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51 まほうとちいさなおじさまたち



 クリスフィア公爵の私を見る淡いアメジストの瞳がとっても優しい。


 この人がローディン叔父様の軍の上司なのだ。

 クリスフィア公爵は、これまで何度も戦地に赴いてきた。

 国王陛下と軍の指揮権を持つ公爵である、クリスフィア公爵、クリスティア公爵、王妃様のお父様のクリスウィン公爵、ローズ母様の義父であるクリステーア公爵は、ずっと先頭に立って軍を率いてきたのだ。

 何度も戦地に赴くクリスフィア公爵を、クリスフィア公爵の家族もみんな心配しているだろう。


 ―――クリスフィア公爵はとても強い。

 さっき寒大根を作る際に魔法を使った時、軽くやったように見えたけど、銀色と紫色の光が見えた。

 軽く、であの威力?! って驚いた。

 それに、最後のあたりは、一人で魔法の球体を操り、風と火と氷結と光の魔法を使ってやっていた。


『おひさまのひかりとねつで、こおっただいこんをとかしゅ』

 と、交代でひと休憩している時に、自然に任せて軒下で作る方法を話したら、それまで火の魔法の応用の熱で溶かしていたのを、クリスフィア公爵が『光』も含めてやり始めたのだ。


 『光』の魔法もあるんだ。と新発見した。

「四大属性全部使える上に、光魔法も使えるとかって。相変わらず規格外だよな~」

 とリンクさんが感心していた。


「おまえらだって四大属性全部の素質はあるはずだぞ。得意なのが2個くらいなだけで。バーティア先生に教えてもらってたんだろう?」

 クリスフィア公爵がいう『バーティア先生』とはひいおじい様のことだ。


「ええ。小さい頃の遊びと言えば、魔法だったので」

 遊びと称して、ひいおじい様は、孫であるローディン叔父様に魔法を教えていたらしい。

 元をたどれば、バーティア子爵家もデイン辺境伯家も王族や公爵、侯爵などの血が入っているのだ。

 魔力は血で受け継がれるため、様々な魔力が入っているとのことだ。

 けれど、魔力は使える種類が多いほど身体に負担がかかる。

 大抵の人は一つ。そして二つくらいが使いこなせる限界なんだそうだ。

 バーティア子爵家は、昔から魔力量が多く血筋的にも多種類の属性を持っている。デイン辺境伯家も同様。

 けれど、その中でも相性のいい属性二つくらいが身体に無理なくこなせるものらしい。

 もちろん、鍛錬していけば魔力量も増えるし、魔術陣を使いこなせれば四大属性全てを使うことも可能。

 また一属性しか使えない程魔力が少ない者でも、魔術陣を作ったり魔法道具を使うことで、魔力が不足していても他属性の力を使うことが出来るのだそうだ。



 ローディン叔父様は5歳で、2歳年上のリンクさんが7歳で、当時の神官長であったレント前神官長に一緒に魔力鑑定してもらった。

 血筋的にバーティア子爵家は風と火の使い手が多い。その例にもれず、ローディン叔父様にはそれが強く出たそうだ。その他の属性もある。近い血筋ではデイン伯爵家やマリウス侯爵家の血も入っているため水や土の属性も入っている。

 それと同じくリンクさんも水と風の属性に相性がいい。海辺のデイン領を代々受け継いできたデイン伯爵家は、水の魔法に特に親しんでおり、また風によって船を動かしてきた。

 デイン家所有の貿易船で嵐でも海難事故がないのは、デイン家の魔力が優れているからでもある。


 それでも、子供の頃はその能力を十分に使うことが出来ない。

 ひいおじい様は30年近く魔法学院の教師をしてきた人である。

 魔法の特性をよく知っていて、その使い方もよく熟知している方だ。


 けれど魔法は使う人間によって良くも悪くも作用する。

 簡単に言えば、魔力を犯罪に使う人間もいるのだ。ということだ。

 ―――暗殺者がいい例だ。


 『今となってはダリウスが魔法習得に意欲がなくてよかった。あいつが魔法を使えていればもっともっとこの家は面倒なことになっていたはずだ』

 と、この時ばかりは息子の怠惰さにひいおじい様が安堵したという。


 ―――話を戻そう。魔力のことをまとめると。


 つまり、適性があれば、鍛錬次第で魔力は開花する。

 魔力量が少なくても正確な魔術陣を作ったり、魔法道具の正しい使い方を習得すれば、十分に思い描いた魔法を使えるのだという。


 魔法学院で教鞭をとってきたディークひいおじい様は、いろいろな魔法を習得することで、将来の可能性を広げることが出来ると確信していた。


 それに四大属性を身に付けることで、身の安全は確保できる。

 一つの属性でも十分ではあるが、複数使いこなせればその確率は数倍に跳ね上がるのだ。

 孫であるローディン叔父様を確実に守るために、すべての属性を扱えるように教え込んだという。

 風や火は息をするように使いこなせるが、そうではない水や土の属性は、魔術陣を敷くことで補うように。

 長年の教師生活で手に入れたたくさんの魔法道具の使い方も、子供の頃からみっちりと教え込まれたそうだ。


 んん? そんなこと聞いたら、ローディン叔父様って、結構強いのでは?

 と思ったけど。


 リンクさんもホークさんも、そしてクリステーア公爵家のアーシュさんも同じくひいおじい様に幼いころから仕込まれたらしくて、『珍しいことではないよ』とローディン叔父様が言っていた。


 うーん。規格外な人がたくさん身近にいて感覚がマヒしているのではないだろうか。



 どんな訓練をしたか、聞いてみたら。


「一番初めに、真っ白い魔法の羽をもらったよ。風で動くのではなくて、魔力でしか動かないものだ」

「ああ。基本中の基本だな。風魔法の基礎だな。ただ動かすまでが大変なんだよな」

 リンクさんも同じことをやったらしい。


 ひいおじい様は、一番目に適性のある風魔法を教えてみようと、ローディン叔父様にふわふわの羽毛のついた真っ白い魔法の羽を与えた。

 ひいおじい様がやると、白い羽が虹色に光り、いとも簡単に鳥のように部屋中を飛び回る羽が、ローディン叔父様が手に取ると動かなくなる。

 なんど『動け!』と言っても念じても、動かない。

 しゅんとなった、ちいさなローディン叔父様に。


『ローディン。まずは自分の中の魔力を感じることに集中するんだ。そして、感じた魔力を体中に自在に巡らせられるようになれば、羽も動かせるようになるぞ』

 とひいおじい様が言ったそうだ。

 基本的にまじめなローディン叔父様は、地道に魔力を体中に巡らせる訓練をしたそうだ。


「魔力を巡らせるように、地道に練習したけど、何日も魔法の羽はまったく動かなかった。だが、三日目に執事が休憩用の飲み物をテーブルに置いた時に、テーブルの上の羽が執事の魔力の片鱗を感知して、急に舞い上がって―――執事の魔力が少なかった為なのか、すぐに力尽きて近くの暖炉の中に飛び込んでしまったんだよ」


「その時だな。風魔法を初めて使ったのは」

 羽が燃えてしまう! と思ったローディン叔父様は、その時初めて風魔法を使った。

 魔法の羽は普通の火では燃えないらしいけど、5歳だった幼いローディン叔父様はそんなことは知らなかった。


 力の加減が分からず、暖炉の火を消したはいいが、風の勢いが強くて、部屋中が灰だらけになったそうだ。


「ああ―――。おれも同じようなことやらかしたな」


 リンクさんもデイン伯爵家ではじめての魔法でやらかして、魔法学院の教職を辞めてバーティア子爵領にいたひいおじい様に、ホークさん共々、魔力操作を教えてもらうことにしたのだそうだ。

 デイン辺境伯領とバーティア子爵領は離れているため、リンクさんやホークさんもしばらくバーティア子爵家本邸で一緒に暮らしていたそうだ。


 特にローディン叔父様とリンクさんはずっと一緒にいて、いとこ同士が切磋琢磨してどんどん魔力が強くなっていくのと同時に、互いに認め合う親友同士になっていったとのことだ。

 年齢の違う二人が同時期に魔法学院に在籍していたのも、全寮制なら親友と一緒の方が楽しいからだということで―――まあ仲のいい証拠だ。


 バーティア子爵邸にデイン伯爵家の人間が頻繁に出入りする為、ダリウス前子爵による子爵家のさらなる借金の危機もおおかた防ぐことにもつながったらしい。


 同時期に、王都のデイン家別邸にいたデイン伯爵からの依頼で、クリステーア公爵家のアーシュさんもバーティア子爵家に来るようになり、ひいおじい様にアーシュさんも魔法操作を教えてもらっていたそうだ。


 実はアーシュさんは、それ以前からリヒャルトに狙われていたらしく、何度も襲撃を受けてケガをしていたとのこと。

 アーシュさんの護衛が瀕死の重傷を負うなど、笑い事では済まされない事態になっていた。

 まだその当時はクリステーア公爵夫妻も弟であるリヒャルトを疑いきれずにいた。

 ひとり息子の命の危険があるということに、ただただ不安だけが募っていた。


 王都にはそれぞれの貴族の別邸があり、特に重要な役割を持つ貴族は領地よりも王都の別邸にいる期間が多い。

 ホークさんとアーシュさんは、王都でよく一緒に遊ぶ幼なじみだったので、そのつながりでアーシュさんをバーティア子爵家に預けて魔力操作を教えてもらうことになったのだそうだ。


 クリステーア公爵夫妻がアーシュさんを連れてバーティア子爵家を訪れて、ディークひいおじい様に頭を下げてお願いしたそうだ。


 ―――他ならぬ『バーティア先生』であれば、アーシュを預けられます。

 私たち生徒に教えてくださったように、どうか息子のアーシュに身を守る術を。

 どうか、アーシュが持つ公爵家の高い能力を高めて、一日でも早く自分で自分の身を護ることが出来るように力をお貸しいただきたい―――とクリステーア公爵夫妻の強い願いがあったとのことだ。


 その当時、アーシュさんは12歳。

 それからアーシュさんはバーティア子爵家にしばらくの間住み込んで、ディークひいおじい様に魔力操作を教えてもらったということだ。


 そして、バーティア子爵家の周辺にもアーシュさんを狙っていた者たちはやはりやってきたらしい。が。

 ディークひいおじい様があらかじめ子爵家の周囲に施しておいた魔術で攪乱されて何が何だか分からなくなって、退散したらしい。

 そのままならず者たちをつけて行ったら、リヒャルトがアーシュさんを狙った黒幕だったことが分かったということだった。


 ―――そんなに昔からだったのか。

 たしかアーシュさんより10歳年上のはずだから、その当時リヒャルトは22歳。

 その歳で甥っ子を殺そうとするなんて。

 巨額な横領をするくらいだから、もともと性根が腐ってるんだと再確認した。



 そして、そのバーティア子爵家で、幼かったローズ母様とアーシュさんは出会ったらしい。



 ―――ということは、ローディン叔父様、リンクさん、ホークさん、アーシュさん、ローズ母様はバーティア子爵家で一緒に住んでいたことがあるということだよね。


 小さなローズ母様や、幼い頃の叔父様達が一緒にいるところを想像すると、すごく楽しそうだ。


 実際、ローズ母様もローディン叔父様やリンクさんも、懐かしそうに笑ってる。



 ―――それにしても。


 ひいおじい様はかっこいい。





お読みいただきありがとうございます。

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暗殺者を放ってたの確定した時点でどうにでも出来たんじゃ
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