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66 バーティアの結晶石



 バーティア子爵家での誕生会の数日前のこと。


 ローディン叔父様への誕生日プレゼントを何にしよう? とずっと悩んでいた。

 私はいつももらってばかりで、プレゼントを自分から叔父様にあげたことがなかった。

 できたことといえば、ケーキを『あーん』したことくらいだ。

 何が欲しいか聞いても、『アーシェがいてくれるだけでいい』という。

 あう。うれしい。


 大事にされているのは、素直にうれしい。

 だけど、私だって叔父様に何かプレゼントしたい。


 何か形に残るもの。

 『戦地に持って行けるもの』と思ったら、ペンダントしか思いつかなかった。

 邪魔にならないのはそれだけだと思ったからだ。

 商会に来たディークひいおじい様に叔父様に内緒で相談したら、結晶石を加工したものを作ってくれることになった。


 誕生日の数日前、ローディン叔父様とリンクさんが外回りで不在になる日、ディークひいおじい様が商会の家に来た。

 商会の前でふたりを見送った後、ディークひいおじい様と一緒にセルトさんが家の中に入ってきた。

 セルトさんが結晶石が入った箱と、中に入れる守り石やチャームがたくさん入った箱をテーブルの上で開けた。

 結晶石の箱には、様々な形の結晶石が並んでいた。

 丸、楕円、ティアドロップ、四角、頂点がひとつのもの、切り出された形のままのもの。

 他にもいろいろな形のものが並んでいた。

 形は様々だが、磨かれて透明度が高いのが共通している。

 中に入れるものを際立たせる。


 驚いたのは、結晶石に強い力が内包されていることだ。

 アースクリス国で採掘される結晶石は豊富だ。無尽蔵といっていいという。

 灯りや冷蔵庫に入れる結晶石には、魔術と魔力が入ったものがはめ込まれていて、定期的に交換することで、前世での電気のような役目を果たしている。まあ、蓄電池みたいなものと考えてもいいだろう。

 交換する時の結晶石を見ると、色が濃いものが魔力がたっぷり入ったもの。薄くなり透明に近くなると魔力切れらしい。


「これはな。ごくわずかではあるが、バーティア子爵領で採れた結晶石なのだ」

「純度がとても高く、高品質ですね」

「ちゅよい、ちから、ある」

「ああ。アーシェラは魔力が強いから分かるのだな―――そうだ。これはアースクリス国でもなかなか採れない、強い力を内包した希少な結晶石だ」


「結晶石は国中の鉱脈で採れるから、アースクリス国ではさほど高価ではないが、結晶石の鉱脈がない外国では値が跳ね上がる。各領地で採掘され、流通する結晶石は国が管理し、輸出に関しては一切の権限を国が持つのだよ」

「しょうなんだ」

 でも、バーティア子爵領で結晶石を採掘しているところを知らない。

 バーティアの商会では、他の領地で採掘されたものを仕入れて販売している。


「バーティア子爵領では鉱脈があまりに地下深くにありすぎて、簡単には採掘ができないのだよ」

 だから採掘も流通もしていないのだと、ディークひいおじい様が話す。

「だが時折、純度の高く、強い力を内包した結晶石がこうやってもたらされるのだ」

 その純度の高い結晶石がどこで採れるのかは語らなかった。

 おそらく重要機密なのだろう。


 知っているのはバーティアの代々の当主と、王族それも国王だけだという。

 現在結晶石の管理はディークひいおじい様が行っており、ローディン叔父様には結晶石の秘密を子爵位を継いだ時に告げたとのことだ。

 けれど今後遠征に行くこともあり、しばらくの間の実質の管理はディークひいおじい様にお願いしているとのことだ。このことを他に知っているのは信用のおける者少数のみ。


「……前に、アーシュと婚約した時に、アーシュに贈るための結晶石をいただきました」

「ローズの夫への贈り物だ。出し惜しみはせぬよ。それに公爵家の人間ならこの価値も分かるだろうし、秘密も守ってくれるだろう」

 結晶石とお守りを選んでローズ母様が作ったのだそうだ。

 アーシュさんは贈られたペンダントをとても喜んで、ずっと身につけていたのだそうだ。


「……失礼ながら、前子爵様は知らないのですね?」

 セルトさんが確認するように聞いてきた。

「あれには教えておらぬし、鉱脈はあいつには見つけられぬ。知れば、在庫を嬉々として自らの道楽の為に売り払うだろうからな。これの存在を知られてよからぬ者たちがバーティア子爵領を狙ってくるやもしれん。そっちの方が厄介だ。これはないものとしておけ」

「心得ております」

 セルトさんが礼をしつつ、秘密にすることを誓約した。


 『バーティア領の人たちに危険が及ぶかもしれないことは絶対に口外しない』と、私もローズ母様も約束した。


 では、気を取り直して。まず先に結晶石から選ぶことにした。

 結晶石は透明度が高く、上下に頂点があるものにした。

 ネックレスはプラチナで。

 結晶石を入れるものは、プラチナが流線的についているものを選んだ。


「この結晶石の中には小さいものを閉じ込めることが出来る。アーシェラが選ぶといい」

 と言って、守り石やチャームが色々と入った箱を目の前においた。


 結晶石に入れるものは基本的に小さい。

 そして幸運を呼ぶといわれる石や、魔法付与されたものが多い。

 実際に魔法付与されたものを選んだほうがいいとは思っていたけれど、ただ石を入れるより、もう少し手を加えたい。


「これは?」

 魔法付与のチャームの脇にあった金色の紙が気になった。

「これは聖布。特殊な繊維で織られているやつだ」

 紙じゃない? 本当だ。引っ張っても破けない。

 だけど紙のように薄くてきっちりと折り目がつく。

 まるで折り紙のようだ。


 折り紙? ―――そうだ!


 神殿で祈りを込められているという聖なる布は結晶石にどうやって入れるのかと思ったら、丸めて結晶石に入れるのだという。

 確かに、正式に作る前の試し用のものに入れてみたら、それはそれで綺麗だった。

 聖布は好きな大きさにカットできるとのことだったので、まずはそのまま6~7cm四方のものを使う。


 ―――覚えているかな。折り方。


 まずは三角に折って、さらに三角、三角を開いて四角に、ときっちりと角を決めて次々と折り込んでいく。


 聖布を手に急に真剣になった私を見て。

「アーシェ。何してるの?」

 と、ローズ母様やディークひいおじい様、セルトさんが不思議そうに見ている。


「にゃかにいれるの、ちゅくる」


 おう。ちゃんと手が覚えているようだ。

 ただ、まだ幼児の手は細かい作業が容易ではない。

 それでも時間をかけて角を決めて折る。

 それが大事なのだ。

 ―――最後に首の部分を作り、羽部分を広げる。


「これは……鳥ですか」

 セルトさんが私の斜め後ろからじーっと手元を見ていた。

「鳥か」

「鳥よね」


 思い出しながら、なんとか完成させた。

 ―――折り鶴だ。


 平和の象徴にして瑞鳥。

 鶴の声は遠くまで届くので『天上界に通ずる存在』とも言われていた。

 前世では『戦場へ行った家族が無事に帰ってくるように』と願いを込めて鶴を折ったと言われていた。


 だから、『ローディン叔父様が無事に帰ってくるように』と、鶴を聖なる布で折って結晶石の中に入れることにした。


 この世界に鶴がいるかは分からないので、『鶴』という名前は伏せておく。

 私だけが意味を分かっていればそれでいいのだ。


「すごいわ! アーシェ! 四角い聖布からこんなのが出来るなんて!」

「確かにすごいな」



 ―――でも。私は致命的な失敗に気付いた。







お読みいただきありがとうございます。

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鶴は千年カメは万年・・・ ああっナボナ食べたくなってきた
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