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70 アーシェラのおもい

本日二話目です



 王宮に着くと、すぐに王妃様の部屋に通された。


 王宮にはデイン伯爵とローズ母様、そして私。

 マリアおば様はデイン伯爵家でお留守番。

 リンクさんはクリスウィン公爵家に米の作付けの件で行く予定があったけど、例の件があったので予定を変更して、デイン家の仕事をしに王都の中にあるデイン商会にセルトさんと共に出かけて行った。


 デイン伯爵は王宮に着くと、例の件の為に対策室に出向いて行った。

 なので、王妃様の部屋には私と母様だけ通された。

 人払いがされているらしく、王妃様一人がいた。


「アーシェラ!! ひと月ぶりね。元気だった?」

「あい。おうひしゃま」

 きゅうっと腕に抱かれて、懐かしさを感じていると、遅れてレイチェルおばあ様が入室してきた。

「おばあしゃま!!」

「アーシェラ! 元気そうね」

 手を伸ばすと、やさしく微笑んで抱き上げて抱きしめてくれた。


 ソファーに腰かけると、ローズ母様が王妃様に静かに問いかけた。

「今大変なことになっていると聞いたのですが……」


「そうなの。どうやら甥っ子たちは何かの陰謀に巻き込まれてしまったようなの」

 予想に反して、こともなげにそう返す王妃様に驚いた。

 あれ? 王妃様、甥っ子が誘拐された、悲壮感がないような気がするよ?


「でも、ちゃんと食事はしているし。ちゃんと寝てるみたいだし、ケガもしていないようだし。二人で窓の外を覗いてみたりしてるみたい。―――あの子たち、結構な胆力の持ち主ね」

 んん?? 誘拐されて居場所がつかめていないんじゃなかったの?


「??? フィーネ?」

 母様も私も訳が分からずに、王妃様をただただ見つめた。


「……ああ。ごめんなさいローズ。クリスウィン公爵家は前に『視える』って教えたわよね。この力は遺伝するの。同じ力を持ったもの同士、視ようとすれば相手の状況が視えるのよ」


「お互いの状況が視える……。そうなのね」

 ローズ母様が驚いている。

 私もそういう力の話は聞いたことがなかった。

 魔力の遺伝の話はディークひいおじい様から魔力の基礎の話で聞いていた。

 だけど、王妃様が言ったクリスウィン公爵家のその力は、聞いたことがない。

 どうやら秘匿されている情報のようだ。


「ローズもアーシェラもクリステーア公爵家の人間だから覚えておくといいわ。他の貴族の属性魔法の遺伝とは違うものを、四公爵家は受け継ぐの」

 だからローズにも『視える』と教えたのよ。と王妃様が言った。


 隣でレイチェルおばあ様も頷いている。

「クリステーア公爵家の人間もね。―――時が来たら教えるわね」


 レイチェルおばあ様はそう微笑むけど、私は自分で拾い子だと知っている。

 生後7か月頃に、バーティアのはずれの小神殿で、ローズ母様とローディン叔父様に拾われた子ども。


 だから本当の意味でクリステーア公爵家の人間とは言えない。

 それなのに、当然だというように、レイチェルおばあ様も王妃様もクリステーア公爵家の秘密を、私に言う。


 ―――もしかしたら、だけど。

 『公爵家の血筋』という、赤ちゃんの頃の記憶は、『クリステーア公爵家』なのかもしれない。


 クリステーア公爵家は『深い』緑の瞳を持っている。

 アーネストおじい様もカロリーヌも『深い』緑色の瞳だった。

 私も『薄い緑色』の瞳を持っている。


 四公爵家の直系には、他に緑色の瞳を持つ家はない。

 混血が進んでいるため、他の家でも緑の瞳が生まれても不思議ではないというけれど、どうにも私自身がクリステーア公爵家に心が惹かれている。

 

 私はクリステーア公爵家の分家か末端の貴族の『庶子』

 そう考えたらいろいろと合点がいく。


 『公爵家の血筋』という、赤ちゃんの頃に聞いた言葉。

 一夫一妻制のこの国で、私は不義の子として生まれたのだろう。

 貴族の不義の子だから、放置された。

 不義の子だから、捨てられた。


 それが、クリステーア公爵家の流れをくむ貴族だったとしたら。

 

 それをクリステーア公爵夫妻が知って、私をローズ母様の養い子として受け入れてくれているのかもしれない。


 ずっとずっと、みんなにやさしくしてもらって、家族として受け入れて貰っていたから、血のつながりがないことを気にしていなかった。

 ずっと心の片隅にあったけど、胸を痛めるくらいの悲しみを感じる暇がなかった。


 ―――それくらい、愛情を貰った。

 その愛情を疑うことが出来ないくらい、いっぱい愛情を注いでもらった。

 ローズ母様に。ローディン叔父様に。リンクさんに。


 そして今は、ディークひいおじい様やデイン伯爵家のみんなやクリステーア公爵夫妻にも。おそれおおくも王妃様にも。

 みんなに大事にしてもらっている。そして守って貰っている。


 私はとってもしあわせだ。


 先のことは分からないけれど、精一杯、私もたくさんの気持ちを返そう。

 優しい人たちとずっと一緒にいられるように。

 みんながずっと笑っていられるように。


 私も私の精一杯でみんなを守ろう。


 そう思い、願い、つよく誓った。



 



 ―――少し意識が横道にそれてしまったけれど、意識をもとに戻すと、王妃様が話を続けていた。



 クリスウィン公爵家の特殊なつながりによって、甥っ子たちの今現在の状況は分かっているのだそうだ。


 つまり、王妃様の甥っ子たちは連れ去られ、どこかに軟禁されているものの、ひどい扱いはされていないということだ。


「だから、すぐに軟禁場所は割り出せたの。―――驚いたわ。そこって、王族や上級貴族が使っているホテルなの」

「ええ?! どこかの倉庫とか、地下とかじゃなく?」

 ローズ母様が言ったのは、軟禁場所として真っ先に考えられる場所だ。


「そうなの。奇妙よね。それも小さなお客様をお預かりしていると、ホテルには認識されていたのよ」

 どうやら認識阻害の魔術を使ったらしく、ホテルの従業員は連れてきた人間の顔を覚えていなかったという。


「クリスウィン公爵家の者をホテルの中に入れていつでも救出できるように体制を整えているけれど、犯人をあぶりだして捕まえないといけないから。アルとアレンにはホテルの一室でそのまま頑張ってもらってるのよ」


 ひどい扱いを受けていないことには安心したけど。

 身代金を要求されているわけでもないという。

 高額のホテル代金もすでに支払われているというし。


 ―――犯人の誘拐の目的がまったく分からない。


「目的は何なのでしょう。誘拐して高級ホテルに軟禁なんて……」

「私たちもそこがまだ分からないの。5日経っても犯人側から何のアクションもないのよ。犯人は私たちがすでにあの子たちの居場所を掴んでいるとは知らないはずだから、いずれは動き出すだろうと思っているのだけど」

 私怨ならばすでに彼らの命はないだろう。

 身代金要求? だけど5日経ってもその連絡は来ない。


 他に考えられるのは人身売買? 他国へ引き渡す?

 ―――それならば、必ずホテルの子供たちを連れ出しに来るはずだ。

 そこをおさえればいいのだと、犯人を待ち構えている状況なのだという。


「私の甥たちの居場所は分かっているからいいのだけど、マーシャルブラン侯爵の孫娘と、マリウス侯爵の幼い子息の行方はまだ分からないままなのよ」

 ん? マーシャルブラン侯爵とマリウス侯爵って。


「それってまさか……」

「ええ。今年、米を作付けしようとしている領地の次代を担う子供たちよ」


 私とローズ母様は青くなった。

 クリスウィン公爵家、マーシャルブラン侯爵家、マリウス侯爵家は、今年バーティア領で稲作を支援することになっているところなのだ。

 そこの子息や令嬢が誘拐されたとなれば、その三つのつながりで真っ先にバーティア家が浮かび上がる。

 もちろんバーティア家は誘拐などしていないが、バーティア家に恨みを持つ者がいるのか、それともたまたまなのか。


 なんでその家の子供が狙われた?

 それもバーティア家とかかわりを持とうとしている家ばかりだ。

 一気に誘拐事件が自分たちにかかわってきて、心臓がバクバクしてきた。


「だけど、私たちはバーティア子爵家を疑ってはいないわ。ローディン・バーティア子爵は戦地に行っていて不在だし、ディーク・バーティア元子爵は国の魔術師たちの師ともいえる方。ダリウス前子爵はそのような大それたことはできる方ではないしね。気にしないで」


 王妃様に気にしないで、と言われたけど。―――なんだか気持ち悪い。

 王妃様がそう思っても、そうは思わない人も必ずいるのだ。

 バーティア子爵家に何かあると思われたり疑われるのは心外だ。


 む~。という顔をしていたせいか、王妃様が私の手を握った。


「大丈夫よ、アーシェラ。絶対にみんなを無事に見つけるわ。ね?」

 そう言って、王妃様が私の目を真っすぐに見た。

 私も王妃様の目を見る。―――すると。


「あれ?」

 王妃様の瞳の奥の、女神様の印が光って見えた。

「まあ!」

 王妃様も私の瞳を見て驚いていた。―――瞳の奥が熱い。

 おそらくは私の瞳も王妃様と同じように、女神様の印が光っているのだと感じた。


 目の奥が熱くて、思わず目をぎゅうっとつぶった。

 そして、ふわりとした浮遊感。―――めまい??



「―――アーシェラ。目をあけてごらんなさい」


 王妃様の声に、ゆっくりと目をあけて―――びっくりした。


「ふええぇぇぇっっ!!?」


 驚きすぎて叫んでしまった。



 『王宮で大声を出さない』というマリアおば様の教えなど、吹っ飛んだ。


 ―――だって。


 王妃様のお部屋にいたはずなのに―――私は、外に。


 しかも王城よりさらに高い場所に『浮かんで』いたのだ。






お読みいただきありがとうございます。


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王宮から出ているからセーフ(笑)
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