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79 断ち切られた鎖

少し長くなったので二つに分けました。本日もう一話更新します。


アーネストおじい様視点です。



 あの日、王宮内での試食会が終了後、仕事を早めに切り上げた私は、3年ぶりにアーシェラに会いに行くため王宮内のクリステーア公爵家の部屋で着替えをしていた。

 その時―――急に、途切れていたアーシュとのつながりが、戻ったのを感じた。


 4年と半年以上途切れたままだったつながり。

 なぜ突然つながりが戻ったか分からなかったが。

 ―――そんなことを考えている場合ではない。


 すぐに目をつむり、意識を集中させて、意識(こころ)を飛ばした。

『アーシュ!!』

 ―――切れていたつながりを再び手繰り寄せるためにアーシュの名を呼んだ。


『父上!?』

 眩暈のような浮遊感が落ち着いた瞬間、私を呼ぶ声がした。

 私を『父上』と呼ぶのは、私のたった一人の息子だけだ。


 閉じていた瞳を開くと、目の前にずっと探し続けていた息子のアーシュが私を驚愕の目で見ていた。


 痩せてくたびれてはいたが、生きて歩いて話すアーシュに会うことが出来た。

 これまで切れたままだったつながりが戻ったあの時の安堵と感動と嬉しさは一生忘れることはないだろう。

 女神様に心の底から感謝をした。


 そして、次に私の視界がとらえたのは。

 鈍色の曇り空を切り裂いて、金色とプラチナの光が降り注いでいる森だった。


 流れ星のように光が降り注ぎ、黒い魔術陣が浮かび上がる。

 その紋様から森全体に敷かれたのは魔力封じの結界であり、森の周辺に張り巡らされたのは死の結界であることがわかった。

 こんなところにアーシュは封じ込まれていたのか。


 そして、その魔術陣は、降り注いでいる光によって効力を失い、ボロボロとなり消えていっている。


 降り注いでいる光は、金色とプラチナ。

 ―――かつて見た、女神様の水晶の光と同じものではないか?


 なにがあったのかアーシュに問うと、『幼い女の子の声がきこえた』という。

 女神様の光と、幼い女の子―――アーシェラだ。

 女の子の言った言葉をアーシュが復唱する。間違いない、私のかわいい孫娘(アーシェラ)だ。



 ―――そして。その後、アーシュを閉じ込めていた結界を作り出した闇の魔術師が、―――二年前の暗殺者として私と対峙した魔術師が、私の目の前で光の矢に貫かれ、(たお)れたのだった。



 ◇◇◇



「今はクルド男爵のもとにいるのだったな。だいぶ顔色もよくなったな」


『ええ。あの森の結界を抜けてからはすごく体調がいいんです』

 アンベールの処刑場の森にはアーシュの他に3人いた。

 処刑場は、アンベール国王が確実に葬りたい人物を放り込むために十数年前に闇の魔術師に与えた場所だということだ。

 アースクリス国侵略戦争を決定したアンベール国王に、反抗した貴族や軍関係者の者が、アーシュの前や後にも実に何百人も処刑場送りとされ―――助かったのは、アーシュを含め、わずか4名だった。


 つまり、アンベール国王に考えを改めてもらおうとした心ある貴族達が大勢処刑されたということだ。


 そして生き残った人の中に軍関係者がいたため、アーシュたちは森の中でサバイバル生活をして生きてきたそうだ。



「まさか、戦争が始まる何年も前から、闇の魔術師がアンベール国に巣くっていたとはな」

 禁術を用いる、命を代償にする魔術は強力だ。

 歪んだ意識を持つ魔術師が、その魔術に魅せられて禁術に手を出す。

 一度人の命を代償にした魔術の強さに魅せられると、狂気に取り憑かれたように次々と禁術を行なう。

 そして命を奪うことに罪悪感を感じることがなくなる。

 

『絶望して自殺しようと結界に触れるのを喜んで見ているような最低の奴です。―――裁かれてよかったです』

 闇の魔術師は、あの時、禁忌に触れた。

 ゆえに光の矢に貫かれたのだ。


「あの森に関してはアーシェラの祈りに応えた。ということだろうな。女神様は加護を与えた者を通して世界に干渉する―――それに、あの魔術師は禁忌に触れたからな。直接裁かれたのだろう」


 あの後、アーシェラに会った時。

 女神様に何と願ったのか改めて聞いてみたところ、無事を祈り、病気やけがをしているなら治りますように。と祈ったのだと、幼くたどたどしい言葉で教えてくれた。

 


 ―――そして。



『―――無事でいても未だ囚われているなら。


 どうかその鎖を断ち切ってほしいです』



 ―――アーシェラの、この祈りこそが、女神様に聞き届けられた。



 『鎖』とは魔術陣であり、結界であり、そしてそれを作り出した魔術師を指す。


 それを『断ち切った』のだ。


 



『父上、母上。―――先ほどの話ですが、アーシェラは嫁には出しませんよ!』

 そう言うアーシュの顔は真剣だった。

 まだ直接会ったことはないというのに、すでにアーシェラにメロメロなのだ。


 あの日、アーシェラが生まれたことを知らせると、アーシュは喜びに涙を流した。


 しかし、リヒャルトのせいで複雑な事情になってしまっていることを知ると、アーシェラとローズに申し訳ないと項垂れた。

 自分がそばにいれば危険な目にあわせなかったのに、と。


 そして、時折つながりを持つアーシェラのもとに意識を飛ばして、アーシェラやローズの様子を見ているらしい。

 アーシェラに自分の姿を見られないように細心の注意を払って。

 どこにリヒャルトの間者がいるか分からないのだ。

 アーシェラがアーシュの実子であることが知られれば、リヒャルトはどんな手を使ってでも全力でアーシェラを亡き者にするべく動くだろう。

 リヒャルトは蛇のように執拗なのだ。

 ―――それは私もアーシュも身に染みて分かっていることだ。


 だから、アーシュがアースクリス国に戻り、リヒャルトを排除するまではアーシェラの出自を明かさずにいくということを決めたのだ。


 だから、アーシュはアーシェラが感応して気づかないようにと、こっそりとローズとアーシェラの様子を見ている。


 数か月前、回復したアーシュは初めてアーシェラを見てきた後に私のところに飛んできて、滂沱の涙を流していた。嬉しそうに顔をくしゃくしゃにして。


 アーシェラを見て、父親になった実感が湧いたのだろう。

 その後一本筋が通ったように、アーシュの顔つきが変わった。


 今はアンベール国の有志と共にアンベール王室を内側から瓦解させるべく、そして無事にアースクリス国に戻るために精力的に動いている。


「まあ、立派に父親になったわねえ」

 レイチェルがアーシュの言葉に微笑む。


『まだ一度も抱きしめてもいないのに! あんなにかわいい娘が生まれていたこともずっと知らずにいたんですよ! その分戻ったらずっとそばから離しません!!』


 初めてローズに出会った少年のころから、アーシュはローズ一筋だった。



お読みいただきありがとうございます。

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娘を構いすぎて鬱陶しがられる未来が見える見える(笑)
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