたら揚げるという調理法がないのかな?

 揚げ物、美味しいのに。

 ローズ母様はフライパンにオイルを数センチ入れて、適度に温まったところに、成形したいも餅を入れた。

 ジュワー、パチパチという音に料理人さん達が『何の音ですか?』と集まってきた。

 コンロの周りはすずなりである。

 ちなみにディークひいおじい様とマリアおば様は少し離れたところで私たちを見守っていたが、やっぱり、揚げ物の音に引き寄せられて近くに寄ってきて、フライパンを覗き込んできた。


「まあ、おいしそうな焼き色が全体についたわ」

 ローズ母様が何回かひっくり返して、きれいに揚がったいも餅をザルのうえにあげていく。

 ザルの上にいももちを置いて油を少しだけ切り、皿に盛り付けた。

 衣がついていないのでそれほど油っこくはないはずだ。


「いももち。かんしぇい!」

「おー。旨そうなのが出来たな。どれ温かいうちに食べてみような」

 リンクさんがそう言って熱々のいも餅を、さっそく5枚の小皿に取り分けた。


 とりあえず、昼食をとっていないディークひいおじい様、私、ローズ母様、リンクさんとマリアおば様の5人で一つずつ食べる。

 みんな立ったままだけど、他に作るものがあるので行儀は悪いが試食だと思って許して欲しい。

 私は厨房のテーブルの椅子に座ってはいるが。


「こんがり焼き色がついて美味しそうだな」

 ディークひいおじい様が小皿にのったいも餅を見て言うと、マリアおば様が本当に、と頷いていた。

「こんなお料理初めてだわ」


「たっぷりの油に入れて調理するなんて初めて見ました」

 料理人さん達がそう言ってみんなで頷いている。

 やっぱりそうなんだ。揚げ物って美味しいんだよ。

 油で揚げるだけで食材が美味しくなる。


「大陸ではたっぷりの油で調理することを『揚げる』といい、完成したものを『揚げ物』というそうですよ。以前聞いたことがあります」

 と、別邸の料理長のマルトさんがそう言った。

 大陸とは久遠大陸のことだろう。

 やっぱり久遠大陸は日本料理と同じものがあるんだ。


「そうなのね。じゃあ、これは調理法で言ったら『揚げた』いも餅なのね」

 ローズ母様が納得する。


 みんなが揚げ物に納得したところで。さあ、食べよう。

「いただきましゅ」


「「「「いただきます」」」」


 みんなより一足先に、ぱくり。


 油で揚げたいも餅は、そとがさっくりとした食感で、中はほくほくもっちり。

 ジャガイモの旨味、味噌汁のコク、インゲンやニンジンも一緒に潰してあるのでそのうまみも入って、とっても美味しいのだ。


「おいちい!」

 記憶にあった味だ。文句なく美味しい。


 本来のいも餅は、ジャガイモの皮を剥き、湯がいてから作るけど、いちからいも餅の為に作るのでは、工程が多くて、はっきり言って手間がかかる。


 前世の我が家では、農家の親戚から、規格外のジャガイモを何箱も大量に貰って食べていた。

 シンプルにジャガイモを塩ゆでしてバターをつけて食べたり、ポテトサラダを大量に作ったりと、とにかくジャガイモ消費の為に大量に調理していた。

 なのでジャガイモの味噌汁を作ると必ずと言っていいほど、ジャガイモだけが残ってしまうのだ。(なぜ学習しないのだと自分ツッコミ……)


 でもある時閃いて、味噌汁の味のついた残り物のジャガイモを使っていも餅を作ってみたら、とっても美味しかったのだ。

 しかも、味噌のコクと美味しい出汁、そして少しだけ足した砂糖の甘さが入っているため、みたらしなどのタレを別に作る必要もない。

 簡単で美味しいのだ。これは本当におすすめだ。


「「「「―――美味しい!!」」」」

 ディークひいおじい様とローズ母様、リンクさんやマリアおば様の声が重なった。



「なんだこれ。外側カリッとして、中はモチモチして美味い。確かにもち米じゃないけど、餅に少し似たところがあるな」

 リンクさんはいも餅が気に入ったようだ。あっという間に食べきった。

「あつあつでとっても美味しいわ。しっかり味がついていてこのまま食べられるのね」

 マリアおば様も好きな味のようだ。

「ああ。本当に旨い。じゃがいもの味もするし、食感もいいな」

「片栗粉をいれると中がモチモチになるのね。それに外側がカリッとしててとても美味しいわ」

 そう。カリッ、サク、モチッとする食感は、食感自体が美味しさのひとつだ。

 どれもあまりこっちの世界の料理で食べたことのない食感だ。

 食感も美味しさを引き立てる立派な立役者なのだ。


 カリッとしてモチッとするいも餅は、食感も楽しく、味も美味しかった。満足だ。


 ―――料理人さん達の視線が痛い。

 美味しいと言って食べる姿を見ていたら、誰でも食べたくなるよね。

 ここにいる料理人さん達は5人。

 いも餅はちょうど5個残っているので分けてあげよう。


「りょうりにんしゃんたちも、どうじょ」

「「「「「ありがとうございます!!!」」」」」

 待ってました! とばかりに一斉にフォークが皿に伸びる。

 いつの間にフォークをスタンバイしてたのかな? 君たちは。


「「「「「ほんとに、おいしいですっっっ!!!」」」」」

 みんな、食べるタイミングも、感想のタイミングも同じだった。面白い。


「こんな食べ方があったなんて! 感動です!!」

 マルト料理長が目を瞑って堪能している。

「うまい~~!! 何個も食べたい!」

「ジャガイモあまりすきじゃなかったけど、この食べ方ならいける!!」

「揚げるっていいな! 美味い!!」

「これからジャガイモが残ったらこれを作ろう!」


 うん。でも、これ残り物料理だから。本来は違うんだよ。

「ふつうにじゃがいもゆでて、ちゅくってもおいちい」

 かぼちゃでも美味しいよ、と言うと。

「いろいろ試してみます!!」

 とのことだ。今度王道のいも餅もやってみよう。


 さて、まだまだお腹が満たされないので、次に移ろう。


 次に私がなにを作るか興味津々なのだろう。みんな私たちの周りにいる。


 ……ねえ。サンドイッチ作っていたはずの料理人さん。なんでここにいるの?


 ここにいたらサンドイッチはいつまでも出来上がらないよね?





お読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 本来は長い期間の試行錯誤を繰り返して生まれる筈の「画期的な新メニュー」 それをわずか四歳の幼児が次々に発明してしまう異常事態は、もうさすがに「天才だから」では済まなくなって来たね。 色々…
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