69 王都でたいへんなことが
本日もう一話更新します。
王都の城下町に行くのは初めてだった。
綺麗に整備された道。
王城を中心として、王城の周りには貴族の別邸が立ち並ぶ区画があり、次に貴族向けのお店が立ち並ぶ区画、そして門を隔てて、平民たちが住む区画と彼らが営む店がある。
区画ごとに門番が配置されており、夜になると通行証を持たない者は貴族街への出入りは難しくなる。
以前行った教会や港町は王都とはいっても城下町から少し離れたところにあり、平民たちが暮らす区画に隣接していた。
王都近くの宿を早くに出て、デイン伯爵家別邸にはお昼前に着いた。
私に付いてくれている護衛のひとたちに王都に行くと告げると、すぐに対応してくれて、翌日にはバーティアの商会の家を出発することができた。
立ち寄る場所、泊まるホテルや通る道などの旅程を共有して、姿が見えなくてもしっかりと護衛をしてくれる。とてもありがたい。
姿を見せない、というところが、まるで古き時代の日本の忍者みたいで、なんだかかっこいい。
デイン家別邸に着くと、ロザリオ・デイン伯爵が出迎えに出てくれて、執事さんやクラン料理長はじめたくさんの人がお出迎えしてくれた。
「よく来たね、アーシェラ。さあ、おいで」
馬車が着いたとたん、デイン伯爵が自ら馬車のドアをあけ、私にさっと手を伸ばした。
うん。さすが親子。ホークさんと同じ行動だ。
「だから、急に手を出したらアーシェが驚くんだって……。父上も兄貴と同じことをするんだな」
リンクさんもあきれ顔だ。
私はホークさんもデイン伯爵のことも大好きだ。もちろん、ローランドおじい様やマリアおば様のことも。
家ごとに気質が似ているのか、バーティア家もデイン家も、王妃様とカレン神官長も、一族ごとに気質が似ている気がするのは気のせいかな?
……まあ、ダリウス前子爵は外れているかもしれないが。
デイン伯爵はリンクさんとホークさんのお父さんで、正義感が強く、そして優しい。
きゅうっと私を抱きしめて『ああ、癒される』と呟くのはリンクさんと同じだ。
―――癒される? それはリンクさんが疲れている時に言う言葉だ。
「おじしゃま。ちゅかれてりゅ? だいじょうぶ?」
抱っこしてもらって、顔を近くで見たら、ちょっと疲れているようにみえた。
マリアおば様も夫の顔色に気が付いて驚いていた。
「まあ、本当だわ。旦那様ちゃんとお休みになっておりますの?」
居間に入ると、ロザリオ・デイン伯爵は疲れたようにソファに沈んだ。
それでも私を膝抱っこしたままだ。頭を撫でる手があったかくて優しくて大好きだ。
お茶が給仕されると私たちだけとなり、セルトさんもデイン家の執事も部屋の外で待機することになった。
「どうやら貴族街で不穏な動きがあるという話でな。要請があって、三日前にデイン領から王都に着いてからずっと調査にあたっているのだ」
「まあ、そうだったのですね。確かに旦那様が別邸にいらっしゃるのは来週とうかがっていたので驚きましたが……何があったかお聞きしてもよろしいですか?」
「そうだな……注意をしてもらう意味でも教えておいた方がよいか。だが、他言無用だぞ」
「心得ておりますわ」
「―――実はな。貴族の子供が数人行方不明になっているのだ」
なんと。不穏すぎる事案ではないか。
リンクさんも目が真剣になった。
「5日間ほどで次々と4人。年齢は5・6歳の子供ばかりだ。お付きの者が目を離した隙に忽然といなくなってしまったとのことだ」
「どこでですか?」
「ひとりは二日前に屋敷の庭、ひとりは三日前に母親と買い物に行った際に。後の二人は五日前に兄弟で。……眠り薬を使ったらしい。御者やお付きの者たちが目が覚めたときには馬車ごといなくなっていたそうだ」
「……最後の方は穏やかじゃないな」
リンクさんが唸った。
「ああ。しかも。その兄弟はクリスウィン公爵の孫なのだ」
「なんですって!? それは大変なことですわ!」
四公爵は国王に次ぐ権力者だ。しかも公爵家はどの家も王家の血が濃く入っているため、ほとんど王族扱いなのだ。
「王妃様の甥御様が行方不明とは」
ローズ母様も息をのんだ。王妃様の甥ということは、国王陛下にとっても義理の甥なのだ。
遠からず血縁関係もある。そんな子供を誘拐するとは。
「―――その他の二人も侯爵家の子供でな。明らかに作為的なものを感じるが、その目的がわからぬ」
次々に有力貴族の子息たちが行方不明になっているので、連続誘拐だと騒然となっているのだそうだ。
同一犯なのか、それとも全くの別の犯行か。
「三件とも、身代金要求があるわけでもない。―――私怨なのか。人身売買という線もある。……もしかすると戦争の火ぶたを切ったことによる、敵国の者による見せしめかもしれんという話もある」
可能性がいくつもあって絞り切れていないということだ。
デイン伯爵は辺境伯だ。
5日前に王宮からのホットラインで緊急だと呼び出されて、辺境伯軍をホークさんに任せて王都に駆け付けたそうだ。
大きな川をデイン伯爵の魔力で全速力で航行し、通常の数分の一の時間で到着したとのことだ。
それからずっと王城にいて捜索に携わっていたとのことだ。
誘拐は一刻を争う。ほとんど休んでいないのだろう。その顔に疲れが色濃く見える。
「国境は閉鎖して監視を厳しくしてはいるが、魔術陣で転移魔法を使われたら面倒だ。魔法省もピリピリしているのだ」
転移魔法を感知するために、至る所に魔術師を配置してずっと気を張っているとのことだ。
「―――ともかく、これから王城にあがることになっている。今日はアーシェラとローズが来るからな。共に王宮に行こうと待っていたのだ」
「「??」」
私とローズ母様は首を傾げた。
そんなバタバタピリピリしているところに行っていいのだろうか。邪魔にならない?
「王妃様をローズと共になぐさめてもらいたいのだ」
そうか! それなら。
「いきましゅ!」
「わかりましたわ」
今回王城にいく予定はなかったが、緊急事態だ。
登城すると聞いて、マリアおば様が明るい声を出した。
「母娘お揃いのドレスを作っておいたのよ~! お着替えしましょうね!」
マリアおば様は私やローズ母様を着飾らせるのが好きなのだ。
そうだった。王城には正装で。ドレスコードがあるのだ。
かわいくて好きだけど、走れない。
そもそもドレスで走ることなどないのだとマリアおば様に教えられたけど、わーって走りたいときもある。
王城や神殿の中の真っすぐな長ーい廊下。百メートル走が何回もできそうだよ。
走ると怒られそうだけど、いつか駆けてみたいものだ。
「アーシェラの瞳と同じ明るい緑色のドレスもいいけれど。お慰めにいくのだから、こっちの落ち着いたブルーがいいかしら。色合いの違ったブルーを重ねているから落ち着きと可愛さが入っていていいわよね。このオレンジも可愛いわね!」
今日のドレスはブルーに決まった。
デイン伯爵にせかされて、私たちに他のドレスを着させることができなかったマリアおば様がとっても残念そうだったので、王宮から帰ってきたら試着することを約束した。
かわいいものを着るのは大好きだ。
帰ってきた時の楽しみができた。
お読みいただきありがとうございます。




